インクルーシブアートとは?【前編】障がい者の文化芸術活動を通じた共生社会の実現と取り組み例
「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」をキーワードにして、さまざまな社会的ムーブメントが起きています。その一つに「インクルーシブアート」があります。2018年6月に成立した「障がい者による文化芸術活動」とも呼応し、官民一体で障がい者を含んだ芸術活動が活発化しています。
この記事では、以下の4点について解説します。
前編 障がい者による文化芸術活動推進とは インクルーシブアートとは 後編 インクルーシブアートのイベント例 インクルーシブアートの取り組み例
障がい者による文化芸術活動推進とは?
近年、一人ひとりの違いを認め尊重し合う包摂的な共生社会(ソーシャル・インクルージョン)を実現しようとさまざまな取り組みがなされています。
障がい者による文化芸術活動もその一環ですが、今に始まった訳ではなく、これまで緩やかに社会に浸透してきました。例えば、1995年に政府が策定した「障害者プラン」には障がい者の生活の質の向上を目指す施策の一つとして位置付けられていましたし、その後の「障害者基本計画」にも含まれていました。※1
大きな転機となったのは、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が決定した2013年です。そもそもオリンピック憲章において、開催国は複数の文化的イベントを実施することが定められています。そのため、日本でも多様性に配慮して絵画や造形作品の展示を行いました。※2
その後、2018年には「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」が施行されました。これは、文化芸術活動を通じて障がい者の個性や能力を発揮し、社会参加を促すことが目的です。同法に基づき、関係省庁や文化芸術および福祉関係者等の有識者による会議等を経て、2019年3月、文部科学省および厚生労働省は、「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本計画」を策定・公表しました。※3
出典:
※1 障害者プランの概要 – 内閣府
※2 文部科学省 障害者活躍推進プラン④ 障害のある人の文化芸術活動を支援する~障害者による文化芸術活動推進プラン~
※3 「障害者文化芸術活動」が問いかけるもの ~多様性への理解を通じて共生社会を目指す~ | 後藤 博 | 第一生命経済研究所
支援センター・広域センターはどんな場所?
支援・広域センターでは、障がい者を含めて多様な人々がさまざまな芸術文化に出合い、活動できるように多彩な活動を行っています。より身近な拠点で支援が受けられるよう、全国に障がい者の芸術文化活動に関わる支援センターを設置しています。また、支援センターが設置されていないエリアでは広域センターと全国連携事務局を設置し、支援の輪を広げています。
全国の支援センターは「令和5年度 障害者芸術文化活動支援センターの設置状況(PDF)」を参照。
インクルーシブアートとは
インクルーシブアートとは、障がいの有無、年齢や性別、国籍などに関わらず、誰でも参加できる芸術活動のことです。
それに対して「障がい者アート」は明確な定義がないものの、類似の概念として「アール・ブリュット」、「アウトサイダー・アート」などが挙げられます。「アール・ブリュット」とは、フランスの画家ジャン・デュビュッフェによって考案された言葉であり、「加工されていない、生(き)の芸術」を意味します。一方、「アウトサイダー・アート」とは、「既存の美術制度の外部にあって、しかも自らの行為をアートと認識することのない者によって営まれる美術活動、もしくはその活動の結果生まれた作品の総称」です。※4
インクルーシブアートと障がい者アートの違いは、前者が障がいの有無だけでなく、年齢や性別、国籍などさまざまな違いを包摂しているのに対し、後者は身体障がい者や知的障がい者にフォーカスしている点です。つまり、障がい者アートもインクルーシブアートに包含されると言えるでしょう。
インクルーシブアートは、社会の多様性をお互いに共感、理解し合うことで、共生社会の実現に大きく寄与します。アートを通じて異なるバックグラウンドを持つ人々が出会い、交流し、ともに創作することで社会全体がより寛容で多様性を尊重する方向へと進んでいくことが期待されます。
出典
※4 障害者アート推進のための懇談会 厚生労働省