ソーセージにドーナツ、民族音楽も─交流の花咲く「ポーランドフェスティバル2025」開催される【東京都港区】
ポーランドのアートや食文化に触れる「ポーランドフェスティバル2025」が、東京・六本木ヒルズアリーナで開催された。16回目を迎えた今年は、あいにくの雨模様にもかかわらず多くの来場者でにぎわい、ポーランドの多彩な食と文化を堪能する一日となった。
教科書の先にある“生きたポーランド”との出会い
「ポーランド」という国名を聞いて、すぐにその場所を地図で指し示せる人は、決して多くはないかもしれない。しかし、ポーランド人の名前は意外にも日本の教科書に登場する。「ピアノの詩人」ショパン、地動説を唱えたコペルニクス、二度のノーベル賞を受けたキュリー夫人、そして、ポーランド国内で絶大な人気を誇ったローマ教皇ヨハネ・パウロ2世。彼らの功績は記憶に刻まれていても、その背景にある国の暮らしや文化については、ほとんど知られていないのが現実だ。
だが、このフェスティバルはそんな“知識の断片”を実際に触れて味わえる場である。温かいビゴス(煮込みキャベツ)、芳醇(ほうじゅん)な香りを放つズブロッカ(ウォッカ)、プリッと弾ける食感のキェウバサ(ソーセージ)……雑貨ブースには可愛らしいポーランド陶器やパズル玩具などが並び、民族音楽の演奏がその空間に命を吹き込む。ポーランドという国の奥深さが、視覚・聴覚・味覚・嗅(きゅう)覚・触覚のすべてを通じて迫ってくる。机上の知識が、血の通った文化体験へと変わる瞬間が、そこかしこにあった。
雨をも溶かす熱気と笑顔
当日は朝からしとしとと雨が降り続いていたが、それでもどこからともなくあちこちから会場に人が集まってくる。とりわけ人だかりを集めていたのが、ポーランドの揚げドーナツ「ポンチキ」を販売する「ポンキチヤ」だ。1時間待ちの行列ができていたにもかかわらず(そして、日本人だろうがポーランド人だろうが)、その味を心待ちにしていた。
都心で味わう異国の音──ジャズとフォークの午後
特設ステージでは、Sabina & Theo Loop Actのポップスに始まり、Lemańczyk/Golicki/Sarnecki Trioによる本格ジャズ、Kirszenbaumによるフォークソングと、ジャンルを超えた演奏が続いた。
特にLemańczykらによるセッションでは、六本木という都会の真ん中にいながら、どこか東欧のジャズバーに迷い込んだような不思議な感覚を覚えた。
演奏の合間にはDJ Paulaの手によるミックス音楽が空間を包み込み、会場はまるで一つのリビングルームのような温かさに満ちていた。音楽が人と人との境界を溶かし、文化の距離を縮めていく──そんな実感をもたらすひとときであった。
物産展では終わらない、“交流”というぬくもり
会場を歩く中で強く感じたのは、このフェスティバルが単なる物販やフードイベントではないということだ。そこには、ポーランドを愛する人々の情熱があり、訪れた人々の好奇心があった。
出展者や参加者の口から飛び出すポーランド語と日本語、そして周囲に響く英語やドイツ語。さまざまな言語が交錯する光景は、まさに多文化共生の象徴であった。文化を伝えたいという側と、文化を知りたいと願う側。その思いが交わる場に立ち会うことができたのは、心に残る経験だった。
“遠い国”が、ほんの少し身近になる瞬間
「ポーランドフェスティバル2025」は、東欧の文化を気軽に楽しめる貴重な場であると同時に、自分の知らなかった世界への扉を開く体験でもあった。六本木という現代的な都市空間の中で、ポーランドという“遠い存在”が、ごく自然に生活の延長線上に現れた一日であった。
「ポーランドって、こんなにも魅力的だったのか」──そう思わせてくれる瞬間が、そこには確かにあった。来年の開催が、今からすでに待ち遠しい。