【佐野美術館の「皇居三の丸尚蔵館展 皇室の名宝―静岡ゆかりの品々とともに」】第一室に入ると思わず声が出る。対極を成す竹内栖鳳「和暖之図」と横山大観「龍蛟躍四溟」
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は三島市の佐野美術館で9月27日に開幕した「皇居三の丸尚蔵館展 皇室の名宝―静岡ゆかりの品々とともに」を題材に。
皇居三の丸尚蔵館は1989年6月、上皇陛下と香淳皇后が代々皇室に受け継がれてきた絵画・書・工芸品などを国に寄贈したことに端を発する。宮内庁管理のコレクションを、万全の状態で保存し、国民に見せようと新たに建造されたのが三の丸尚蔵館。1992年8月に建物が完成し、1993年11月に一般展示公開が始まった。
同館は新施設の建設工事で今年5月7日から一時休館している。開館予定は2026年秋。この間に一部の絵画や美術工芸品、刀剣は館を出て旅をする。旅先の一つが静岡・三島である。
第一室に入ると、いつもの佐野美術館での展覧会とは異なる気配が漂う。手前、奥に6曲1双の大屏風が向かい合うように設置されており、展示室長辺のガラスケース内にも大型の日本画がそろっていて、その迫力に気圧される。たまたま居合わせた70代とおぼしきポロシャツ姿の男性は「おー、すごいな」と声を漏らしていた。
手前の竹内栖鳳「和暖之図」(1924年)は親王時代の昭和天皇の結婚祝いとして京都府が献上した。右隻は家族とおぼしき鹿3頭のむつまじい様子。全3頭の表情がうかがえる。一方、左隻の2頭は体を丸めて眠っているようだ。鹿とササの葉以外は何も描かれておらず、空間の奥行きや地面の存在を感じさせない。ちょっと離れてみると2頭が空中に浮かんでいるようだ。12本の足が全て描かれる右隻と、好対照を成す。
作品全体の印象は「和やか」の一言である。平穏=幸せを鹿を使って表現したように見える。
これに相対する横山大観「龍蛟躍四溟(りゅうこうしめいにおどる)」(1936年)には、得も言われぬ緊張感がみなぎる。右隻では黒雲をかき分けるように抜け出てきた2頭の龍が鋭い眼差しを注ぐ。左隻では岩場から身を踊らせた龍が上空を見つめる。ギザギザと険しい岩場に当たる光の表現がユニークだ。ヘッドライトで洞窟に入ったかのようなコントラストが感じられる。右左とも風の強弱、空気の湿り気がよく伝わってくる。
好対照の2作品はどちらも展示ケースいっぱいの高さだ。今回展の第一室は、この2作に前後から見下ろされる格好で組み立てられている。橋本雅邦、川端玉章、結城素明といった有名画家の作品もぜいたくな気分を増幅させる。
冒頭の写真は1階エントランスに飾られた狩野永徳「唐獅子図屏風」の高精細複製品。一瞬「まさか」と思ったが、さすがにレプリカだった。ただ、インパクトは抜群。すみずみまで見入ってしまった。佐野美術館の今回展は1、2階とも、「入ってすぐ」に驚きがある。
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■佐野美術館「皇居三の丸尚蔵館展 皇室の名宝―静岡ゆかりの品々とともに」
住所:三島市中田町1-43
開館:午前10時~午後5時(木曜休館)
観覧料金(当日):一般・大学生1170円、小・中・高校生590円
会期:11月3日(月・祝)まで