「やばい」「すごい」ばかりの子どもは大人になって困る 「親子インタビュー式読書感想文」の2大効果〔文章力養成講座の専門家が伝授〕
嫌な宿題ナンバー1に挙げられる「読書感想文」。しかし「自分の気持ちを文章で書く」という機会を避け続けていると、「やばい」「すごい」で会話を成立させる大人になってしまうかも!? 迷える親子に文章力養成講座「カキマクル」のゆか先生こと松嶋有香さんが、「親子インタビュー式読書感想文」の効果を解説します。
「頭がいいから中学受験する」はもう古い! 「勉強が苦手な子」こそ輝く場所がある“新しい中受”とは「嫌い、書けない、やりたくない」と小学生とその親に嫌われている「読書感想文」。しかし「自分の気持ちを文章で書く」という機会を避け続けていると、「やばい」「すごい」で会話を成立させる大人になってしまうかも!?
「あきらめるのはまだ早い!」と言うのは、文章力養成講座「カキマクル」で、下は幼児、上はエントリーシートの自己アピール文に悩む就活大学生や大人にも「書くこと」を教えているゆか先生こと松嶋有香さん。
ゆか先生は、「自分の言葉を持たない子は、大人になってからもっと困る」と、学校の勉強だけではなく人生という長い目から見た「国語力の低下」に警鐘を鳴らし、「やばい、すごいにも200種類あんねん!」を合い言葉に、「親子インタビュー式読書感想文の書き方」を指導してきました。
そこで、ゆか先生が指導する「親子インタビュー式読書感想文の書き方」の効果を解説。第1回は「親子のコミュニケーションの再構築」です。
親子で本の感想を話すと「コミュニケーションの再構築」ができる
文章力養成講座「カキマクル」の松嶋有香ことゆか先生 撮影:講談社写真映像部
──ゆか先生が教えている「親子インタビュー式読書感想文」は、簡単に言うと、親が子どもに本の感想についてインタビューをして子どもが感じたことや考えたことを深掘りし、感想文を完成させる方法です。
なぜ「書く」ために、わざわざ子どもの話を「聞く」必要があるのでしょうか?
ゆか先生:「書く」ためには、その前に何を書くのか「考える」こと、そしてその考えを「整理する」段階があると思います。特に読書経験が少ない子は、自分の気持ちをうまく言葉にできないことが多いです。理由は、自分の考えを整理して言葉にする「アウトプットの経験」が不足しているからです。
人間は、頭の中に浮かんだことを話したり書いたりして一度外に出さないと、うまく「考える」ことができません。外に出さずにいる状態は「考えている」のではなく「悩んでいる」だけ。悩みを人に話すと解決できるように感じるのは、アウトプットすると考えが整理されるからです。
撮影:講談社写真映像部
ゆか先生:子どもの考えていることを知るには、会話をすることが一番です。子どもが「ここがすごいと思った」というなら、「どんなところがすごいと思ったの?」、「それは自分でもできそうなことかな?」というように会話を続けると、子ども自身も気づいていなかった考えや感情を引き出すことができます。
そうやって出てきた「考え」や「言葉」は、その子でしか生み出せない唯一無二のものとなり、一生使える「自分の言葉」になるんですよ。
「読書感想文」の宿題を会話のキッカケに利用しよう
──小学校中学年になると、「小さいころのように、子どもがなんでも親に話してくれなくなった」「なにを考えているのかわからない」という悩みを耳にします。
ゆか先生:「なにかお母さんやお父さんに言いたいことがある?」と聞いても、すぐに素直に打ち明けられないのが、子ども心の複雑なトコロ。そんなときこそ、「親子インタビュー式読書感想文」に取り組むチャンスです。
テレビ番組でも漫画でもかまいませんが、親子で同じものを見たり読んだりする体験をしましょう。すると「共通の話題」が生まれるので、会話の糸口になります。そして「感想」を聞くことで、子どもがなにを考えているのかを知ることができます。
本をおすすめする理由は、親子それぞれが好きなタイミングで読めること。何度も読み返すことができること。一緒に読むこともできることです。物語の世界は現実とは違うので、子どもも気軽に意見を言うことができるのも、良い点です。
読書感想文の宿題なら、親子で同じ本を読む理由にもなるでしょう。2025年の課題図書(第71回青少年読書感想文全国コンクール課題図書)でいえば、小学校高学年の部に選ばれた『ぼくの色、見つけた!』は、親が読んでもおもしろい作品です。
『ぼくの色、見つけた!』(作・志津栄子 絵・末山りん 講談社)
ゆか先生:『ぼくの色、見つけた!』は、色覚障がいがある信太朗が主人公のお話です。信太朗だけでなく、両親の生き方についても掘り下げられていて、子育て中の親が共感するところ、ハッとさせるところがありました。子どもたちが読むために書かれた児童書は、大人にとっても良書である作品が多いんですよ。
──確かに、信太朗のお母さんが選択した生き方には「自分だったらどうするのか」と考えさせられました。でも子どもは、信太朗の両親についてはどうでもよくて(笑)、「そんなことを思っていたんだ」と新たな一面を知ることができました。でも意見が分かれて軽く言い争ってしまい、子どもの機嫌が悪くなってしまって……。
ゆか先生:子どもと話すときに親が心がけることはただひとつ、「絶対に子どもの意見を否定しないこと」。まずは子どもなりに考えたこと、言いたいことを全部しっかり聞くことが大切です。
「親が自分が言うことをしっかり聞いてくれた」という体験は、親への信頼につながります。そして親子の対話を繰り返し体験することで、「親に頼ってもいいんだ」という信頼関係を築いていくことができる。そんな親子関係になっていれば、「反抗期」など今後の成長過程でなにか問題が起きたときも、子どもが安心して親と話すことができるようになります。
もし子どもとの心の距離を感じていたら、宿題にかこつけて「親子インタビュー式読書感想文」に取り組んでみてください。「読書」を通して、親子の会話を通じたコミュニケーションの再構築をする絶好の機会になるはずです。
そしてこの再構築ができるのは、小学生が最後のチャンスです。
──「小学生が最後のチャンス」という理由はなんですか?
ゆか先生:小学生ならまだ、親の言うことに耳を傾けてくれるからです。
私の講座を受けている子どもたちの話を聞いていると、今の子どもたちは、友達同士でもすごく無難な話しかしないんですね。それは「思っていることをそのまま言ったら、言われた子はどんな風に思うだろう。もしかして怒られたり、嫌われたりするかも」という、怖さを感じているから。むしろ家では、親が子どもを丸ごと受け止めてあげて欲しいと思いますね。
子どもは、自分の言うことを否定され続けたら「どうせ言ってもムダ」と話さなくなりますし、親に怒られたくないので黙ります。親は「黙る=了承」だと受け取るかもしれませんが、子どもは「黙る=拒絶」です。
第2回の記事で説明するもう1つの効果「言語化能力のアップ」にも関係ありますが、考えていることを人に伝えるときには、必ず「言葉」が必要になります。もし今、お子さんと「言葉」を交わしていないなと感じていたら、まず大人である親が、子どもへの接し方を見直してみてください。
〔ゆか先生の体験例〕子どもの言葉を聞く大切さ
講座の面談で、子どもに「自分の良いところを言ってごらん」と言うと、チラッとお母さんの顔を見ることがあります。すると子どもが口を開く前に、お母さんが「うちの子の良いところは……」と話し始めてしまいます。「お母さんに聞いているんじゃないんですよ」と遮っても、子どもは親の顔を伺うばかり。親の評価の方が気になって、自分の言葉に自信がないんです。
そこで私は質問を変えて「みんなから『ありがとう』って言われたことはなに?」と聞いてみました。
すると、「隣の席の子に消しゴムを貸したら、『ありがとう』って言われた」と答えが返ってきました。「困っている子を助けてあげたんだね。やさしいね」というと、(あ、こんなことを言ってもいいんだ)という顔をするんです。すると、ほかにもいろいろ『ありがとう』と言われた経験を話してくれるようになりました。隣で聞いていたお母さんは「知らなかった……」と驚いていましたね。
本来、人を強く傷つけること以外、言ってはいけないことなんてありません。そして親子の会話であれば、ある程度傷つけるような言葉も許してあげられると思います。昔は「親よりも、友達のほうが本音を言える」と言われていましたが、今は逆。
だから子どもが本音で話せる親子関係を築くことが、子どもの自尊心を育て、ストレスフルな社会をどう生き抜いていくか、自分なりの生き方、生きる力を養うことにつながると感じています。
使った教材はこちら!
『ぼくの色、見つけた!』(作・志津栄子 絵・末山りん 講談社)