【八十神の凶行】オオアナムヂノカミは二度生き返った?【眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 古事記の話】
八十神の凶行
木の国から根の堅州国へ
【二度生き返ったオオアナムヂノカミ】
さて、兎の予言は的中しました。
「私は、あなた方の申し入れを受けません。オオアナムヂノカミと結婚します」
ヤカミヒメがそう宣言すると、それを聞いた八十神(やそがみ)たちは激怒しました。そして、話し合いの末、オオアナムヂノカミを殺すことに決めたのです。
八十神は伯岐(ほうき)の国の*手間(てま)の山の麓(ふもと)を訪れて、オオアナムヂノカミに、
「この山に赤い猪(いのしし)がいる。私たちが上からその赤い猪を追い下ろすから、そなたは下で待ち受けて必ず捕まえよ」
そう厳命します。しかし、それは猪ではありませんでした。八十神は猪に似た形の大岩を火で真っ赤に焼くと、山の上から転がしました。
そうとは知らないオオアナムヂノカミは、その赤く焼けた岩を受け止めたまま、焼け死んでしまいました。
このことを知ったオオアナムヂノカミの母神である、サシクニワカヒメ(刺国若比売)はたいそう悲しみ、すぐさま高天の原(たかあまのはら)にのぼり、別天つ神のカムムスヒノミコトに助けを求めました。
すると、カムムスヒノカミは、キサガイヒメ(䢲貝比売) とウムガイヒメ (蛤貝比売)を遣わしてオオアナムヂノカミを生き返らせました。
これを知った八十神はさらなる凶行に及びます。オオアナムヂノカミをまたもや山中に誘い入れると、今度は大木に切り込みを入れて楔(くさび)を打ち込み、その間にオオアナムヂノカミを挟むと、楔を引き抜いて、圧死させたのです。
すると、またもや母神のサシクニワカヒメが現れました。母神は悲しみ嘆き、そして、今度は自らの力でオオアナムヂノカミを生き返らせてくれました。
「ここにいるかぎり、いつかは八十神に滅ぼされてしまうでしょう」
サシクニワカヒメは、オオアナムヂノカミにそういうと、その場からすぐに木(き)の国(くに)(紀伊の国)のオオヤビコノカミ(大屋䈝古の神)のもとへ走らせました。
しかし、八十神はオオアナムヂノカミの行方(ゆくえ)を四方八方手を尽くして探し求め、とうとうオオアナムヂノカミが木の国にいることを突き止めます。そして、こぞって木の国へ押し寄せました。
八十神は弓に矢をつがえ、オオヤビコノカミにオオアナムヂノカミを引き渡すように迫ります。
しかし 、オオヤビコノカミにはそのような気はさらさらありません。
木の股に空いた穴からオオアナムヂノカミをこっそりと逃がすと、別れ際にこういいました。
「スサノオノミコトがおられる根(ね)の堅州国(かたすくに)へお逃げなさい。きっとよいように計(はか)らってくれましょう」
* 手間の山は、今の島根県米子氏南方。出雲国との境にあたる。
オオアナムヂは燃えた岩を受け止めた。
オオアナムヂノカミは八十神の執拗ないやがらせに二度も命を落とす。
当時の出雲地方の地理関係
淤岐(おき)の嶋出雲の国(いずものくに)宇迦の山(うかのやま)御大の御前(みほのさき)伯岐(伯耆)の国(ほうきのくに)手間の山(てまのやま)稲羽(因幡)の国(いなばのくに)気多の前(けたのさき)高志の国(こしのくに)木(き)(紀伊)の国(きいのくに)
古事記の世界の位置関係
黄泉の国も根の堅州国も地下界であるとするのが一般的だが、その位置関係には諸説あり、黄泉の国と根の国が同一であるとする見方もある。
古事記伝承の地をめぐる赤猪岩神社
八十神が最初にオオアナムヂを殺した場面。その物語を伝える場所が残っています。
赤猪岩(あかいいわ)神社。鳥取県西伯(さいはく)郡。八十神が手間山でオオアナムヂを殺した際に使った大岩が、境内の土中に埋められていると伝わる。
キサガイヒメとウムガイヒメ
キサガイヒメ
赤貝の女神。その貝殻には年輪をあらわす刻が色濃くある。「キサ」にはキサゲ(こそげ取る)の意がある。
ウムガイヒメ
蛤(はまぐり)の女神。「ウム」には母を意味する「オモ」の意味がある。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 古事記の話』監修:谷口雅博