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なぜ自閉症息子は手を繋がない?母の考察と、命を守る4つの対策

LITALICO発達ナビ

なぜ自閉症息子は手を繋がない?母の考察と、命を守る4つの対策

監修:鈴木直光

筑波こどものこころクリニック院長

「多動・衝動性」と「親への愛着のなさ」に悩まされる

わが家の一人息子おとは、軽度の知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)で、特別支援学級(知的固定級)に通う小学4年生です。おとが歩き出した時期は比較的遅く、1歳3か月のことでした。外出する際に私が手を繋ごうとしても、おとは嫌がって何度も私の手を振りほどき、手を繋いでくれませんでした。「危ないから手をつなぐよ」と何度声掛けしても、私の声はおとには届きません。仕方なく私はおとの手首を掴みます。しかし、気になる対象物を発見すると、おとは自分の手首を掴む私の手さえも勢いよく振りほどいて、対象物に猛ダッシュ、脱走しようとします。この「脱走」は、おとの気になる物が走行中の車である場合や、車道の向こう側にある物の場合もあり、本当に危険でした。

先ほど「脱走」と書きましたが、この脱走の様子は、小さい子どもがテクテクかわいらしく走っていくような感じではありません。おとは自分の手をドリルのように回転させて私の手を器用にふりほどき、その後は何かにとりつかれたかのようなものすごい勢いと速さで、前のめりに、しかも左右に曲がりながらドリフトのような独特な走り方をするため、大変捕まえにくいことが特徴でした。

なぜ手を繋がないのか?母の考察と4つの対策

私は、おとが私と手を繋がない理由を3つ推測しました。1つ目は感覚過敏で、敏感な手のひらに私の手が触れる感覚が嫌だから。2つ目は、おとは人よりも物に対して凄まじい興味があったので、家の外にあるさまざまな対象物に惹かれてそれに夢中になっていたから。3つ目は、親への愛着が薄かったから。多くの定型発達児が抱く「親が近くにいないと怖い・不安」という感情は、当時のおとからは一切感じられませんでした。それを踏まえ、私は思いました。「このままでは、おとはいつか事故に遭ってしまう。命が危険だ」と。そこで私はおとと家の外を歩く時の対策を4つ考えました。

対策その1 バギー
まずはおとに道を歩かせないようにしようと考え、家にあるバギーを使いました。おとはバギーにすんなり乗りこみますが、大人しく座っているわけではありません。バギーの上で左右に大きく揺れて感覚刺激を求めるため、私も支えきれず、何度も転倒していました。また私がバギーを押して移動して動いている時は良いのですが、止まると刺激がなくなるため、バギーのベルトを自力で外して脱走していました。そうこうしているうちにバギーは壊れました。

対策その2 抱っこ紐
抱っこ紐はバギーに比べて目線が高くなるため、視覚優位のおとにとっては楽しそうでした。しかし飽きてくるとおとは身体を大きく反らせて抱っこ紐を出ようとし、そのまま頭から地面に落ちそうになることが何度かあり危険でした。また公園などで一度抱っこ紐から出してしまうとなかなか再度入ってはくれません。さらにおとは体重が重かったため、抱っこ紐の中でおとが無茶な動きをすると私の身体への負担は大きく、長時間の使用で私の肩や腰がきつくなるというデメリットもありました。そのため抱っこ紐は短時間の使用やおとが疲れて静かな時の移動に向いているアイテムでした。

このような出来事が続いたあたりで、私は「おとは身体への強い刺激を求めている」ということになんとなく気づきました。

対策その3 子ども乗せ電動自転車
子ども乗せ電動自転車はおとの特性に悩んで購入したわけではなく、当時住んでいた場所が街中だったため、車よりも小回りの利く自転車があると便利だなと思い購入しました。想定外でしたが、この電動自転車による刺激がおとにはとても合っていたらしく、うれしそうに静かに乗っていました。
しかし自転車から降りたあとが問題でした。私がおとを乗せたまま自転車から降り、カギをかけたり荷物を降ろそうとすると、おとは刺激を求めて左右に揺れたりジャンプして自転車が倒れそうになります。そのためおとを先に自転車から降ろすのですが、そうすると脱走します。なので当時、自転車に載せられるコンパクトな簡易バギーを購入し、自転車を止めたらサッとバギーを広げ、そこにおとを乗せていました。簡易的なのでグラグラ揺れるバギーでしたが、感覚刺激を求めているおとにとっては揺れたほうが良いので、このバギーは重宝して、壊れるまで大活躍しました。

対策その4 迷子紐(子ども用ハーネス)
上記に登場したバギー・抱っこ紐・自転車は「道を歩かせない」という点においては重宝するのですが、好奇心旺盛なおとからは「道を歩きたい」という意思を感じる時がしばしばありました。しかし道を歩かせるとやはり私の手を振りほどいて脱走してしまう。どうしたものかと考え、迷子紐(子ども用ハーネス)の購入を検討するようになりましたが、ここで私は悩みました。

なぜ迷子紐の購入を迷ったか

当時あるテレビ番組を見ていたところ、その番組内で迷子紐が討論の対象になり「賛成派」「反対派」が意見を繰り広げていました。反対派の人たちは「ペットじゃないんだから」「かわいそう」「あり得ない」「迷子紐じゃなくて、手を繋いであげようよ!」といった意見を主張していました。そして討論はうやむやに終わり、次のコーナーに移っていきました。

これを見て私は「反対派」の主張の背景には、「発達特性や障害のある子に対する無知」とともに「子どもの尊厳に対する意識の高さからくる正義感」があるのではないかと感じました。それは仕方ないことなのですが、私が迷子紐をおとに使うことで、無知で正義感を持った人が何か言ってきたり、嫌な目で見てくるのではないか……と怖くなったのです。

「迷子紐に文句を言ってくる人がおとの命を守ってくれるわけではない」そう思い、私は迷子紐を購入しました。街中で嫌な目で見られたり不思議そうにされることはありましたが、迷子紐は本当に使って良かったと思うアイテムです。手を繋ぐのは嫌がっていた当時のおとも、何種類か試したあとに気に入った迷子紐は、その後も嫌がらずに使用してくれました。おとと交通量の多い道を歩く時、お会計などでどうしてもおとの手を離さなけばならない時など、迷子紐によっておとは遠くへ走っていけなくなり、安全になりました。そして私も心に余裕が生まれました。

特性の推移と現在

おとの場合、1歳半~2歳頃をピークに多動や衝動的な行動は徐々に減っていき、3~5歳頃には私と手を繋いで歩けるようになりました。しかしまだたまに私の手を振りほどいて脱走していたため、状況に応じて迷子紐を使用していました。迷子紐はコンパクトなので携帯しやすい点も良かったです。

年長の夏頃になると、おとは私の手を振りほどいてどこかに行ってしまうことはなくなっていました。そしてその頃から、親への愛着や保育園や学校の先生に対する信頼感が、徐々におとから感じられるようになってきました。私の姿が見えないと不安を口にするようになり、少しずつ私に甘えるようになりました。保育園では分からないことがあると先生を頼り、不安な時は先生のそばにいたがるようになりました。小学校入学後は勝手に教室から出ていくことは一度もなく、先生を信頼している様子でした。

おとが小学校2年生の時、私はおとから初めて「ママが大好き」と言われ、それ以降おとは私にたくさん甘えるようになりました。これまで私がいくら愛情表現をしてもおとからの反応は乏しかったのですが、自分の愛情はちゃんとおとに伝わっていたんだな……と、報われた思いがしました。

障害や発達特性は十人十色ですが、子どもの命を守り、楽しく毎日を送るために、また親の気持ちのためにも、困りごとに対してさまざまなアプローチをしてみることは大切なことだと感じた一連の出来事でした。また子どもの反応が乏しくても、「親の愛情は子どもには伝わっているんだ」ということも感じた体験でした。

執筆/かほ

(監修:鈴木先生より)
かほ様の愛情と努力が実って良かったですね。ただ、当時は必死だったと思います。迷子紐やバギーの対症療法以外に、身体への強い刺激を弱める方法としては、リハビリのOT(作業療法)で行う感覚統合訓練や外来での投薬という方法があります。これらは小児科医やかかりつけ医のセンス(知識と経験)の違いで保護者へのアドバイスが異なってきます。発達が専門の医者にとっては常識なのですが、学会でこのような症例が報告されると、必ずと言っていいほど感覚統合訓練や投薬の質問が出てきます。エビデンスがあるからです。ほかには、当クリニックでやっているようなMT(音楽療法)も情緒の安定や自己コントロールへの効果が期待されます。もし病院へ行く時間がない場合は、近所の公園の遊具やアスレチックで遊ばせることで多少なりとも「多動・衝動性」を抑えることが可能かと思われます。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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