Netflixが「全話一挙配信」を主軸のスタイルにする理由とは?【Netflixジャパン 坂本和隆✕ほぼ日 糸井重里対談】
先日、糸井重里は、六本木にあるNetflixのオフィスを訪れました。「Netflixの坂本さん」に、会うために。ご存知ですか、「Netflixの坂本さん」。『全裸監督』、『今際の国のアリス』、『First Love 初恋』、『サンクチュアリ-聖域-』をはじめ、数々の「Netflixオリジナル実写作品」を企画し、世界的なヒットに導いてきた、日本コンテンツ部門のトップ。それが、Netflixの坂本和隆さんです。糸井は、『サンクチュアリ-聖域-』の江口カン監督など、たくさんの方が「Netflixの坂本さんが進めてくれたいい仕事」について話すのを聞いていて、ずっと、「その人に会って、話を聴いてみたい」と思っていたのです。「日本のNetflix」というチームは、どうして一緒に仕事をした人たちから信頼されるのか。「コンテンツを生む」ことを生業とするふたりの対談は、互いに何度も頷きあうように進んでいきました。最終回です。
糸井
たぶんそろそろ終わりにしなきゃいけないんだけど、もう少しだけ。今って、日本の映画館だともうまったくと言っていいほど、「洋画」がベスト10の上のほうに入ってこなくなりましたよね。こんなふうになるって、想像できました?
坂本
いや、本当にそうですよね。かつてとは、まったく違う景色で。
糸井
違いますよね。「日本で作ったものが上に行く」のが当たり前になった。ポピュラーソングの世界ではとっくにそうなっていて、テイラー・スウィフトはちっとも上に来ないわけですよ。みんな国際化してるって思い込んでるけど、実際にコンテンツの世界では、逆のことになっていて。
コンテンツの量もものすごく増えているなかで、縫い目を縫って縫って作ってるような、今、本当に作り手にとって「おもしろいとき」だなあと思うんですよね。
坂本
そうですよね。歴史的にも、これほど多くのコンテンツが作られてた時代って、たぶんなくて。ストリーミングもあれば、テレビ作品も映画作品もあって、もちろんYouTubeみたいな場もあって‥‥という中で、「どこで、どういうものづくりをするのか」というのは、ものすごくおもしろい時代が来ていると思いますし、クリエイターの方も、そこが一番問われてくるような気がします。
糸井
そういう時代にNetflixというチームが、自分たちもつくるし、「生みたい」人たちの機会もつくる、ひとつの「工房」の役割を担っているわけですよね。
坂本
本当に、おかげさまで。やっぱり、「なんかおもしろいことやってるな」とアイデアや人が集まってくる場所であり続けたいというのは、我々がすごく大切にしてるところですね。
糸井
それこそ、もう、まったく「映画」や「テレビ」の人だった是枝裕和監督が、今年Netflixで、向田邦子さんの代表作『阿修羅のごとく』をリメイクしましたけど、あれなんかは極言すれば、まさに「当たろうが当たるまいがやるべき作品」ですよね。仮に数字で「こうでした、何々に負けました」とか言われたとしても、なんの関係もない。あれはものすごいことやっちゃったなと思いました。
きっと、散々他の媒体でやってきた是枝さんにとっても、「Netflixでやる」っていうのは、新しいものがあったんじゃないですかね。
坂本
やっぱり、「尺の制限がない」というところは、新しさを感じていただけたんじゃないかと思います。
Netflixは尺も自由ですし、毎話同じ尺にする必要もないので、本当に回ごとのストーリーテリングに合う尺で各話を調整できるんですね。当然、コマーシャルの尺を考慮して、「必ず42分でつくってください」ってこともない。
そこにこだわっているのはやっぱり、「クリエイターの表現したいかたちを最優先したい」というところと、もう一つ、「一気見したくなるコンテンツをつくりたい」というところを重要視しているからで。
糸井
ああ。
坂本
我々はとにかく、「一度観たら、最後まで一気に観たくなる」というところにすべてを集中しているんですね。
それはやっぱり、短い期間で一気に観ていただいてSNS上でガンガン話題が広がっていく、その「口コミの強さ」というのが、もういくらコマーシャルを投下しようがかなわない我々の最大の戦略だと思っているので。「全話一挙配信」を主軸のスタイルにしているのも、やっぱりそこのためなんですよね。
そういう考え方でコンテンツをつくっていくので、「最後まで観てもらうためのストーリーテリング」を自由に追求していただける制作体制という、そういう新しさは、きっと是枝さんにも魅力を感じていただけたんじゃないかと思います。
糸井
慌てないで作ったんでしょうね、きっとね。これまでは、7話、8話のドラマを撮るときには、「撮りながら出して」っていう慌ただしさがあったわけで。宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すずっていう、あれだけのキャスティングをしたうえで、慌てずにつくれた。
そういう例ができると今度はまた、キャスティングもさらにやりやすくなりますよね。「Netflixがやるんだったら、出ようかな」っていう。
あの、今日お話を聞いていて改めて思ったんですけど、やっぱりNetflixは、「信頼」されているんだと思うんですよね。今日の冒頭に、「みんなからもらっているお金も含めて、全てはいい作品をつくるために」というような言葉がありましたけど、そのあたりのことが、一緒に仕事をした監督だとか役者の方もそうだし、僕ら観てる側の人間にも、なんとなく伝わってるんじゃないですかね。
Netflixは「売上につなごう」だけじゃなくて、結局「コンテンツに反映したいんだ」っていう、そこに一番意味を感じてやってるチームなんだろうなというのを、「観ている僕ら」側が思えるって、ものすごいことじゃないですか。でも、「信頼」されてますよね、そこを。
坂本
ありがとうございます。本当にうれしいです。
糸井
で、そろそろお時間なんですけど‥‥話が尽きないんですよ(笑)。
坂本
いや、今日だけでもなんかもう、ものすごくいろんなヒントをいただきました。企画論もそうですし、年齢の重ね方のお話もものすごく刺激的で。ぜひこれをご縁に、これからも。
糸井
そうですね、この坂本さんの個性が、「自衛隊出身」であることとかも含めて、どんなふうにできてるんだろうってあたりも気になるんですよ。おそらく、この人を「雇った側」の話もおもしろいわけで。自衛隊出身の人を雇ったし、自由にさせてるっていう。そこにはこう、アメリカの『Netflix』を語るいろんな本にもまだ出てない風土がある気がするので、そこをもう1回掘ってみたいなっていう。まあ、そのことはまた、いつか、第二部で。
坂本
もう、ぜひ。今日は本当に幸せでした。
糸井
では、第一部はこのあたりで。ありがとうございました。
坂本和隆(さかもと・かずたか)さんのプロフィール
坂本 和隆 (Kaata SAKAMOTO):1982年9月15日生 / 東京都出身Netflix コンテンツ部門 バイス・プレジデントNetflixの東京オフィスを拠点に、日本発の実写とアニメ作品のコンテンツ制作及び、ビジネス全般を統括。日本における最初の作品クリエイティブ担当として2015年に入社後、Netflixシリーズ「今際の国のアリス」「First Love 初恋」「サンクチュアリ -聖域-」「幽☆遊☆白書」など、多くの実写作品を担当。「Devilman Crybaby」「リラックマとカオルさん」「アグレッシブ烈子」などの幅広いアニメ作品も仕掛け、日本市場におけるNetflixの作品群拡大に貢献。2021年6月より現職。