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【レビュー】『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』スタントは壮大に、プロットは難解に

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この映画でトム・クルーズは複葉機にしがみつき、縦横無尽に振り回される。筆者はというと、難解なプロットに振り落とされ、ただ地上から遥か空中の神技を見上げていた。

シリーズ集大成となる『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』は、前作『デッド・レコニング』から、スタントアクションの凄まじさも、物語の複雑さも増大させている。イーサン・ハントが辿ってきたあらゆる点が繋がり、総決算に挑む……のだが、シリーズ過去作をも前後するややこしい説明が矢継ぎ早に飛び出し、話を追うのに必死なうち、いつの間にか劇的な展開が始まったり、終わったりする。

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

クリストファー・マッカリー監督ら製作陣は、物語を設計するよりも先に起用したい俳優ややりたいスタントアクションを決め、そこに物語を適合させるという、いわばリバースエンジニアリング的なストーリーテリングを手法としている。撮影を進めながら同時に脚本の改稿を重ねるという綱渡りであり、これは合理的なストーリー展開とのトレードオフでもある。

作中ではAIの脅威が主題材となっており、彼ら映画人にとってこれは大きな話題だ。前作『デッド・レコニング』では、まさにAI利用制限をめぐるストライキ決行によって彼らの来日プロモーションは直前キャンセルとなった。ハイテクなガジェットを使いながらも、潜入や変装、格闘といったアナログな任務をこなしてきたIMFが、実体のないAIという超次元的な敵に立ち向かう。しかし結局のところ、その最終的な企みとは古めかしい人類滅亡シナリオであって目新しさはない。

マッカリー監督以降のシリーズが重視するのは、トム・クルーズによる超人技のインパクトと個性的なキャラクターのダイナミズム。本作の記者会見や取材の場でも、AIをめぐる物語について多くは語られず、危険で派手なスタントやキャラクターたちの絆についてが中心だった。もっとも、それこそが本シリーズに求められている要素であることは自明だ。

とはいえ筆者が気になったのは、その説明過多だ。明らかな矛盾や綻びもある。加えて、過去作からの伏線回収も加わり、情報量はさらに増す。「細かいことは気にするな」と振り切ってストーリーを無視するには、この映画は説明描写に比重を置きすぎている。

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

日本語字幕の難しい宿命もある。筆者は戸田奈津子さんのファンだが、前作からエンティティを「それ」と訳したのは、ただでさえ掴みどころのない敵の輪郭を、さらにぼやけさせてしまったように思う。エンティティ=Entityには「実在、存在、本質」という意味がある。翻訳チームの熟考の末であることは承知しつつも、実体のないAIだからこそ、“実在”を意味するEntityのニュアンスは残しておくべきだったのではないか。字幕における文字数制限の事情もあるかもしれないが、本作では長くて複雑なロシア語由来のアイテム名が繰り返し登場する。

かくして『ファイナル・レコニング』の物語は、場面ごとの詳細を掘り下げつつ、全体像としての把握が難しい異形進化を遂げている。ただし、そうした難解さを差し引いても、本作は再鑑賞を促す魅力を持った力作だ(次回は日本語吹替版で鑑賞したい。いくらか理解しやすいだろう。森川智之さんをはじめ声優陣はきっと素晴らしい仕事をしているはずだ)。やはりトム・クルーズがCGなしで極限に挑んだスタント映像は王者の迫力がある。観ている方が思わず顔を歪ませてしまうほどの強力な映像で、歴史に残るものになるだろう。

興味深いのは、説明過多な一方で、スタント場面がほとんど無声であることだ。本作のスタントでは「潜水」と「飛行機」の二つのハイライトシーンがあるが、いずれも発声できる環境ではない。不思議なことに、緊張も度を超えると笑えてくる。そういう意味で、トム・クルーズのスタントはここでバスター・キートン的な美学に回帰している。実際に、クルーズは本シリーズにおけるバスター・キートンやチャーリー・チャップリンからの。

衰退が叫ばれる映画業界の中で、トム・クルーズは最後の砦のように映画体験の原点を力技で体現してみせた。どうして人は映画を作るのか、なぜ映画館で観るべきなのか、本作は真正面から応える。情報過多で消化しきれない部分もあるが、「人々を楽しませたい」という純粋な衝動に突き動かされる者たちの姿には、情報も理屈も超えた説得力が宿っている。いよいよ、トム・クルーズはこの作品をもって、現代史の“偉人”となり得るのではないか。

全編を通じて集大成作としての風格をどっしり纏っているものの、本当に最後作となるのかは観てからのお楽しみで、観客の評判次第だ。気付けば、イーサン・ハントを取り巻く人々や環境は様変わりした。何やら次世代を見据えている感もありつつ、いくつかの大きな流れがひとまず結ばれた。

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

この映画が背負うものは大きい。前作『デッド・レコニング』は華々しい話題性とは裏腹に、興行成績では苦戦した。本作でなんとか挽回を図りたいところだ。プロモーションでは“洋画離れ”が指摘される日本がワールドツアーの初地に選ばれ、トム・クルーズらが来日してファンサービスに努めた。今や名前だけで広く観客を呼べる数少ないスターであるクルーズの最新作。映画ファンとして願うのは、規格外のスケールで繰り出されるド派手アクションを大画面で体感してもらい、この映画がヒットに繋がることだ。

少しでも理解度を深めるためには、前作『デッド・レコニング』と、ブライアン・デ・パルマによる第1作『ミッション:インポッシブル』(1996)を復習しておくのがオススメだ。

筆者を含め、筆者の周囲の映画ライターたちも試写後に「一度では理解しきれない」と口を揃えた。だから、最初からそういう作品だと思って挑めば良い。ただただ壮大な物語の総決算と、トム・クルーズという当代最高の映画人の驚異を、全身で浴びよう。

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

©2024 PARAMOUNT PICTURES.

『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』は5月17日(土)〜22日(木)先行上映、23日(金)公開。

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