日本の伝統医学「漢方」。検査によって病状を発見する西洋医学との違いは?【生薬と漢方薬の事典】
漢方の基本
遣隋使、遣唐使以来、日本にもたらされた中国の医学が、日本で独自に発展を遂げたのが漢方医学です。漢方薬のほか、鍼灸や食養(薬膳)なども含む医学で、漢方医学、東洋医学ともいわれています。
日本独自の医学
漢方は日本の伝統医学です。中国で生まれた医学理論や薬学を基礎にしていますが、984年、日本人にあわせて中国の医書を引用した日本最古の医書『医心方』が編纂されるなど、日本の風土や日本人の体質にあわせ独自の発展を遂げてきました。時代が下って、室町時代の僧侶・医師である田代三喜は当時最新の医学を明で学び、日本に伝えたといわれています。その弟子の曲直瀬道三は日本の漢方医学の中興の祖となりました。その後、江戸時代の鎖国によって、古方派が台頭するなど独自性が強められ、現在の中国の伝統医学とは異なるものになっています。
江戸時代の末期に入ってきた西洋医学(オランダ医学)を「蘭方」と呼んだことから、「漢方」と呼ばれるようになったとされます。
西洋医学との違い
漢方と西洋医学では、基本となる概念や診断、治療の方法が違います。さまざまな検査で病気の原因を分析していく西洋医学に対し、漢方では、全体のバランスを考えます。主訴のほかにあらわれている複数の症状を集めながら、その人の総合的な状態(証)を探ります。
西洋医学では専門科が細分化されていますが、漢方では心も体もひとつのものととらえるので、内科の症状でも精神科の症状でも区別せずに診察ができます。検査をしても異常のない体調不良の改善などは、全体のバランスをとろうとする漢方の得意とするものです。
また、西洋医学では、同じ病気であれば基本的に同じ治療が行われますが、その人の状態にあわせた治療を行う漢方では、同じ病気であっても違う薬が処方されることがよくあります。ひとつの漢方薬が違う症状に用いられることもあります。
証を見極めるための四診
治療、処方を選択する判断材料となるのは、複数の症状を集め、その人の状態をあらわした「証」といわれるもの。証を立てるための情報は、五感のみを使って行う次の4つの診察方法「四診」によって集められ、虚・実など、漢方独自の病態に結びつけられます。
望診…視覚を使った診察で、外観全体の印象を診ます。舌を診る舌診も望診の一種です。聞診…聴覚と嗅覚を使い、声の調子・大きさ・かすれ、口臭、体臭、せき、痰のからみなどを診ます。問診…聴覚を使い、症状をはじめ、普段の生活の様子などを詳細に聞きとります。切診…手の触覚を使い、脈診や、腹部を触って、張りや抵抗などを診る腹診を行います。
検査機器もない時代から行われてきた漢方の診断治療学は、長い年月をかけて膨大な症例の経験を積み上げて形成されたものです。
【出典】『生薬と漢方薬の事典』著:田中耕一郎