トラウマを抱える大人へ贈る童話‥放送から5年、もう一度観たい韓ドラ「サイコだけど大丈夫」
『サイコだけど大丈夫』(tvN/2020)が今年、本国での放送から5年の節目を迎える。
2020年6月20日に初回放送を迎え、Netflix(ネットフリックス)で世界に向けて配信されるやいなや、同VODのグローバルランキングにトップ10入りした人気作だ。
日本でも配信直後から上位3位圏内を維持、全16話中第12話配信以後は、第4次韓流ブームを巻き起こした大ヒット作『愛の不時着』(tvN/2019)を差し置いて、1位の座に躍り出たことも。
なぜこれほどまでにドラマファンを夢中にさせたのか。大人の童話と言われるなど、多くの人から愛された本作の魅力を振り返る。主演キム・スヒョン&ソ・イエジは、現在役者業よりもプライベートの方が注目を浴びているが、2人が素晴らしい演技者であることを思い出さずにはいられない1作だ。
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ざっくりあらすじ
『サイコだけど大丈夫』は、重い人生によって愛を拒否して生きてきた精神病棟の看護師ガンテと、愛を知らずに育ってきた童話作家ムニョンが、互いに心の傷を癒しながら人間的に成長していく姿を描いたヒーリングラブストーリー。
正反対の性格と考え方を持つ両者は衝突を繰り返すが、その過程で自身の過去とまっすぐ向き合い、周囲を巻き込みながら少しずつ変化を遂げる。
また、ガンテの兄で自閉症スペクトラム症のサンテも加わり、兄弟間の関係性や自己実現、障がいに対する偏見と誤解を描きながら物語にさらなる深みをプラスして、彼もまた逞しくなっていく。
トラウマの克服過程
本作の最大の見どころはなんといっても、各自がトラウマを克服する過程。大人になり自分の人生を歩んでいる3人だが、過去の経験が現在の言動に深くつながっており、がんじがらめになって本当の意味で生きているとはいえない状態を、自ら打ち破ろうと孤軍奮闘する。
ムニョンは、人の感情が読めないなど、自身の人格形成にまで影響を与えた母親による精神的虐待から。ガンテは、母親から課せられた自閉症スペクトラム症の兄を守るという責任や、その過程で植え付けられた自己犠牲、母の死に関係する罪悪感から。
そして母が殺害される瞬間を目撃したサンテは、ある理由から母親の死と恐怖の象徴となってしまった蝶から解放されるべく、なんとか出口を見つけようとする。
三者三様の方法で心の傷と向き合い、時に周囲と関りながら、体当たりで本来の自分自身を探し取り戻していく姿は感動せずにはいられないだろう。トラウマを抱えている大人に、そっと寄り添い勇気をくれる作品だ。
おとぎ話のような世界観
また、キム・スヒョンとソ・イエジはもちろん、サンテに扮したオ・ジョンセの熱演も、物語を大いに盛り上げており、エンターテインメント性も抜群。
特に、ムニョンが童話作家であるという設定を積極的に活用しており、おとぎ話のような世界観で描かれたシーンが多数登場する。
小道具やセットをはじめ、現実とファンタジーが交錯する幻想的な演出や、絵本の中のキャラクターにドラマの登場人物の感情を代弁させるなど、ストーリーとうまく連結させて視聴者の想像力を引き出しながら解釈を促す作戦には脱帽せずにはいられないだろう。
また、完成度の高いCGを盛り込むなど、非現実的な一面と超リアルなトラウマという要素がうまく調和し、現実とリンクして深いメッセージをプレゼントする点がまさに童話のよう。残酷さや恐ろしさを感じるポイントまで含まれ、グリム童話を彷彿とさせる一面もある。
主人公が、トラウマや心の傷を乗り越えるドラマはたくさんあるが、本作はそれらとは一味異なる魅力を持つ作品。まだご覧になっていない人は、視聴してみてはいかがだろうか。Netflixで配信中だ。
(ライター/西谷瀬里)