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清瀬『まるすそば・うどん立ち食いセンター』で味わう本格下町立ち食いそば。飲食未経験から見事な一杯を作った深いそば愛

さんたつ

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2025年の3月、東京の郊外である清瀬に、新しく『まるすそば・うどん立ち食いセンター』という店がオープンした。駅から離れたロードサイドにできたこのお店、いざ行ってみると、なんとも立ち食いそば好きの心をくすぐる店だった。

まるすそば・うどん立ち食いセンター(マルスソバ・ウドンタチグイセンター)

清瀬で本格的な立ち食いそば

『まるすそば・うどん立ち食いセンター』があるのは、西武池袋線の清瀬駅から歩いて20分のけやき通り沿い。いわゆるロードサイド店だ。付近は緑も多く、のどかな雰囲気。清瀬の駅前には西武鉄道系の立ち食いそばチェーン『狭山そば』があるが、さすがにこの辺まで来ると、立ち食いそばどころか飲食店もほぼない。

思い切り武蔵野な店の周辺。

そんなところで、昔ながらの本格的な立ち食いそばが食べられるのだから驚いた。ツユをひと口すすると、かつおなどの節の香りがふわっと立ち、かえしの旨味が口いっぱいに広がっていく。今では少なくなってしまったが、下町の立ち食いそば店で味わえる、あの味なのだ。そばも立ち食いそばの定番、「むらめん」の田舎そばと、マニア心をくすぐってくる。

げそ天そば660円。デフォルトのかけでたっぷりのわかめが入る。

そしてなにより天ぷらだ。げそ天の衣は適度に厚く、ツユのしみ具合がちょうどいい。ふにゃっとした衣にかぶりつけば、げそはコリコリ。ツユと合わさったげその旨味もナイスバランス。最近の天ぷらは薄い衣でカラッと揚げたものが主流だが、これまた、うれしくなるようなあの味なのである。

けっこうなサイズのげそ天。
このツユがなかなか。

大満足の『まるす』のそば。しかし、最初はここまでの出来ではなかった。オープンして1週間ぐらいの時期に行ったのだが、やたらにしょっぱいばかりのツユだった。オープンしたてで味が落ち着いていないのだろうと、その2週間後に再訪すると、なんとツユが劇的に進化。かえしの角が取れてまろやかな味になっていた。そして3度めが今回の取材。ツユはさらに進化して、まったく文句のない出来になっていたのだ。驚くべき急成長!

介護職から立ち食いそばに転身

実は『まるす』の店主である林豊さんは、大の立ち食いそば好き。自分の好きな立ち食いそばの店をやるため、長年、続けてきた介護の会社を閉め、飲食未経験で『まるす』を始めた。

清瀬という地を選んだのは、自宅からの通いやすさと賃料の安さから。ここは以前ラーメン店だったそうで、居抜きで借りられることや、駐車場を備えているのも魅力だったという。せっかく店をやるなら街なかのほうがと聞いたのだが、林さんからは「初めてだったから、ここぐらいのほうが」と奥ゆかしい返事が返ってきた。

左は『駿河屋』さん。真ん中が林さん、右が正木さん。

しかし、そば店をやるのが夢だったとはいえ、1人ですべてをやるのは大変だ。林さんが開業時に誘ったのが、介護の仕事をずっと一緒にしていた正木純子さんで、現在はツユを担当している(林さんは天ぷら担当)。林さんと同様に飲食は未経験だったが、鰹節を仕入れている東久留米の鰹節問屋『駿河屋』さんの指導のもと、日々、改良に励んできた。正木さんの努力と『駿河屋』さんの協力で、『まるす』は劇的な進化を成し遂げたのである。

手作り感のある店内。

林さんと正木さんは、介護の仕事をしていた頃から、休みの日に都内の立ち食いそば店を食べ歩いていたという。日暮里の『一由そば』も好きだが、特に好きなのが東神田にある『そば千』だといえば、立ち食いそば好きはすべてを了解してくれるだろう。つまり、あの味を目指しているのだ。

立ち食いそばの名店『そば千』や『六文そば』を思わせる黄色いメニュー表。

「過酷」だけど「楽しい」

店やメニューを見れば、確かに「下町の立ち食いそば」が好きなのは明らかだ。黄色いメニュー表、春菊天、げそ天、ソーセージ天、にら天、納豆天というメニュー群。春菊天と紅生姜天、ごぼう天は半分で頼めるというのは『一由そば』流。もちろん、唐辛子は粗切りだ。立ち食いそばへの愛が、そこかしこに見られる。

立ち食いそば好きのツボをおさえたメニュー群。

「正直、パクリなんですよ」と林さんは苦笑いするが、そこにはちゃんと、立ち食いそばへの愛があるから大丈夫だ。『まるす』のそばを食べれば、そのことがちゃんとわかる。飲食は初めてということもあり、毎日「試行錯誤が続いて大変」だという。それでも林さんは「好きなことなんで、楽しいです」と笑っていた。

にら天そば540円は『よもだそば』インスパイアですね。

『まるす』から5分ほど歩くと、清瀬市役所がある。最近では立ち食いそば好きの職員が食べに来てくれているという。駐車場が用意されていることもあって、ドライバー客も増えてきた。オープンして間もないが、じょじょに認知されてきているのだ。

オープン間もない頃のそば。とり天ごぼう天で680円。見た目こそ今と違わないが……。

『まるす』のそばは、まだまだおいしくなりそうだ。清瀬の地で、この味がしっかりと根付くことを、いち立ち食いそばファンとして願う。

有名店になる日も近いか。ちなみに店名の「まるす」はペットの名前から。

まるすそば・うどん立ち食いセンター(マルスソバ・ウドンタチグイセンター)
住所:東京都清瀬市中里3-894/営業時間:5:00~14:30/定休日:木・日・祝/アクセス:西武鉄道池袋線清瀬駅から徒歩20分

取材・撮影・本文=本橋隆司

本橋隆司
大衆食ライター
1971年東京生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て2008年にフリーへ。ニュースサイトの編集をしながら、主に立ち食いそば、町パンなど、戦後大衆食の研究、執筆を続けている。

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