【能登から伝えたいこと】自然に打ちのめされて、自然に生かされている~「白米千枚田 愛耕会」堂下真紀子より~
2024年元日の北陸地方を突如襲った能登半島地震。特に能登半島ではその被害が大きく、住宅の傾斜、液状化など、町もそこにある暮らしも、以前と同じではなくなった。同年9月21日、今度は観測史上最大の豪雨が襲った。能登にはもちろん、いまもそこに住む人たちがいる。能登を少しずつ動かし続ける人たちがいる。彼らのメッセージを受け取って、能登のいまを知ってほしい。『旅の手帖』2024年11月号から、「白米千枚田愛耕会(しろよねせんまいだあいこうかい)」の堂下真紀子さんのお話をお送りします。
能登のいまを伝える人:堂下真紀子(どうしたまきこ)
石川県輪島市出身。千枚田の近くで生まれ育つ。関西や金沢で働いたのち、2020年に故郷にUターン。ライターやイラストレーターの仕事をしながら、「白米千枚田愛耕会」の広報としてX(@noto_senmiada)やInstagram(@senmaida_aikoukai)で活動を発信中。
自然に打ちのめされて、自然に生かされている
先人の汗と涙が染みついた人間味あふれるこの棚田の虜(とりこ)になり、キャリアの道から遠のき田舎に戻った。泥にまみれ稲を育て、ときにはカメラを手に、ときには催しも企画する。
そうこうしているうちに人生の伴侶まで田んぼで見つけてしまったものだから、地元では「あの子はとうとう千枚田と結婚した」などと噂されている。
私が所属する任意団体「白米千枚田愛耕会」は、千枚田の約半数の田んぼの耕作管理を行っている。「耕す」を「愛する」と書いて愛耕会。好きも嫌いも、生まれながらに耕すことが細胞に組み込まれているような諸先輩方から自然の掟(おきて)を学んでいる。
千枚田は一枚一枚が小さいため機械が入れず、作業はほぼ人力。面積の半分は畦(あぜ)や土手で、手間の割に穫れる量は少ない。この令和において、効率化や生産性とは無縁の世界だ。
しかし「機械は壊れるけど体は壊れんさけ」と笑いながら、労を惜しまず、まるで体の一部のようにクワやカマを操る諸先輩方を見ていると、大切なものがそこにある気がしてならない。
そんな逞(たくま)しい先輩方をも悩ませた今回の地震被害。至るところに深い亀裂が入り、田は折り重なって潰れ、田面は凸凹に歪んでいる。
私たちは雪解けを待って修復作業に取りかかった。家を失い、家族を失った会員もいる。それぞれに癒えない傷を抱えながら、遠方の避難先からでも作業に駆けつけた。
全身を動かし、めいっぱい汗をかく。ここにいる時だけは日常を感じられるとみな口々に言う。弱り果てた千枚田を癒やそうとして、自分たちが癒やされていることに気づく。自然と生きる能登では、こんな気持ちの振り幅をいつの時代も繰り返してきたのだろう。
震災後、全国からたくさんの支援が届いた。この希有(けう)な棚田がこれほどまでに愛されていたのかと驚く。
何年かかっても元気な姿に戻してあげたい。時代にそぐわない非効率な棚田から、発信すべきメッセージがまだまだたくさん残っているような気がするから。
文・写真・イラスト=堂下真紀子