【詩人ゆずりはすみれさんインタビュー】出版社から初詩集。手のひらサイズ、約100ページ。起伏に富んだ22編
静岡市葵区の詩人ゆずりはすみれさんが、商業出版としては初めての詩集「花だったころ」(田畑書店)を発刊した。2020年に「ユリイカの新人」に選ばれる前から、私家版詩集「生活」(2018年)「かんむりをのせる」(2019年)など、作品集を多数出版していた。2020年の静岡新聞連載「暮らしの音たち」では詩を担当。近年は静岡市内で詩を読む読書会を開催している。全国にその名が広がる契機になるだろう一冊を開きながら、話を聞いた。
(聞き手=論説委員・橋爪充、撮影=写真部・堀池和朗〈人物〉、久保田竜平〈本〉、撮影協力=ひばりBOOKS〈静岡市葵区〉)
詩集として一つの世界観を提示したかった
-「花だったころ」というタイトル、そして装丁がすてきですね。
ゆずりは:イラストレーターさんを選んでいいですよって(出版社が)言ってくださったので、以前からファンだったしまむらひかりさんの過去作品を使わせていただきました。しまむらさんのイラストは可愛いけれど、ちょっと毒っぽいところもある。詩集の雰囲気に合っていると思いました。
-初の商業出版での詩集ということで、どんな気持ちでしょうか。
ゆずりは:自分一人ではできなかったので、ありがたいですね。版元の田畑書店さん、編集者さん、そして田畑書店さんに繋いでくださった方々にも感謝したいです。
-2019年から2023年までの全22編が収録されています。
ゆずりは:そうですね。20編は初出があって、残り2編が未発表。そのうち1編は自分のインスタグラムに載せています。だから、完全に未発表なのは1編ということになります。
-他にもたくさん作品があったと思いますが、どんな基準で選んでいるんですか。
ゆずりは:絶対に入れたいと思ったのは、 2019年に(雑誌)「ユリイカ」に投稿した作品ですね。前の詩集「かんむりをのせる」が、 2018年の投稿作品中心だったんですよ。だから、それ以降の掲載作品は入れたくて。「ユリイカの新人」に選ばれた後の作品、雑誌に寄稿した作品、展示や企画で書いたもの-。自分の活動のアーカイブ的な側面を残しつつ、詩集として一つの世界観を提示したいなと思って選びました。
-約100ページで手のひらサイズの判型。「控えめな感じ」が重要なファクターだと感じました。こうした規模感は詩集の制作前から想定していたのでしょうか。
ゆずりは:最初から「100ページ前後」が頭にありました。いろんな詩集がありますが、私は分量が多いと途中でしんどくなっちゃうんです。もちろん分厚い詩集はあっていいですが、私は得意じゃない。だから作るなら100ページ、20編ぐらいかなと。
冒頭から死のにおい。暗いところから明るいところへ
-目次の前にプロローグ的な作品「雨余」を入れていますが、どういう意図ですか。
ゆずりは:「かんむり―」の新装版も同じ構成にしています。自分が好きだから、ですかね。最近の詩集には多いと思いますよ。
-本編は「花」で幕開けします。びっくりしたのは最初から死のにおいが漂っていることです。「いきなり攻めているな」と感じました。
ゆずりは:気に入っている詩の一つなんですが、構成を考えたらこれだけちょっと浮くと思ったんですよね。どこに入れるのか、結構迷いました。中ほどに入れるよりも最初か最後かなと。最終的に一番最初にしました。
-読み手としては、いきなり冒頭で人生が終わっちゃうわけです。ぶん殴られた感じがしました。その後の流れも見事ですね。序盤はご自身と世界の関わりが中心なのに、だんだん他者と自分の関係の中で生まれてきた言葉が増えてきて。読み進めていくうちに第3者の濃度がどんどん高まっていくように感じました。
ゆずりは:「ユリイカの新人」に選ばれた後は、暗めのトーンの詩が多いんです。私自身、暗いのは別にいいんですけど、それを詩集として読ませる時にどうしたらいいか考えて。合間に暗い作品を挟み込むのか、まとめて載せるのか。
-結論はどうだったんですか。
ゆずりは:前の方にちょっと暗めの詩を持ってきて、暗いところから明るいところに向かっていくような形にしたんです。後ろになればなるほど光を感じるようにしました。まあ、この明るい、暗いというのは私が思っているだけかもしれませんね。読み手はそう感じない可能性は大いにあると思います。
-「編む」は叙情的ではあるけれど、記憶を呼び覚ます引き金に痛覚を使っているのがユニークです。現在と過去をゆったり行き来していて心地いいですね。
ゆずりは:ユリイカに投稿していた時の作品。当時はいろいろな詩の書き方をしてみたくて、まず最初に「句読点を入れて書いてみよう」というのがありました。三つ編みをテーマにしたきっかけはちょっと思い出せないんですが、縄のようだし、DNAのらせん構造を思い起こながら書きました。
-最後に収録した「水辺」はアフガニスタンの詩人ソマイア・ラミシュさんの、2023年1月の声明に応えた作品と聞いています。いきさつを教えてください。
ゆずりは:アフガニスタンではタリバン政権が国内の芸術活動を弾圧しています。詩作も禁じられているそうです。女性の権利も制限されている。以前からひどいことだと感じていました。ラミシュさんは世界中の詩人に向けて「詩を書くことで抗議の表明をしてほしい」とアピールしました。詩を書くことなら私にもできる。できることをしたいと思ったんです。
自分の中に景色を蓄える。ある時それが言葉になる
-詩を作り始めて20年ほどたっていると思うのですが、書きたい、書こうという衝動が切らさず続いているのはどうしてでしょう。詩を作る衝動はどこから湧いてくるのですか。
ゆずりは:作品によって違いますね。依頼があって書く場合、そうでない場合でちょっと気持ちが違うかもしれません。目で見たものに触発される、というのが大きいですね。詩を感じるような景色や出来事があるとしますよね。でもすぐには言葉にできないんです。自分の中にとどめて、蓄えておいて。そうしたら、ある時それが言葉になる。それを詩として書く。
-詩の題材を自分の体にしまっておく時間があるんですね。
ゆずりは:時間の長さは定まっていませんが、ありますね。 1年以上とどめておくことが多いかな。
-最近自分の中にしまった景色はありますか。
ゆずりは:3歳のおいっ子がいるんですけど、彼が多分2歳だった時に、公園の砂だらけのベンチに寝転んだんですよね。ただそれだけなんですが、私にとってはそれがすごく良かったんですよ。コロンコロンって、うれしそうで。今はあの風景をどうにかできないかなと思っています。
-どういうきっかけで形になるんですか。
ゆずりは:冒頭の言葉がパッと浮かべばするする書けるんです。おいっ子の話はそれがまだ出てきていない。何かいい言葉ないかなって。出てきたら書けるんですけど。