【認知症徘徊】発見場所は「県内」が25.7%…万が一ご家族が行方不明になったときの探し方や対策を紹介
認知症徘徊の実態
行方不明者数の推移
2025年、日本は約800万人いる全ての「団塊の世代」(1947~1949年生まれ)が後期高齢者(75歳以上)となることで、国民の5人に1人が後期高齢者になる超高齢化社会を迎えます。
それに伴い、認知症の方の数も増加傾向にあります。「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」によると、2025年には65歳の5.4人に1人にあたる約675万人が認知症になると予測されています。
そんな中、問題となるのが認知症の症状による徘徊(ひとり歩き)です。
徘徊とは、認知症の方に表れる周辺症状の一つで、昼夜問わず、屋内や屋外をあてもなくうろうろ歩き回っているように見える行動ですをいいます。「目的もなくうろうろと歩き回っている」と誤解されがちですが、、認知症の方は、それぞれの目的があって動いていることが多いです。
ですが、途中で目的を失念してしまったり、帰り道が分からなくなったりして帰れなくなってしまうこともあります。交通事故にあったり、転んでケガをしてしまったり、遠くまで出かけて行方不明になってしまったりするケースも多いため、注意が必要です。
認知症の徘徊に起因する行方不明者数は年々増加しており、警察庁の調べによると、2022年の認知症高齢者の行方不明者数は1万8709人に上ります。これは、日本全国で毎日約51人の認知症高齢者が行方不明になっていることを意味します。
なお、その年の全行方不明者数は8万4910人(※年齢問わず)であり、実に22.0%が認知症によるものでした。
認知症行方不明者の確認状況を見ると、受理当日に確認された割合が77.5%、1週間以内に99.6%が所在確認されていることにも注目すべきでしょう。行方不明者全体と比較して早期に所在確認に至っているとも言えます。
認知症徘徊による行方不明者の発見・生存率
なお、認知症徘徊による行方不明者の発見・生存率は、時間の経過とともに低下します。
桜美林大学の研究によると、行方不明になった当日では約60%が発見されますが、3〜4日経過すると発見率は20%に下がります。さらに、5日以上経過すると、生存率は0%に近づくそうです。つまり、ご本人が行方不明になったら、すぐに対応することが必要です。
認知症徘徊者の発見者
愛知県警の調査によると、認知症徘徊の方を発見するのは一般の方が多いようです(41.5%)。
次いで警察が27.4%、家族・親族で6.1%、ケアマネや自治体職員が2.9%、そして見守りネットワーク協力者が2.7%でした。
意外にも、家族によって発見されることはあまり多くはないようです。
認知症徘徊者の発見場所
なお、認知症徘徊の場合、比較的遠い場所で発見されるケースが多いようです。
愛知県警のデータによると、認知症徘徊者が発見された場所として最も多いのは「市町村内よりは遠いが県内」で25.7%。次いで「普段行動する範囲よりは遠いが市町村内」と「近所よりは遠いがおよそ普段移動する範囲」が17.3%。「自宅の付近よりは遠いが近所」が13.3%、自宅敷地内が9.2%という結果でした。なお、「県外」で見つかったケースも3.3%あります。
認知症とはいえ身体能力に問題のない方の場合、かなり遠くまで出かけてしまうことが多いようです。
移動手段は7割以上が徒歩であった一方、自転車移動が103件(10.8%)、自家用車が67件(2.8%)と、ご本人がこれまでにも慣れ親しんできた移動手段を使うケースも散見されました。
認知症徘徊による行方不明者の移動手段
このように、認知症徘徊者の発見は時間が経ってしまうと生存率が大きく低下してしまうため、初動が大切な一方、遠方まで移動してしまっているケースも少なくありません。また、ご家族が行方不明者を見つけられたケースはあまり多くないこともデータに現れています。
だからこそ、ご家族が行方不明になってしまった場合、近隣を探しても見つからない場合は、すぐに警察や地域包括支援センター、担当ケアマネージャーなど、各所に連絡をすることが大切であるといえるでしょう。
徘徊はなぜ起こる?その要因と防止策
ここからは、徘徊について詳しく見ていきましょう。
徘徊症状は、認知症の初期症状でも発生する症状です。
行方不明になった方の要介護度を確認すると、4割以上が要介護度1以下の軽度の方です。14.6%は要介護認定未申請の方であり、いつでも起こりうる症状であるといえます。
認知症の症状の中でも、記憶障害と見当識障害が徘徊につながっています。
記憶障害とは、物事を覚えることができず、直近の出来事が抜け落ちてしまう症状のことです。通常の物忘れの場合、出来事自体は記憶しており、思い出す力が弱くなる症状ですが、認知症に起因する記憶障害では出来事自体の記憶が抜け落ちてしまいます。
また、見当識障害とは時間や場所など、自分の置かれている状況が正しく認識できなくなる障害のことです。まずは時間や日程を正しく把握できなくなるところから始まり、予定通りの行動ができなくなります。その後空間把握能力が低下し、方向感覚がわからなくなります。そして最後に人間関係がおぼつかなくなり、家族や身近な人との関係性があいまいになっていくのです。
徘徊はこのような記憶障害、見当識障害があることを前提に、次のようなきっかけから誘発されるとされています。
身体的要因
「空腹なので食べるものを買いに行きたい」「トイレに行きたい」といった生理的な欲求に起因して立ち上がったものの、途中で目的を忘れてしまうケースです。
身体的要因による徘徊については、周囲の人間がこまめに確認し、定期的に飲食をうながす、トイレに案内するなどの対応をすることによって解消できることもあります。
環境的要因
これまで暮らしていた自宅から病院や老人ホームなどの介護施設へ引っ越した場合、以前の住まいに帰ろうとすることがあります。時には、幼少期の記憶を思い出し、当時住んでいた実家に帰ろうとすることもあるそうです。
誰でも環境が変わることでストレスがかかりますが、認知症の方の場合はより一層注意が必要です。ご本人の症状を悪化させないためには、なるべく大きな環境の変化をさせない暮らしが必要になります。
心理的要因
日々の生活の中で感じる心理的ストレスも徘徊を誘発する要因のひとつです。
これまで普通に行えていたことができなくなったり、自分の認識と事実がずれていたりする認知症の方は、一般の方と比較してもストレスを感じやすい傾向にあります。
例えば、かつて会社に勤めていたころの状況に回帰してしまった方の場合、「出勤しなければ」といったような訴えを切り出されます。更に見当識障害によって自分の現状が把握できず、不安や焦りなどを感じると余計に混乱してしまい、本人も強いストレスを受け、徘徊に至るといったようなケースがあります。
この場合、本人の認識を否定してはいけません。まずはなぜその行動に至ったのかを伺ったうえで、ご本人の世界観を壊さないようにしながら「今日会社はお休みですよ」などと、ストレスを取り除くようなお声がけをするのがベストです。
なお、徘徊の予兆としては、以下のようなサインがあります。
家で落ち着きがなく、歩き回ったり、何かを繰り返すような動きがある 過去に行方不明になったことがあった 家にいても「帰宅」しようとしていた いつもの散歩や外出からの帰りが遅くなっている
これらのサインを見逃さず、早期に対応することが、徘徊を防ぐ上で重要です。
家族が気を付けたい…徘徊予防策
それでは、ご家族が認知症になってしまった場合、事前にどのような備えをしておくべきなのでしょうか。
見守りネットワークに登録しておく
まずは地域の見守りネットワークに登録しておくことがおすすめです。
各自治体では、認知症の方が行方不明になってしまった場合にその方の情報が通知される見守りネットワーク(※自治体によって名称が異なる)という対策法があります。
行方不明になる可能性のある方の名前や特徴、写真等の情報をあらかじめ登録しておくことで、万が一の場合には協力機関に一斉に情報が共有され、捜索を開始することが可能になります。
先述したように、認知症による行方不明者をご家族のみで見つけることは困難です。
また、見守りネットワークを利用した場合発見までに平均15.8時間、利用しない場合は43.0時間かかるというデータもあります。もしものときには地域の力を借りることを前提に準備をしておくようにしましょう。
本人の情報を整理しておく
行方不明になってしまった場合、本人の生活歴や行動パターンから、徘徊先の可能性が高い場所を徹底的に捜すことが重要です。以前の職場や故郷、よく歩いていたコースなどを整理しておき、万が一の場合は捜索チームと共有することが大きな助けとなります。
また、杖やシルバーカー、鞄、靴などの外見の情報も把握しておけば、捜索の際の目印になります。
徘徊に気づけるようにする
徘徊で問題になるのは、「知らない間に外出してしまった」という点です。
つまり、外出自体を止めることはできなくても、認知症の方が外出することに誰かしらが気づいて付き添うことができれば、最低限の対策となります。
ドアに開閉を知らせるブザーやアラーム、センサーをつけておくことで、一定の改善は見込めるでしょう。
GPS機器を活用する
GPS機器の活用も、有効な手段の一つです。持ち物に小型のGPS端末を取り付けることで、万が一の場合でも、スマホやPCからリアルタイムで位置情報を把握することができるため、早期発見が可能です。
ブレスレットや時計、靴など、自然な形で携帯できる製品が多く発売されているため、利用を検討してもよいかもしれません。
日常生活を充実させる
さらに、日中の活動を充実させることで、徘徊のリスクを下げることができます。
散歩や体操、音楽療法など、本人の興味や残存機能に合わせたプログラムを取り入れ、規則正しい生活リズムを作ることが重要です。昼間の活動量が足りないと、夜間になって起きだしてしまい、徘徊してしまうことがあります。ときにはご家族も一緒に昼間に散歩をするなどして生活習慣を整えることで、徘徊リスクを抑える効果もあるようです。
介護サービスを取り入れる
また、日中の活動量を担保するためにはデイサービスなどの介護サービスを利用するのもよいでしょう。
認知症に理解のあるスタッフが適切なアクティビティやケアを実施してくれます。
住環境を整える
居場所がわかりやすいよう、家の中の環境を整えることも有効です。
トイレや自室への目印をつけたり、家族の写真を飾ったりするのもよいアイデアです。昔なじみのある調度品を置くことで、懐かしさを感じ、落ち着ける空間を演出することもできます。
介護施設における認知症高齢者の徘徊対策
介護施設での徘徊リスクアセスメントの重要性と方法
介護施設では、入居者の安全確保が最優先課題の一つです。認知症高齢者の徘徊は、重大な事故につながるリスクがあるため、適切な対策が求められます。
徘徊対策を講じる上で重要なのが、リスクアセスメントです。国立長寿医療研究センターが開発したアセスメントツール「徘徊MAP」は、認知症高齢者の徘徊リスクを多角的に評価するためのチェックリストです。このツールを活用することで、徘徊の可能性が高い入居者を早期に発見し、個別の対応策を立てることができます。
具体的には、認知機能や身体機能、生活歴、徘徊歴などを詳細に評価し、リスクレベルを判定します。リスクが高いと判断された入居者に対しては、見守りの強化や環境調整など、きめ細やかな対応を行うことが求められます。
徘徊防止のための環境整備と介護スタッフの対応
介護施設における徘徊対策として、環境整備は欠かせません。建物の出入り口に施錠したり、フロアごとに仕切りを設けたりすることで、入居者の動線をコントロールすることができます。また、庭や中庭を設けることで、屋外に出たいという欲求を満たしつつ、安全に過ごせる空間を提供することもできます。
さらに、最新の技術を活用した見守りシステムの導入も効果的です。
ただし、こうした環境整備だけでは不十分です。日々の介護の中で、スタッフが入居者の様子を細やかに観察し、変化に気づくことが何より大切です。「いつもと様子が違う」「落ち着きがない」といったサインを見逃さず、速やかに対応することが求められます。
地域連携と家族支援の視点からの徘徊対策
介護施設だけでなく、地域全体で認知症高齢者の徘徊対策に取り組むことも重要です。警察や消防、地域包括支援センターなどの関係機関と連携し、行方不明者の早期発見・保護体制を整備することが求められます。
家族支援の視点も欠かせません。介護施設と家族が密に連携し、情報共有することで、入居者の状態変化を早期に把握することができます。さらに、家族自身が認知症への理解を深め、適切な対応方法を身につけることも重要です。介護施設が家族向けの勉強会を開催したり、相談窓口を設置したりすることで、家族の不安や負担を軽減することにつながります。