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現代マイセンを彩る巨匠 ― 泉屋博古館東京「ハインツ・ヴェルナーの描いた物語」(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

ヨーロッパを代表する名窯として300年以上の歴史を誇るマイセン。その歩みは18世紀、ドイツ・ザクセン州の古都マイセンで始まりました。ザクセン選帝侯アウグスト強王の命によりヨーロッパで初めて硬質磁器の焼成に成功し、以降は王侯貴族を魅了する数々の名品を生み出してきました。

戦後のマイセンを牽引した絵付師の巨匠、ハインツ・ヴェルナー(1928-2019)に焦点を当て、彼が生み出した多彩な作品群を通して、現代に息づくマイセン磁器の美と創造の精神に出会うことができる展覧会が、泉屋博古館東京で開催中です。


泉屋博古館東京「特別展 ハインツ・ヴェルナーの描いた物語 ―現代マイセンの磁器芸術―」会場入口


展覧会はプロローグ「名窯の誕生」から。1710年、東洋磁器を愛したアウグスト強王がマイセンに王立磁器製作所を創設。良質なカオリンによりヨーロッパ初の硬質磁器を実現し、柿右衛門様式やシノワズリを取り入れて、西洋と東洋が融合した独自の様式を築きました。

《色絵柴垣松梅鳥図ティーセット》は、松や梅、鳥を描いた柿右衛門様式の写しで、マイセンを代表する「インド文様」シリーズの一つ。花の蕾を飾った蓋や金彩が、優美な趣を添えています。


《色絵柴垣松梅鳥図ティーセット》1980年代 マイセン 愛知県陶磁美術館


第1章は「磁器芸術の芽吹き」。1928年、マイセン近郊コズヴィッヒに生まれたハインツ・ヴェルナーは、15歳で伝統ある養成学校に入学。厳しい教育を受けながら才能を認められ、1950年代には早くも絵付師として頭角を現しました。

1958年のライプツィヒ・メッセで装飾デザイナーとしてデビューし、1960年にはマイセン創立250年を記念して結成された「芸術の発展を目指すグループ」に参加。本章ではデビュー作から1960年代初期までの作品が紹介されています。


第1章「磁器芸術の芽吹き」


《エンゼルフィッシュ》花瓶は、ヴェルナーの初期作品のひとつ。造形師ハンス・メルツによる新しいフォルムに、熱帯魚の軽やかな線描を配したデザインで、伝統的なマイセンとは一線を画す新鮮な表現として高く評価されました。


《エンゼルフィッシュ》花瓶 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ハンス・メルツ 1958年


第2章は「名シリーズの時代」。ヴェルナーは伝統を研究しつつ、新しい感性を取り入れて《ミュンヒハウゼン》《サマーナイト》《アラビアンナイト》《狩り》《ブルーオーキッド》など数々の人気シリーズを生み出しました。

《ミュンヒハウゼン(ほら吹き男爵)》コーヒーサービスは、物語の場面を愉快に描いた作品。黄色地に円形枠を配した意匠は、ヘロルトのシノワズリ様式に着想を得ています。1964年春のライプツィヒ・メッセで発表され、高く評価されました。


《ミュンヒハウゼン(ほら吹き男爵)》コーヒーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:エアハルト・グローサー、アレクサンダー・シュトルク、ルードヴィッヒ・ツェプナーの共作 1964年


《ブルーオーキッド》は、マイセンのベストセラー《ブルーオニオン》を継承しつつ、ランの花を力強く描いた新時代のヒット作です。ヴェルナーならではの絵画的筆致と高度な技術が光り、個人的な贈り物として描かれたプレートなども残されています。


《ブルーオーキッド》プレート、カップ&ソーサー 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー プレート:1977年 カップ&ソーサー:1978年(1987年頃製作)


〈アラビアンナイト〉は『千夜一夜物語』を題材に、アラジンやアリババなどの物語を繊細に描いたシリーズ。上部に配された金彩の幕装飾が艶やかに輝き、物語世界を華やかに演出しています。


《アラビアンナイト》コーヒーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー 1966年(1974年以降製作)


《サマーナイト》はシェイクスピア「真夏の夜の夢」を題材にした代表作。白鳥をイメージしたポットの把手や小花文の装飾が特徴で、1970年秋のメッセで金メダルを受賞しました。


《サマーナイト》ティーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー 1969年


第3章は「光と色彩の時代」。1975年の初来日を機に日本の風景に魅了されたヴェルナーは、1980年代にはマスキングや掻き落としを駆使した新しい表現に挑戦。抽象的な造形の中に自然のイメージを宿すなど、円熟と革新が融合した作品を残しました。


《ヴィジョン》コーヒーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー 1990年


エピローグ「受け継がれる意志」では、晩年のヴェルナーの活動と若手への継承を紹介。《ドラゴンメロディ》は、王子に姿を変えられたドラゴンと妖精たちの物語を題材にしたシリーズで、ヴェルナーのメルヘン世界の到達点といえる作品です。


《ドラゴンメロディ》コーヒーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー 1994年


伝統と革新、東西文化の出会いが響き合う豊かな物語に満ちた、ハインツ・ヴェルナーの世界。現代マイセン磁器が持つ芸術性とその魅力を改めて感じ取ることができる展覧会です。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年8月27日 ]

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