【ハゼのさばき方】プロは“目打ち”を使っていた 面倒な背開きが簡単になる料理人の裏ワザ
ハゼ釣りの情報が集まる投稿サイト『ハゼ釣り情報局』。会員数が多い東京下町メンバーの中でも、初夏からハゼ釣り情報の投稿を始め、なんと桜が咲くまで投稿しているのが土屋学さんだ。そんな土屋さんにはまだ情報局には投稿していないある情報があった。それがハゼの料理法、目打ちだ。
写真と文◎編集部
ハゼの目打ちの極意
1962年に江戸川区で生まれ育ち、現在は墨田区在住の土屋学さんも『ハゼ釣り情報局』の主要メンバーのひとりである。墨田区の自宅からは徒歩圏内に横十間川があり、小名木川があり、周年アオイソメの量り売りでハゼ釣りファンから人気のキャスティング錦糸町店があるという恵まれた環境。
「しかも私は公営ギャンブルも少し嗜みますから、たまらない環境です(笑)。ちょっと前に馬鹿ヅキして、それで電チャリ(電動アシスト付き自転車)を買いまして、さらに釣行頻度が増しましたね。涼しくなったら行動範囲も広げる予定です」そう言って日陰で涼しそうに和ザオでハゼを掛けていく土屋さん。
「最寄りの釣り場は横十間川の猿江恩賜公園側なんですが、そっちは朝からモロに陽射しを浴びます。だから夏の間は公園より上流のココが指定席」その指定席は首都高速7号小松川線の直下にあった。隅田川と旧中川を東西に結ぶ堅川を埋めて造設された堅川河川敷公園の東端が、南北に走る横十間川に交差する旧亀島橋のたもと。太陽がどの角度にあっても常に日陰があること、ハゼがとても多いこと、愛用の竿辰の八尺ザオが使いやすいことから、休日はもちろん、仕事の前の数時間だけでもサオをだすという。
堅川河川敷公園西端の横十間川に面した日陰が土屋さんの夏の定番ポイント
目打ちすることで大量の魚をスピーディーに捌ける
そんな土屋さんは幼少の頃より父親の自転車の後ろに乗り、ハゼ、フナ、クチボソ、タナゴ、ウナギ釣りを覚え、その後は乗合船でタチウオ、アジ、カワハギ釣りを楽しみ、現在は再びハゼやウナギ釣りを楽しんでいる。
「釣り好き、料理好きの親父の影響を大きく受けています。親父に頼まれてゴカイをたくさん掘って親父やその釣り仲間からお小遣いを貰って、それで親父たちが釣ってきたハゼやウナギも親父の見よう見まねで捌いてましたから」
そして成人してからは料理の道へ進む。丸ビルの中の繁盛店で修業し、その後、自身の焼き鳥店を錦糸町で開業。仕入れと称して大好きな沖釣りに行くこともあれば、近所の川で釣ったハゼを天ぷらにしたり、南蛮漬けをお通しで提供することもあったという。
「南蛮漬けは『こんな辛いの食べたことがない。けど旨くて酒が止まらない』っていつも楽しみに来る常連さんも多かったよ」そう話す土屋さんだが、普段の釣り、特に夏場はたいてい釣ったハゼは元気なうちにリリースする。
「ハゼは美味しいし、料理をするのも食べるのも好きだけど、やっぱり自分の中ではお客さんにたくさん出す魚というイメージ。だから、大量の魚を一気にスピーディーに捌く必要がある。だから目打ちが必要なんです」
目打ちといえばウナギを捌く際に欠かせない調理器具だが、土屋さんによれば「ハゼもウナギほどではないけれどヌルがあるから絶対にあったほうがいい」とのこと。以前はウナギ用の目打ちを使用していたが、今は商売をしていないのでピックで代用している。
天ぷらに最適な「背開き」は目打ちで簡単に
「まだ7月だからハゼが小さいね」そう言って、朝の2時間で30尾ほど釣り、そのうちの5尾は天ぷらにできそうなサイズだった。
「目打ちはまな板の上で腹を向こうに魚を置いて背開きにするのに便利なんです。江戸前の天ぷらは背開きが基本ですから。だからシロギスの天ぷらも私は目打ちでやりますよ」
手順は下記の見出しを参照してもらうとして、やってみれば目打ちの効能を実感するはずだ。いつもなら魚が動かないように左手を添えるが、目打ちすれば魚が動かないことから、左手は魚を抑えるのではなく右手の包丁の動きのサポートに使えるためだ。
音にすると「トン」「ギュッ」「キュー」。胸ビレの後ろに「トン」と切れ込みを入れるやいなや、その切れ目に入れた刃の向きを変え「ギュッ」と背側に切れ込みを入れたら、刃で背骨の感触を確かめながら、一気に尾側へ「キュー」と刃を滑らせる。開いたあとも魚が動かないので背骨をすくい取るのが楽なのだ。
目打ちの手順
以前はウナギ捌き用の目打ちを使っていたが、現在はアイスピックで代用。まな板にはあらかじめ目打ち用の穴を空けておく。
目の下の頬のあたりにピックを刺してから目打ち用の穴で固定したら、胸ビレの付け根から「トン」と軽く包丁を入れる。
切れ目から包丁を入れたら刃の向きを変え「ギュッ」と背側に切れ込みを入れる。
刃で背骨の感触を確かめながら、一気に尾側へ「キュー」と刃を滑らせる。
背開きにした状態。ここから三枚おろしにして皮を引けば刺身や糸造りにも応用できる。
残った背骨をすき取る際も左手で魚を抑えなくてもいいのでやりやすい。
頭部を落としたら逆さ包丁にして腹骨および腹膜をすき取る。「しっかり腹骨と腹膜を取ろうとするとかえって身がぐちゃぐちゃになりますから軽くでいいです」
小麦粉を冷たい水で溶いてハゼを入れる。180度に熱したサラダ油できつね色になるまで両面を揚げて完成。
ハゼの天ぷら
ハゼの空揚げのマジ辛南蛮漬け
もうひとつの夏メニューは青トウガラシたっぷりのピリ辛ならぬマジ辛南蛮漬け。
「今は居酒屋ではなく介護施設の料理を作る仕事をしています。そんなところで出せない辛さですが、酒のつまみには最高ですよ」
辛いタレをハゼの上にかけてもいいが、タレの中にハゼをどっぷりと漬け込んでしまうのがおすすめ。
「1日目より2日目、2日目より3日目のほうが味も沁み込んで美味しいです。辛いのが苦手な方は青トウガラシの量を減らすか鷹の爪にするなどしてみてください」
そしてあとひと月もすれば"目打ちサイズ"もとい"天ぷらサイズ"が釣れるようになるだろう。
ハゼの空揚げのマジ辛南蛮漬け
マジ辛南蛮漬けの作り方
中小型のハゼは目打ちをせず、ウロコを引いたら腹を上にして腹ビレごと頭を落とす。
切っ先を使って内臓を引き出す。
汚れを水洗いしてから水気を拭き取る。
小麦粉を全体にまぶして180度に熱した油できつね色になるまで揚げる。
揚げたハゼをタレに浸す。タレの比率は水2:寿司酢1:白だし1。水180cc、寿司酢90cc、白だし90ccなら上白糖を大さじ1を入れてよく混ぜる。具は紫タマネギのスライス、ニンジンの細切りを塩もみして20分寝かせたのち水洗い。ピーマン細切り、細かく切り刻んだ青トウガラシ3本を追加。辛さは量や鷹の爪にするなどで対応。
※このページは『つり人 2025年10月号』を再編集したものです。