「実は魚ですらない?」不思議生物『ヌタウナギ』はアメリカで高級革製品の原材料?
パッと見はウナギにそっくりな不思議生物ヌタウナギ。実はそもそも魚ですらないという説も存在しています。
深海の不思議な掃除屋ヌタウナギ
我が国では水深200mより深い海域を一般的に深海と呼んでいます。深海では太陽の光が殆ど届かず、僅かな光を頼りにしながら様々な奇怪なる生き物たちが生息しています。
そんな生物の一つに「ヌタウナギ」がいます。漢字で書くと沼田鰻と書くこの生物は、危険を感じると体表からヌメリの素を分泌し、それが水と混ざると、まるで田んぼの泥のようにネトネトするためこのように呼ばれます。
ヌタウナギの目はほとんど発達しておらず、主に嗅覚で餌を見つけると考えられています。彼らの好物は生き物の死骸で、クジラなど大型の生物の死体が深海底まで落下してくると大群で取り囲み、あっという間に骨だけにしてしまいます。オオグソクムシなどとともに「深海の掃除屋」と呼ばれるものの一つです。
魚のようで魚ではない?
そんな彼ら、名前にウナギと入っていますが、分類学上はウナギとはあまり関連がありません。それどころか「魚ですらないのではないか?」という学説もあります。
というのも彼らには、魚に本来みとめられるべき2つの形質が存在していないのです。それは「顎」と「骨」。ヌタウナギの口は円形のただの穴で、喉奥に肉を削り取るための歯のような組織が格納されています。
またその骨(背骨)はまるで軟質プラスチックのような白く柔らかい棒で、脊椎動物のそれとは大きく異なっています。そのため彼らは脊椎動物の前段階と言える「脊索動物」に含まれる「無顎類」というグループだと考える説が存在しました。
ただし最近になり、ヌタウナギの独特な骨はかつて通常の脊椎だったものが進化(退化)してこのような形状になったものではないかという説が出てきています。その場合は「独特な進化を遂げた魚類の一種」と呼ぶべきものになるでしょう。
人間との関わり
そんなヌタウナギ、名前や特徴、見た目からはとても美味しそうには見えませんが、食材として珍重する地域があります。それは韓国で、とくに南部海沿いの地域ではコムジャンオと呼び、炒め物や焼き物で盛んに食べられています。
また我が国においても、クロヌタウナギやムラサキヌタウナギ、あるいはその地域亜種を干物にして食用にしています。秋田県など日本海沿岸地域では丸のままのヌタウナギの干物を「棒あなご」と呼び、焼いて食べられます。
不思議なことにはじめから塩味がついており、牛もつのようなジャキジャキした歯ごたえと鰻の肝のようなほろ苦さ、コクのある味わいが楽しめます。
高級革製品の原材料?
アメリカではヌタウナギの仲間をスライムイールと呼び、食用にはしないのですが、その皮をイールスキンという革製品に加工します。イールスキンは独特な質感があり、これで作られた財布やバッグは高級品です。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>