ミンククジラの歌声に関わる器官<喉頭嚢> 性成熟したオスのみで発達?
人を含む多くの哺乳類は、肺から送られてきた空気で声帯を振動させ、口腔で変調させることにより複雑な声色を作っています。
同じく哺乳類に属する鯨類は繁殖期のオスが歌を発することが知られていますが、水中で暮らす鯨類は空気の利用に制限があり、同様の発声メカニズムによる長時間の発声は困難だそうです。
そのような中、東京海洋大学の研究チームは調査捕鯨により日本近海で収集されたミンククジラを調査。喉頭嚢が共鳴や変調に重要な役割を果たしている可能性を示しました。
この研究結果は『The Anatomical Record』に掲載れています(論文タイトル:Discovery of sexual dimorphism of the laryngeal sac in the common minke whale(Balaenoptera acutorostrata))。
クジラの歌声
我々ヒトを含む多くの哺乳類では、肺から送られてきた空気により声帯を振動させ、それを口腔で変調させることにより複雑な声色を作り出しています。
海棲哺乳類である鯨類においても、歌声を発する種の存在が知られてますが、水中では空気の利用に制限が多く陸上の哺乳類と同様の発声メカニズムでは長時間の発声や音の操作が困難だそうです。
音の共鳴や変調に関与する機関「咽頭嚢」
しかし、鯨類にはこれらの問題を解決する器官が存在します。
それが「喉頭嚢(こうとうのう)」です。この器官はヒゲクジラ類の喉の空気の通り道にある袋状の構造であり、声帯に相当する部分に隣接しています。
東京海洋大学の中村玄准教授を中心とした研究チームは、調査捕鯨により日本近海で収集されたミンククジラ Balaenoptera acutorostrata 61頭(メス40頭、オス21頭)の喉頭を解剖学的に調査。
この研究により、喉頭嚢が音の共鳴や変調に関与し、ヒトでいう舌や口腔のような働きをしている可能性が示されました。
喉頭嚢は成熟したオスのみで発達
さらに、今回の研究では、ミンククジラの喉頭嚢で明瞭な性的二型があることも明らかになっています。
喉頭の解剖学的な調査の結果、性成熟したオスでは喉頭嚢が体積、筋肉の厚さ・深さ・重量のいずれも著しく発達していることが判明。一方、メスや未成熟のオスでは、このような発達が見られなかったようです。
また、喉頭嚢の発達は、精巣重量と強く相関していることも明らかになりました。
これらのことは喉頭嚢が性的二型的な構造であると同時に、オスが魅力的な歌を歌うための重要なものであることを意味しています。
鯨類の発声メカニズム解明に期待
今回の研究では喉頭嚢がヒトの舌や口腔のように機能し、オスのみが繫殖期に発する歌を作り出す重要な構造である可能性が示唆されました。
この研究結果は複雑な鯨類の発声メカニズムを解明する基盤となるほか、将来的に解剖学的知見と音響観察をつなぐことにより、鯨類の保全や生態解明への応用が期待されています。
(サカナト編集部)