【甲斐さやか監督「徒花」】 横顔の連続。「2人の井浦新さん」の陰影
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリーで11月15日に上映が始まった甲斐さやか監督「徒花」を題材に。裾野市須山地区で撮影している。
「赤い雪 Red Snow」で2019年に長編監督デビューした、甲斐さやか監督の5年ぶり新作。未知のウイルスで人口が激減し、国連が上流階級にのみ自分の「クローン」の保有を許した未来世界。死が近づく新次(井浦新)と、臨床心理士のまほろ(水原希子)、治療のために人間へ提供される「もう一人の新次」の物語である。
自分が生き延びることは、誰かが滅びること。誰かの「価値」と、自分の「価値」を比較衡量すること。新次が当事者として思い悩む「問い」は、死を目前にした究極的な状況の当事者であるからこそだろうか。
相似形の「問い」が私たちの暮らしのあちこちに転がっていて、私たちは知らない間に「選択」している。何気ない決断を繰り返した先にある「幸せな生活」は、ある種の鈍感さがなければ享受できない物なのかもしれない。
アバンタイトルのシンメトリックなイメージが、物語の進行とともに徐々に壊れていく。白と黒、静と動。紅葉する森と無菌室のような部屋。対比的でスタイリッシュな表現が続く。井浦さん、水原さんの「横顔」のクローズアップが多い。特に井浦さんは、2人の人物の生活、思考、他者への考え方をほとんど横顔だけで演じ分けている。震撼した。(は)
<DATA>「徒花」県内の上映館。11月20日時点
静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区) 11月28日まで
シネマイーラ(浜松市中央区) 12月13日から
シネプラザサントムーン(清水町) 11月22日から