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寅さんが金田一耕助? 昭和の大ヒット映画「八つ墓村」流行語にもなった “たたりじゃ〜”

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1977年09月23日 映画「八つ墓村」公開日

連載【ディスカバー日本映画・昭和の隠れた名作を再発見】vol.5 -「八つ墓村」

横溝正史ブームの原動力となった「八つ墓村」


1960年代に生まれた世代が小中学生だった頃、ミステリーを好きになったら、まず飛びつくのが江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズだろう。ポプラ社刊のそれを読み終え、次のステップとして、横溝正史へと進んだ方も多いのではないだろうか。親の因果が子に報うようなファミリーラインのおどろおどろしさに加え、適度にエロいのがまたよかった。『少年探偵団』以外の江戸川乱歩の小説にもエロの要素はある。が、なにしろ横溝正史の小説は1970年代半ばから急激に流行りだし、怖そうだが見てみたい当時の子どもの好奇心を引きつけていた。

横溝正史ブームの原動力となったのは、言うまでもなく角川春樹の主導で始まった著作の映画化だ。1976年に『犬神家の一族』が大ヒットを飛ばし、東宝は監督・市川崑、主演・石坂浩二による名探偵・金田一耕助シリーズをスタートさせ、他社もそれに続いた。それ以前にも横溝作品は映画化されていたが、ここまでブームになったのは初めて。中でもスクリーンで最大のヒットを飛ばしたのが本稿の主役、1977年の松竹映画『八つ墓村』だ。

ドリフターズのネタにもなった “八つ墓村のたたりじゃ!”


小学5年だった筆者の当時の記憶をたどると、真っ先に思い出されるのが “八つ墓村のたたりじゃ!” という映画CMの音声。老婆の声とおぼしきそれは巷では流行語となり、ドリフターズもネタにしたほどだ。ちなみに、この頃のドリフは映画のCMが生んだ流行語に敏感で、『サスペリア』の “決してひとりでは見ないでください” というコピーもギャグに取り入れていた記憶がある。いずれにしても、この事実だけで当時の『八つ墓村』人気の大きさがうかがえるだろう。

簡単にストーリーを振り返っておこう。舞台は岡山県の山間の村。400年前に村人が落ち武者8人を殺し、そのたたりに見舞われたことから、彼らを手厚く埋葬。八つ墓村という呼称は、そこから付いたとされる。この八つ墓村に、新聞の尋ね人欄に応じて、都心の空港で働く青年、辰弥が帰郷する。自身の出生について詳しく知らない彼は地主一族の跡取りに迎えられるが、そこで次々と殺人事件が起こる。この謎に挑むのが、名探偵、金田一耕助。名家の暗部を、彼は密な調査によって暴いていく。

ミステリー以上にホラー色が濃厚だった八つ墓村」


監督は松本清張原作のミステリー作品で名を馳せた野村芳太郎。1975年の『砂の器』で高評価を得た彼は同作の脚本家、橋本忍や音楽の芥川也寸志と再び組んで、『八つ墓村』に着手する。そして本作は実際に重厚なミステリーとなりえたのだが、『砂の器』とは明らかに違う点がひとつあった。それはミステリー以上にホラー色が濃厚だったことだ。

たとえば、400年前の落ち武者8人の虐殺事件の描写は、斧や鎌、竹やりでグッサリ、バッサリを連発。また、辰也の父とされる要蔵が発狂して村人32人を虐殺する回想描写も猟銃と日本刀が次々と人命を奪う。これは昭和13年に起きた “津山30人殺し” の実話に発想を得て、横溝が原作に盛り込んだもの。このおぞましい実話は『丑三つの村』のタイトルで小説化、映画化もされている。もとい、映画『八つ墓村』の惨殺シーンは、これら過去の出来事に加えて、現在進行で起こる事件に関してもしっかり描かれている。横溝原作の映像作品で、これほど殺人描写が盛り込まれた映画はない。

演出に関しても野村監督はホラーを意識している。たとえば、辰也の大叔母である双子の老女、小竹・小梅の初登場シーンでの耳障りな音楽。彼女たちもそうだが、不気味なキャラクターには必ずといってよいほど、顔色が青白く見えるメイクが施されている。そして、これがもっとも重要な点だが、原作が金田一の謎解きの面白さに重きを置いているのに対して、本作では最後の最後まで、落ち武者たちの呪いを意識させる。そういう意味ではミステリーというより、オカルト映画。まさしく “たたりじゃ!” なのだ。

『犬神家の一族』の映画も当時の小学生には怖かったが、『八つ墓村』はその比ではなかった。なにしろ、始まってすぐに惨殺シーンがあるし、口から噴き出る鮮血には度肝を抜かれた。振り返ると、こういう横溝作品を見続けたおかげで、恐怖描写に対する免疫が作られ、ホラー映画愛好家になっていったのだろう。怨霊は怖くない。結局のところ、怖いのは人間だ。それを陰で操っているのが怨霊だとしたら、まいりましたというしかない。

もっとも原作の金田一耕助のイメージに近かった渥美清


本作でもっとも論議を呼んだのは、金田一耕助を渥美清が演じたことだろう。なにしろ東宝ではシリーズ化され、石坂浩二の金田一のイメージが浸透している。対する松竹が、いくらなんでも “寅さん” とは! そんな声も少なくなかったが、東宝版とは異なり、『八つ墓村』の金田一は主人公ではなく、萩原健一扮する辰弥のドラマの比重が大きい。主人公の辰弥を金田一がサポートしているとも言える。そういう意味では、ひょうひょうとしつつも人情味がにじむ渥美版金田一も悪くない。ちなみに原作者の横溝正史は、渥美がもっとも原作のイメージに近いと語っていた。

最後に音楽についても触れておきたい。本作をA級の娯楽作にしているのか、まぎれもなく芥川也寸志による流麗なスコアだ。本作と翌年の『八甲田山』の音楽により、芥川は第1回『日本アカデミー賞』の音楽賞を受賞。予告編でも使用されている「道行のテーマ」は本作を象徴する1曲だが、これを聴くと堀江淳の後のヒット曲「メモリーグラス」を連想するのは筆者だけだろうか?

1970年代、横溝作品はほぼ独占的に角川文庫から発刊されていた。それらの表紙の多くは杉本一文によるイラストが強烈なインパクトを放っている。これを今、改めて目にするとなかなかホラーチック。本稿の執筆を機に、久しぶりに読んでみようと思って手に取ったが、50年前の文庫本の文字の小ささに断念した、老眼の筆者であった。

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