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目が悪くなる、だけではない! 乳幼児のスマホ利用には十分な注意を

ミキハウス

目が悪くなる、だけではない! 乳幼児のスマホ利用には十分な注意を

電車の中や街角、レストランで、小さな子どもたちがスマホをのぞきこんでいる光景は珍しいものではなくなりました。大人たちが気にするブルーライトの害が気になっているママ・パパでも「すごく好きだし、おとなしく見ているから」と与えてしまうことも多いようです。

たしかにスマホの中には子どもたちの興味を引く動画コンテンツやゲームがいっぱいです。でも夢中になってじっとスマホ画面を見つめる小さな瞳の奥では、どんなことが起きているのでしょう。今回は子どもの目の発達とスマホが与える影響について、小児眼科を専門とする平和眼科院長の富田香先生に伺いました。

生まれてから小学校に上がるまでは、目の発達に最も大事な時期です

子育ての必須アイテムになりつつあるスマホ。大人にせよ、子どもにせよ、スマホの利用頻度が高くなると目が疲れるのは言うまでもありません。ただ、視力が発達していない乳幼児にとっては、「目の疲れ」以外にも注意すべきことがあるようです。

眼科医として多くの子どもの目を診てきた富田香先生はこう語ります。

「まずママやパパにぜひ覚えておいていただきたいのは、生まれてから小学校に上がる前までの乳幼児期が子どもの目の発達にとってとても大事な時期ということ。この時期に、強い『遠視』や『乱視』、『近視』があったり、目の位置がずれる『斜視』になっていたりすると、視力の発達が起こらず、『弱視』となってしまいます」(富田先生)

生まれた時には未完成な状態だった視覚の神経系はモノを見て刺激を受けることで発達します。なお生まれたての赤ちゃんの視力は明るい暗いがわかる程度ですが、毎日の見る活動を通じて2歳で視力0.5前後に発達し、5歳で8割の子どもが視力1.0に達していきます。先生が指摘されたように、この時期は目の発達にとってとても大切な期間なのです。

一方、子どもの目が正常に発達しているかどうかを判断する難しさもあるそう。

「片目の視力が良い場合や、3歳で0.2ぐらいの視力があると、子どもの視力が悪いことに周囲の大人が気づくことは難しいです。なので、3歳児眼科健診で片目ずつ視力を測定して、両眼ともに視力が順調に育っていることを確かめてほしいと思います。その時期ならたとえ『弱視』が見つかっても、ほとんどの場合、治すことができます」(富田先生)

最近ではご家庭での視力検査とならんで、子どもの遠視、乱視、近視を測定し、眼球の位置を確かめる機器が乳幼児健診で使われるようになりました。このため弱視の発見率が大きく改善しているそうです。健診で目の精密検査を勧められたら、できるだけ早く眼科を受診した方がよさそうです。

外遊びが目の発達にいい理由とは

子どもの目の発達をうながすために一番大切なこと――それは「外で遊ぶこと」

その理由について富田先生はこう解説します。

「6歳ぐらいまでは視力だけでなく、近くのものや遠くのものにピントを合わせることや、見たいものへ視線を向ける眼球運動の能力も育ちます。広い場所でからだを動かして遊ぶ時には、遠くを見たり近くを見たりするし、からだの動きに合わせて目を使いますから、自然とピント合わせや眼球運動が発達するのです。一方、スマホを見ている時は、からだは全く動かず、眼球運動も狭い画面の範囲だけですよね。赤ちゃんのころからスマホばかり見ていてはピント合わせや眼球運動の発達が悪くなってしまう可能性は否定できないと思います」(富田先生)

ピント合わせや眼球運動は、日常生活はもとより本を読んだり、黒板の文字を写したりするなど教育を受ける際にもとても大事な機能となります。スマホ画面を長い時間見つめるのは、こうした発達を阻害するかもしれない、というのです。

また近年、世界的に問題になっている近視の急増についてもスマホとの関連性が疑われると富田先生。

「これまで近視の原因としては遺伝が最も大きいと考えられてきました。両親が近視であれば、両親が近視でない場合に比べて近視になる確率は7~8倍高いと言われています。それでもこのごろ近視の子どもが急増していることを考えると、遺伝だけでは説明がつきません。つまりスマホなど、デジタルデバイスの過剰な使用が影響していると考えられます。なお近視になると、視力や視野に障害が起きる緑内障や網膜剥離などの危険性が高まることが知られています」(富田先生)

最近の研究では目とモノの距離が20cm以内(※1)で近視になりやすく、30分以上近くの作業を続ける(※2)と近視の進行が速くなるとされています。

「スマホを見る距離は、大人でも平均19~20cmと言われています。子どもはからだが小さいので、もっと近づいて見ていると思われます。近視の増加は、決してスマホと無関係ではないでしょう」(富田先生)

WHO(世界保健機関)も2019年4月に出した「乳幼児に関する運動とスクリーンタイム(テレビやスマホなどの画面を見てじっとしている時間)に関するガイドライン」(※3)の中で「2歳までの子どものスクリーンタイムはゼロに、5歳までは1時間以内にとどめよう。子どもたちの健康的な発達のためにからだを動かして遊ぶことは重要である」と提言しています。

屋外活動を1日2時間、週14時間以上すると近視の進行が抑制されるという研究もあります(※4)。冒頭にもお話しましたが、子どもの目の機能は生まれてから6歳ぐらいまでに発達していくこと。さらに、からだを使った外遊びで子どもの目のいろいろな機能が育つこと、外遊びがとても大事であることをぜひ覚えておいていただきたいと思います」(富田先生)

小さな子どもへのスマホの影響は大人の場合よりも深刻です

近年、子どもや若者の間では、片方の瞳が内側に寄り左右の視線がずれる「後天内斜視」が増加。これは「スマホ内斜視」とも呼ばれ、デジタルデバイスの過剰視聴との関連が疑われています。

日本弱視斜視学会と日本小児眼科学会などは2019年から、この後天性の急性内斜視とデジタルデバイスの関連について全国的な調査を実施し、斜視の原因や治療方法などについて研究をしました。
その結果、12歳以下の子どもでは、それ以上の青年や成人に比べてデジタル機器の使用時間が短いにもかかわらず、内斜視が急性に発症していることがわかってきました(※5)。また一度内斜視になるとデジタルデバイスの使用を控えても、手術が必要になる例がかなりあることもわかりました。

内斜視では瞳がずれるだけでなく、モノを立体的に見ることができなくなってしまいます。

「両眼で立体的にモノを見る能力も6歳ぐらいまでに急速に発達します。にもかかわらず、ベビーカーに乗っているうちからスマホを見ている子どもたちも少なくありませんね。眼位(左右の目の見ている方向)も眼球運動も不安定な時期からのスマホの使用はとても心配です」(富田先生)

またスマホがからだに与える影響を考える時、デジタル機器の普及とともに取り沙汰されるようになったブルーライトの問題も忘れることはできません。ブルーライトは日光に含まれていて、昼間たくさん浴びたブルーライトが日没とともに消えると、メラトニンという睡眠ホルモンが分泌されて眠たくなってきます。ところが夜遅くまでブルーライトを浴びていると、睡眠のパターンが崩れてしまうのです。

「スマホから出るブルーライトの量は多くはないものの、子どもの場合は目との距離が近いので影響が大きい」と富田先生は言います。ブルーライトは子どもの目に悪いというよりも生活習慣の乱れにつながるということのようです。

スマホはいろいろな面で赤ちゃんの成長に影響があります。もちろん悪いことばかりではないし、使い方さえ間違わなければ非常に役立つ道具です。しかし、子どもを育てるママ・パパとして「確実に存在する悪影響」については、しっかり認識しておいた方がよいでしょう。

もちろん子育ては理想的にできるとは限りません。見せたいとは思っていないけど、仕方なく見せることもあるかもしれません。そうであれば、なおさらスマホの影響をきちんと知って、与え方について考える必要がありそうですね。

(※1)Wen L, Cao Y, Cheng Q,et al; Objectively measured near work, outdoor exposure and myopia in children, Br J Ophthalmol 2020:104;1542-1547

(※2)Rose K.A. Ip JM, et al; Role of near work in myopia: findings in a sample of Australian school children. Invest Ophthalmol Vis Sce.2008 jul;49(7);2903-10

(※3)「New WHO guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age」(WHO・世界保健機関 2019年4月24日)

(※4)Jones LA, Sinnott LT, Mutti DO et.al; Parental history of myopia , sports and outdoor activities, and future myopia. Invest Ophthalmol Vis Sci 2007:48(8):3524-3532

(※5)Iimori H, Nishina S, Hieda O, et. al: Clinical presentations of acquired comitant esotroipa in 5-35years old Japanese and digital device usage: a multicenter registry data analysis study. Japanese J Ophthalmol 2023;67;629-636

【プロフィール】
富田 香(とみた かおる)
平和眼科(東京都豊島区)院長、眼科専門医 慶応義塾大学医学部卒業 国立小児病院(現・国立成育医療研究センター)眼科等を経て、1987年より現職。眼科一般のほか、小児眼科が専門。弱視や斜視の診療のほか、先天疾患による視力障害のあるお子さん、発達障害のお子さんの診療や支援も行っている。

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