すき家、11年ぶりの値下げ概要と背景を解説!戦略の狙いと今後の展望とは
ゼンショーホールディングスが展開する牛丼チェーン「すき家」は、2025年9月4日から一部商品を11年ぶりに値下げしました。物価高騰が続く中で行う逆張り戦略は、顧客離れの防止や、離れた顧客の再来店による客数増加が期待されています。
本記事では、すき家が実施した値下げ内容と背景・牛丼業界の市場状況・戦略の狙いと経済的背景・外食業界へ与える影響と展望などについて解説します。
1. すき家値下げの概要と背景
すき家は、2025年9月4日から一部の商品を値下げし、新価格で提供しています。
ここでは、値下げの内容とその背景について解説します。
すき家が実施した11年ぶりの値下げ内容
すき家は、9月4日午前9時から一部商品の値下げを実施しました。今回の値下げは、2014年以来およそ11年ぶりです。
値下げ金額は10〜40円で、牛丼と牛皿など36商品が対象です。代表的な商品の値下げ後の価格は「牛丼並盛」が450円、「牛丼大盛」が650円、「牛皿並盛」は350円(全て税込み)で、それぞれ30円下がりました。(2025年8月28日時点の情報に基づく)
物価高騰下での「逆張り戦略」の意味
物価高騰が続き多くの企業が値上げに踏み切る中で行う値下げには、客離れを防ぐ狙いがあります。消費者の節約意識が強まる中「逆張り戦略」として値下げに踏み切ることで、先回りして顧客をつなぎとめる戦略です。
さらに、2025年3月に発覚した異物混入による客数減少からの回復も期待されています。新価格導入によって、1食当たりの利益は減少しますが、販売数を増加させることで全体の利益を確保する考えです。
また、すき家を運営するゼンショーホールディングスは「はま寿司」や「ココス」「なか卯」なども展開しています。グループ全体で食材調達や製造、物流の効率化によるコスト削減にも取り組んでいます。
このように、物価高騰下での逆張り値下げは、客離れ防止と販売数増加を狙った施策です。
異物混入事件が与えた売上・客数への影響
すき家では2025年1月に異物混入事件が発生し、3月に公表されました。その影響は長引いており、2025年8月の既存店客数は、前年同月比4.2%減少しています。これで、6カ月連続で既存店客数が前年割れしました。
また、第1四半期決算では、営業利益が前年同期比62億円減少し、7億円の営業赤字でした。
同社は、商品提供前の目視徹底や、ゴミ庫の冷蔵化など、再発防止策を実施しています。しかし、客離れが依然として回復していないため、客数の回復が課題とされており、今回の値下げが改善策として期待されています。
2. 牛丼業界の競争環境と市場状況
牛丼業界は「すき家」「吉野家」「松屋」の大手3社が売上高シェアの大半を占めると推計されています。ここでは、牛丼業界の市場規模、ゼンショーホールディングスの業績と市場シェアなどについて解説します。
大手3社(すき家・吉野家・松屋)の価格競争の現状
牛丼業界では「すき家」「吉野家」「松屋」の大手3社が市場占有率の大半を占めると推計されています。顧客の流出を防ぐため、各社は価格面での競争を続けています。
競争が激化する中で、各チェーンが設定している「牛丼並盛」の税込み価格は以下の通りです。
・すき家:450円
・吉野家:498円
・松 屋:460円
今回すき家が行った値下げに対して、競合2社は値下げを発表しておらず、大手3チェーンの中ですき家がもっとも安くなりました。(2025年8月28日時点の情報に基づく)
外食産業全体の市場規模と成長トレンド
日本フードサービス協会によると、2023年の外食産業における市場規模は、24兆1,512億円と推計されています。前年と比べると20.2%増加しており、2年連続で前年を上回りました。
成長した背景には、次のような要因が関係していると考えられています。
2023年5月に新型コロナの感染症法上の位置づけが「5類」に変更され人流が戻った
物価高騰に伴い商品の価格が改定された
2023年4月に入国制限が終了しインバウンド需要が復活した
実際に、日本政府観光局によると、2024年12月の訪日客数は約350万人であり、単月過去最高を更新しました。また、2024年の年間訪日客数は約3,690万人であり、年間過去最高を記録しています。
このように、インバウンド需要拡大や物価高騰が続いていることから、2025年も外食産業の市場規模は成長が続くと見込まれています。
ゼンショーホールディングスの業績と市場シェア
ゼンショーホールディングスの業績(2025年3月期)は、以下の通りです。
・売上高:1兆1,366億円(前年度比17.7%増)
・営業利益:約751億円(前年度比39.9%増)
・当期純利益:392億円(前年度比28.0%増)
このように業績を伸ばしており、2026年3月期も増収・増益が見込まれています。
また、2025年3月期の売上高は、国内外食企業として初めて1兆円を突破しました。国内外食業界で売上高トップを誇り、世界でもトップ10に入っています。
2022年の国内牛丼チェーンにおける売上高シェアは、以下の通りです。
・ゼンショーホールディングス(牛丼カテゴリー):2,621億円
・吉野家HD(吉野家事業):1,137億円
・松屋フーズホールディングス(牛めし定食事業):824億円
この結果からも、すき家が国内牛丼チェーンのトップを誇っていることがわかります。
また、2025年8月時点の国内店舗数は以下の通りで、店舗数でもすき家が首位です。
・すき家:1,977店舗
・吉野家:1,271店舗
・松 屋:1,134店舗
このように、すき家は売上高・店舗数ともに国内牛丼チェーンのトップの地位を築いています。
3. 値下げ戦略の狙いと経済的背景
ここでは、値下げ戦略の狙いと経済的背景について解説します。
消費者の節約志向と実質賃金の関係
消費者の節約志向は、名目賃金増加を物価上昇が上回る「実質賃金の低下」と関係しています。
実質賃金が下がると、消費者の購買力が低下し、収入が減ったように感じるため、節約志向が強まる傾向があります。その結果、無駄遣いを控えたり、安い商品や割引を意識した行動につながったりするのです。
近年は、名目賃金の増加が物価上昇に追い付かず、実質賃金の低下が続いています。2025年の実質賃金も1〜6月まで6カ月連続で前年比マイナスでした。本格的な消費回復には、持続的な賃上げによって実質賃金を増加させ、物価上昇とのバランスを取ることが必要です。
今回すき家が行った値下げは、実質賃金低下により安価な商品を求める消費者の心理的な抵抗を減らしたり、再来店のきっかけにつながったりする可能性があります。
価格弾力性を活用した客数回復戦略
価格弾力性とは、商品価格が変化した際に、需要がどの程度変化するのかを表す指標です。価格が少し変動するだけで需要が大きく変わるものは「価格弾力性が高い商品」とされます。
反対に、価格が変動しても需要が大きく変わらないものは「価格弾力性が低い商品」とされます。この特徴を踏まえて価格設定やキャンペーンを実施することで、売上や客数の増加を狙うのが、価格弾力性を活用した戦略です。
今回すき家が行った値下げでも、価格弾力性が高く、値下げによって需要の増加が見込まれる「並盛」「大盛」「ミニ」の価格を下げました。一方で価格弾力性が低く顧客離れが起きにくい「メガ」のような商品は、価格を据え置いています。
このように、価格弾力性を活用し、競争力を高める戦略が取り入れられています。
競合他社への影響と業界全体への波及効果
値下げ戦略は、競合他社にプレッシャーを与えるため、顧客流出を防ぐ目的で後に続く企業が現れると、価格競争が激化する可能性があります。さらに、業界全体で値下げ競争が進むと、全体的な価格の低下につながり収益性が悪化し、経営不振や倒産を招くおそれもあるのです。
そのため、過剰な値下げは持続的ではなく、価格以外の差別化を図ることが重要であるといわれています。
牛丼業界では、吉野家はブランド力や品質、松屋はお得感やメニューの多様性で差別化を進めていますが、すき家が行った値下げが他社の戦略に影響を与える可能性があるのです。
外食業界全体でも、値上げにプレッシャーを与え、価格据え置きや価格競争激化につながることが懸念されます。大手チェーンだけでなく、中小規模の飲食店の戦略にも波及する可能性が考えられます。
4. 今後の外食業界への影響と展望
外食業界は、価格戦略の変化を通じて重要な転機に差し掛かっています。ここでは、注目されている「ダイナミックプライシング」と呼ばれる価格戦略や、「メリハリ消費」による消費行動の変化などを踏まえて解説します。
価格戦略の変化が示す外食産業の転換点
外食業界では、コスト上昇や消費者ニーズの変化、人手不足といった課題に対応するため、価格戦略の見直しが進んでいます。物価高騰によって実質賃金が低下し、客離れが危惧される中で、コスト上昇分をどのように価格へ転嫁できるかが課題とされています。
注目されているのが「ダイナミックプライシング」です。これは、需要と供給に応じて価格を変動させる戦略であり、既に航空業界やホテル業界で広く導入されています。近年では、エンターテインメント業界や、フードデリバリー業界でも活用が始まっています。
外食業界でも、ワタミグループが展開する「鳥メロ」は深夜料金を導入し、「マクドナルド」は立地別料金を導入しました。しかし、飲食店は消費者が日常的に利用するサービスであるため、頻繁に価格が変動すると不満につながるおそれがあります。
また、外食業界は価格競争も激しく顧客が流出するリスクもあるため、ダイナミックプライシングの導入には難しさがあります。消費者の理解が欠かせないため、鳥メロやマクドナルドは、事前に告知し、理由を説明したうえで導入に踏み切りました。
このように、外食産業ではコスト上昇や人手不足、消費者ニーズの変化に対応するために、価格戦略の多様化が進んでいます。
消費者行動の変化と「メリハリ消費」の影響
「メリハリ消費」とは、日常的な食費や生活用品に関する支出を抑え低価格帯の商品を選ぶ一方で、趣味や娯楽においては高価格帯の商品やサービスを選ぶ消費行動を指します。
物価高騰が続く中での「節約疲れ」が、メリハリ消費につながっていると考えられています。「食料」は、メリハリ消費の対象として、支出割合が高まっている項目の1つです。
食料のうち「外食以外の食料」にかける支出は低下傾向にある一方で、「外食」に関する支出は増加傾向にあります。そのため外食業界では、日常的に利用する低価格帯の飲食店の需要増加に加えて、特別な機会に利用する高価格帯サービスに対する需要も高まっています。
すき家の値下げが外食業界に与える長期的な影響
すき家が行った値下げによって「牛丼並盛」の価格がもっとも安くなり、競合他社との競争が激化する可能性があります。外食業界全体においても、大手チェーンに限らず中小規模の飲食店を含めて、価格競争が広がるおそれがあります。
ただし、値下げ戦略は短期的な集客効果が期待できる一方で、長期的には利益率の低下や消費者の「安さ慣れ」につながるおそれがあるのです。そのため、外食業界全体では、価格以外の付加価値提供へのシフトが、持続的な成長に向けた課題とされます。
消費者ニーズに対応した健康志向メニューや高級食べ放題、インバウンド向けメニューなど、価格以外の付加価値提供による差別化が求められるでしょう。
まとめ
ゼンショーホールディングスが展開する牛丼チェーン「すき家」は、2025年9月4日から一部商品を11年ぶりに値下げしました。物価高騰が続き多くの企業が値上げに踏み切る中で行う値下げは、客離れを防ぎ、異物混入によって離れた顧客の再来店につなげる狙いがあります。
値下げ戦略は短期的な集客効果が期待できる一方で、長期的には業界全体の価格競争激化や利益率が低下を招くおそれがあります。今後の外食業界では、価格以外に付加価値をいかに提供できるかが持続的な成長の鍵となるでしょう。