習い事でトラブル続出!練習にも集中できない発達障害息子。周囲への配慮と親の精神的負担、どうする?
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
スポーツ少年団へ入部した私たち
小学校に入学する頃、タクはとてもヤンチャで常に動き回っていました。楽しいことに夢中になると、指示が耳に入らなくなって勝手な行動をしてしまう。当時はまだ気が付かなかったけど、タクはADHD(注意欠如多動症)の多動の特徴が強く出ていました。体力が有り余っているようだったので、「何かスポーツをやらせた方がいい」と周りの知り合いや先生に言われていました。
私たちが選んだのは、当時熱心に新規部員募集をしていた地元のスポーツ少年団でした。うちのヤンチャ坊主が入って、チームに迷惑かけてしまうんじゃ……と心配する気持ちもありましたが、タクの強い希望と勧誘に心を動かされ入部しました。
スポーツは心と身体を鍛えてくれる。今は自分勝手に動いてしまっているタクだけど、ルールや規律を学んで成長してくれるだろう。スポーツを通して少しでも落ち着いてくれたらいいなと期待を込めて、習い事を始めることにしました。
入部してからしばらくは、新しい環境で身体を動かす楽しさを思う存分味わっていました。不器用ながらに必死に練習する姿を見て、集団に溶け込んでいるように見えました。
練習中でも自分勝手に遊んでしまう姿に不安
しばらくすると、タクのマイペースぶりが気になり始めました。注意散漫で監督の指示を聞かずに、自分のやりたい遊びやグラウンドで砂遊びや石探しを始めてしまう……。小学生に入学したばかりとはいえ、このままチームにタクを任せていたら、全体に迷惑をかけてしまうかもしれない。私はグラウンドの近くで常に練習を見学するようにしました。私が見ている前では、少しは多動が落ち着いているようでした。周りの子は親がいなくてもちゃんと練習に参加しているのにな……と気持ちがモヤモヤすることもありました。同時期に入部した同級生が、的確に指示通りに動いたり先読みして行動できる姿を見る事も、どうしても精神的負担に感じてしまいました。
下調べが甘かったのが悔やまれますが、私たちが入ったチームは、お茶当番や送迎やコーチへのおもてなしなど、一般的なチームよりも保護者持ち回りの仕事が多かった印象です。それでもわが子が望んで入ったチームですし、私はできる限り練習に参加したりサポートを頑張りました。タクも少しずつですが練習についていけるようになり、その頃の私は「どうにか周りと同じように普通に過ごしてほしい」と強く思っていたので、タクの成長がとてもうれしくて多少のストレスは感じないように意識していました。
合わない環境で無理に続けた習い事…私の心には傷が残り
チームの保護者の役割や練習の見守りなど、私なりに頑張ってきましたが……やはりタクの注意欠如と多動の特性がだんだん目立ち始めました。練習の切り替えが一人だけ遅い、試合中にボーッとしてしまって失点する。そんな事が続き周りからの目も厳しくなっていき、チームを辞めることになりました。タク本人はまだまだ続ける気でいたようですが、チームも私も限界でした。悔しい思いも悲しい思いもたくさんしましたが、今となっては無理に続けなかったのは正解だったと思います。
習い事にも向き不向きがあり、合わないかも?と思う環境で長い間過ごすのはつらいものです。そして、保護者が健全な精神で応援できなければ本末転倒になってしまいます。また、本人が楽しんで過ごせているかに加えて、周りの子や先生に過度な負担を強いていないかなど、いろいろな角度から見て考えてみることも大切だと思います。一度始めた習い事を辞めるのは気が引けるかもしれませんが、つらかったら辞めてもいい。続けることで得られるものは確かにあるけど、デメリットのほうが大きくなったと思ったら甘えかなと思わずに環境を変えるのも大切ではないでしょうか。
やってみたい!ダンスとの出合いが転機に
タクがスポーツ少年団を辞めてからは、週末に家族で過ごす時間が生まれました。今まで休日返上で習い事中心の生活だったので、いろいろな所にでかけたり自由に過ごせたりすることにすごく感動したのを覚えています。
しかし、うちのタクは身体を動かすのが大好きで体力が有り余っている様子。放課後等デイサービスにも通っていましたが、夕方に帰宅してからも落ち着かず、「今からランニングしたい!」と言うほどでした。何かほかの習い事を始めてみるべきか……でも集団スポーツは向いていないと言われてしまったから……タクのフラストレーションをどうにか解消できる方法がないかと模索していました。
転機になったのは、家族でショッピングモールに出かけた時のこと。その日はイベントが開催されていて、近くのダンス教室の子たちがステージでダンスを踊っていました。大きな音の中でそれぞれが自由に身体を動かしたり同じ動きをしたりする姿に、タクは目を奪われていました。ステージを見終わったあと、私の予想通りタクは「ダンスやってみたい!」と言ってきました。
ダンスだったら団体競技でありながら個人の練習も重要。協調運動の上達にも繋がるし、これなら向いてるんじゃないのかな?と思うことができました。習い事に対して少し恐怖心を持っていた私でしたが、タクの熱意を感じ取り、その場でダンス教室の先生と少しお話しをしてパンフレットを頂きました。
合う環境が人生を輝かせる!
その後、教室の情報や利用者の声などをしっかり調べてダンス教室の体験に参加しました。先生とも個別に話すことができて、タクの発達障害のことを打ち明けると「ほかにも特別支援学級に在籍している子がいるし、少人数制なので心配しないで大丈夫ですよ」と心強い返事を頂きました。
そして、夫婦で熟考しダンスを習い始めることに。ダンスはとても向いていたようで、自宅での自主練習も熱心にやっていました。地域のイベントステージや年に一度の大きな発表会では、一生懸命取り組みチームの絆を感じる大切な思い出もつくれました。タクにはダンスが合っていたんだなぁ……としみじみと感じました。
私の経験からですが、チームスポーツをやってみたいけれど不安がある場合は、まず少人数の教室で体験して大人数の中での立ち振る舞いを覚えていくとうまくいきやすい気がします。ほかにもオンラインの習い事など、今の時代だからこそたくさんの選択肢があります。親子がポジティブな気持ちで続けられるかどうかを大切にできると良いと思います。
ダンス教室は残念ながら閉校してしまい今は辞めてしまいましたが、中学になってからは部活の卓球に熱中しています。卓球もほぼ個人スポーツなのでタクには向いているようで、なかなかの腕前です。わが子が何かに熱中している姿は、とっても輝いて見えます。
執筆/もっつん
(監修:室伏先生より)
もっつんさん、スポーツ少年団でのタクくんの頑張りともっつんさんの葛藤、ダンス教室でのタクくんのご様子など、詳しく共有してくださり、ありがとうございました。もっつんさんのおっしゃる通り、習い事は親子ともにポジティブな気持ちで続けられることがとても重要ですよね。発達障害のあるお子さんは、学校でもとても頑張られていることが多いですので、お子さんの負担になりすぎないよう、気持ちの状態や疲れ具合に応じて、休憩を取ったり、頻度を調整したりしながら、無理なく続けられる環境があると安心ですね。また、学童期は周りのお子さんとご自身を比較する力がぐんと伸びる時期です。自己嫌悪に陥ったり、自己肯定感の低下につながることもありますので、ポジティブなフィードバックを与えてくれて、お子さんが楽しめる環境で、成長を支援できると良いですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。