スイスでサステナブルな旅をしよう! 秋編③ アレッチ地方のど真ん中・ベットマーアルプから世界遺産の氷河と森をハイキング
前回、ワインの旅をしたヴァレー州のローヌ谷。シエールやロイクからさらに東へ行った谷上にある、テラス状の高原はアレッチ地方と呼ばれ、西側からリーダーアルプ、ベットマーアルプ、フィーシャーアルプの3つの拠点があります。真ん中のベットマーアルプを起点に、秋色ハイキングへと出発!
ベットマーアルプって?
標高1948m、アルプス初の世界遺産・アレッチ氷河観光の拠点として知られる山村。ローヌ谷を挟んだ正面には、マッターホルンやドーム、ヴァイスホルンなどヴァレーアルプスの名峰群が連なる。
アクセスは、谷底のベッテン駅からロープウェイで7分ほど。ベッテン駅は人気の観光鉄道「グレッシャー・エクスプレス(氷河特急)」のルート上にあるので、さまざまな観光地との組み合わせもできる。
村は環境保全のため、ガソリン車乗り入れ禁止のカーフリーリゾートだが、周辺のホテルは徒歩圏内なので心配はいらないし、電気バス「アレッチ・エクスプレス」も走っている。
世界遺産の氷河と森を歩く
何はともあれ、アルプス最大・最長のアレッチ氷河を見に行かなくちゃ。
電気バスでリーダーアルプへ行き、ゴンドラでモースフルー展望台に上る。夏に来たときと比べると周りの木々の様子が違う。足元もアルペンローゼがあちこちに咲いていたけれど、いまはベリー系の実がなっている。
アレッチの森へと歩を進める。
夏に歩いた道とはルートを変え、もっと氷河に近い道をセレクト。スイスのハイキングコースはとにかく豊富で、体力や時間など、自分の都合でセレクトできるのがうれしい。
世界遺産・アレッチの森の秋の楽しみは、なんといってもレルヒ(西洋カラマツ)の紅葉。緑からオレンジのグラデーションがとにかく美しく、モールのように細かい針葉はフワフワしており隙間があるので、そこに日が当たるとキラキラ光る。
その光景にしばし足を止めていたら、駆けていく動物が。あ、シャモアだ! 何頭もいる。
それにしても、氷河の後退具合が激しい。氷舌がかなり短くなっている。氷河がなくなったところに小さな赤ちゃんレルヒが生えていて、そこもいずれは森になっていくんだろうな。
今日のハイキングの目的地は『ヴィラ・カッセル』。英国の銀行家、アーネスト・カッセル卿の夏の別荘だった建物で、ティータイムを楽しむ予定だ。
モースフルー展望台から2時間ほど、大きなアップダウンはないので楽に歩ける。
「オリジナルのスープは絶対に」と地元の人に言われたとおり、本日のスープをオーダー。カボチャとカスタニエン(栗)のスープだ。ふぅー、体に染みわたる。味にかなり主張のあるお互いが、絶妙なバランスで存在している。
そしてお待ちかねのホームメイドケーキを。プラムのケーキはシナモンが効いていて少し大人味。レモンケーキは酸味がちょうどいい。せっかくのティーサロンなので、紅茶をいただく。
『ヴィラ・カッセル』
●リーダーアルプ・ウエスト駅から徒歩30分
https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/villa-cassel/
小さな村は時間帯を変えて散策
ベットマーアルプのシンボルになっているのが、1697年に建てられた雪のマリア礼拝堂。小高い丘にポツンと立つその姿は、いかにもヨーロッパの小さな田舎町の雰囲気を醸し出す。
圧巻なのは、この教会の背後。ヴァレーアルプスの山々がずらっと並び、天気のいい日はマッターホルンも見える。朝、昼、夕方、いつ見ても絵になるので、ついつい立ち止まってシャッターを押してしまう。
朝焼けのヴァレーアルプスと教会をカメラに収めるため、日の出時間前に早起き。前日に下見しておいた場所に行くと、すでに先客が! 日々表情を変える朝焼けショーをともに楽しんだ。
こんな感動的な朝焼けは、ここに泊まらないと見られない。早起きをして、朝食前に散歩がてら教会に出かけよう。充実の一日が始まる。
伝統のチーズづくりを知る
電気バスでリーダーアルプ・ミッテ駅に移動し、歩いて『アルプミュージアム』へ。
ここでは姿を消しつつある、アルプスでの牧畜と暮らしを見ることができる。その土地の伝統の味を守り、伝えていくこともサステナブル。そんな食文化を知ることもサステナブルなのだ。
定期的に公開されている、チーズづくりを見学しよう。実演してくれるのは、ロベルタさん。台所で生乳の入った大きな銅鍋を薪火にかけ、撹拌していた。小屋じゅうに燻した匂いが立ち込める。
山小屋の住居部分や厩舎、展示などを見ながら待っていると、「さあ、みんな集まって」とロベルタさん。加熱して少しとろみを帯びた生乳を飲ませてくれた。まだチーズにはほど遠い。
この生乳に牛の胃袋から取った酵素を入れて乳酸発酵させる。「カード」と呼ばれるプリン状態のものができたら、熊手のようなチーズハープという道具で切り混ぜていく。
力のいる作業が多く、女性一人ではなかなか大変だ。途中でカードやカッテージチーズ状のものを食べさせてもらう。だんだんチーズっぽくなってきて……。
最後に型へ入れてプレスし、秘伝の塩水に漬ける。その後、隣の貯蔵庫へ。
貯蔵庫には完成したチーズが置いてあった。伝統製法でつくるロベルタさん印のチーズは販売もしているそうだが、数年先まで予約でいっぱいなのだとか。
●スイスチーズの世界:https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/summer-autumn/summer/stories/about-swiss-cheese/
『アルプミュージアム』
●リーダーアルプ・ミッテ駅から徒歩10分
https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/alpmuseum/
泊まったのは『ホテル・アルプフリーデン』
ベットマーホルンへ上るゴンドラ駅がすぐ後ろにあり、ハイキングや散策の拠点にぴったり。バルコニーやレストランからは、ローヌ谷を隔てた向こうにマッターホルンやヴァイスホルンの壮大な景色が見渡せる。おいしいと評判のレストランでは、郷土料理を厳選されたワインとともに。
『ホテル・アルプフリーデン』
●ベットマーアルプ駅から徒歩13分
https://www.myswitzerland.com/ja/accommodations/hotel-alpfrieden/
スイスワインの世界:https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/summer-autumn/wine-tourism/swiss-wine/
荷物託送サービスでフットワークの軽い旅
サステナブルな旅に欠かせないのが、鉄道などの公共交通機関。交通網の発達しているスイスは、自由に移動して周遊の旅もへっちゃらだけど、乗り継ぎや途中下車をする際に大きなスーツケースはジャマになる。
そんなときに利用したいのが、荷物託送サービス。スイス国内の駅から駅へ、ホテルなどの滞在地から次の滞在先へと荷物を直送できる。
さらに、今回利用して便利だったのが「AirPortr」というサービス。
成田空港で荷物を預けたら、チューリヒ空港でピックアップすることなく、2日目の滞在ホテルに届けてくれた。WEBから申し込みができ、荷物がどこにあるのかを随時知らせてくれる。帰りも出国の2日前に滞在ホテルから出せば、チューリヒ空港で確認する必要はなく、成田空港のターンテーブルへ。
快適なサービスを活用して、軽やかにスイスを旅したい。
【Information】日本からスイスへは
成田~チューリヒ間を約14時間で結ぶ、スイス インターナショナル エアラインズの直行便が週5便運航している。
[気候]春・秋は8~15度、夏は18~28度、冬は-2~7度。山岳地帯と麓の村では温度差があり、日中と朝晩の気温差も激しいので、レイヤード(重ね着)が基本。着脱しやすい服装を準備したい
[時差]日本の-8時間(夏は-7時間)
[言語]ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4言語(地域により異なる)。ホテルやお店では英語が通じる
[スイスの情報]https://www.myswitzerland.com/ja/
取材・文・撮影=『旅の手帖』編集部 協力=スイス政府観光局、スイス インターナショナル エアラインズ、スイストラベルシステム