夏バテじゃなく“心の不調”かも。「責任感の強い人」ほど気を付けたいメンタル不調【産業医に教わる】
外科医として10年間勤務の後、現在は産業医として1万人のビジネスパーソンの面談を担ってきた武神健之さんは、産業医界のトップとして活動中。 今回は女性に多い「メンタル不調に陥りやすいタイプ」や「産業医との面談」について伺った。
お話を伺ったのは……武神健之(たけがみけんじ)さん
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。帰国子女である経歴と語学を活かし、主に外資系企業の産業医としてキャリアをスタート。ドイツ銀行グループ、バンク・オブ・アメリカ、BMWグループなど年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。
趣味は筋トレ、ハンドパン演奏。月に15~20回も通うサウナーでもある。
産業医とは
産業医は主治医とは異なり直接患者の治療は行わず、職場環境を理解して面談を行い労働者の心身が健康な状態を保てるように支援をする役割を担っている。
常時50名以上の労働者を使用する企業は産業医を選任することが、厚生労働省により定められている。
職場において労働者の健康管理等を効果的に行うためには、医学に関
する専門的な知識が不可欠なことから、常時 50 人以上の労働者を使用す
る事業場においては、事業者は、産業医を選任し、労働者の健康管
理等を行わせなければならないこととなっています。
産業医を選任することで・・
・労働者の健康管理に役立ちます
・衛生教育などを通じ職場の健康意識が向上します。
・職場における作業環境の管理などについて助言が受けられます。
→ 健康で活力ある職場づくりに大きく役立ちます。
出典: 厚生労働省 www.mhlw.go.jp
1万人以上のビジネスパーソンと面談を行い、さまざまなケースで起こる心身の不調に寄り添ってきた武神さんに、最も多い病気やメンタル不調に陥りやすい性格、産業医との面談などについてお聞きした。
特に目立つのは「適応障害」
武神さんが関わった中で1番多いのは適応障害だそうだ。
「適応障害は、メンタルだけではなく身体にも不調が出ます。異動で全く経験のない業務に就いたり上司が変わったタイミングで体調不良が続いている場合が多いです。環境を変えれば症状は軽減するので、会社に行かないこと、休職自体が治療に効果的です。投薬しなくても回復することも多いです」とのこと。
適応障害の症状は倦怠感、眠気、めまいなど多岐にわたるため、単なる夏バテや疲れと見逃されることも多いそうだ。職場での異動や引っ越しなど環境が変わったタイミングで不調を感じている場合は要注意。
メンタル不調に陥りやすいのは?
とはいえ、同じ上司の部下の全員が適応障害になるわけではない。となると、相性はもちろんだが個人の性格も影響するのでは? と思い尋ねてみた。
責任感の強いひと
「日本ではまだ個人の意見より集団を優先するべきだとか、頑張るとか耐えることを美徳とする考えが残っていますよね。それに加えて誰かに相談したらわがままだと思われやしないかと心配でひとりで抱え込んでしまう……適応障害の患者さんは真面目で責任感が強い人が多いようです」
相談とまではいかなくても、人に話すことでストレス解消ができることは、多くの人が自覚している。しかしメンタルヘルスに支障をきたすと「誰かとランチに行くこと」が億劫になったり、友だちと会う機会を作ることすら負担になってしまうのだとか。これを社会性の喪失と言うそうだ。
最初の面談では
そんな状態の人が産業医の面談を受けるのはハードルが高そうだが、武神さんは「最初は原因を聞きません。プライベートで悲しい別れがあったとかは別として、ほとんどの場合は仕事とその環境が原因ですから。ここに来るまでにご本人は充分原因も理解して対処もしているんです。それでも心身が対応できなくなってしまった……ということは分かっているので、気持ちを楽に持って相談に来てもらいたいですね。」
「区切る」ことの大切さ
そしてストレスを感じたときの対処についてこう続ける「イヤな上司がいてそれがストレスだとすると、翌日にあるミーティングのことを考えると前の夜からビクビクしてしまうかもしれません。会社にいない時間にもビクビクしているのは本当はもったいないんですよ。だから好きなこと、趣味を意識的に持つのがいいと思うんです。僕の言葉で言うと『区切る』っていうんですが、手を動かして何かを作ったり、筋トレや楽器に没頭している時間は忘れられる。集中できること、楽しめることを生活の中に取り入れることを薦めています。」
休職のススメ
倦怠感や食欲不振、集中力が無い日々が続いていたり、なかなか人と話す機会も得られない場合は、メンタル不調を疑って受診してみるのもいい。身体の不調のために内科などかかりつけ医に行くと、症状によっては心療内科やカウンセリングを薦められることもあるそうだ。
武神さんは著書「休職と復職の教科書」の前書きの中ででこんなメッセージを送っている。
……不調になっても、安心して「休む」選択肢をとれるようになるための本です。自分の不調を受け入れ、向き合い、うまく制度を利用すれば、適切な「休職」は、むしろあなたの未来のキャリアを守る選択なのです……
「暑さで夏バテなのよ」「ちょっと疲れがたまっていて」そう思い込いこんでいた不調が、実はメンタル不調の前触れかも!?
誰かに相談する、没頭できる趣味を持つこと、に加えて自分のキャリアを守るために「休職する」という選択肢も1つ増やして、未来の自分を優しく守れる今の自分でいよう。
未来のキャリアを守る 休職と復職の教科書:https://amzn.to/4h3e3j8
みやむらけいこ/ライター