<ウナギ>消費の99%が絶滅危惧種3種に集中? DNA解析と統計で消費実態が判明
世界中で重要な水産物とされるウナギ属の魚たち。
特に日本含む東アジアでも多くのウナギを消費していますが、IUCNが評価したウナギ属12種のうち10種が絶滅危惧か純絶滅危惧に分類されています。
また、養殖に利用する稚魚は国際的に高値で取引されることから、密漁などの違法行為も発生。特定のウナギ属の減少や規制強化が同属他種へ需要をシフトさせます。
こうした中でウナギ属魚類を持続的に利用していくために、世界規模でウナギの消費量の動向を把握することが欠かせません。そこで中央大学の海部健三教授と白石広美研究員、台湾国立大学の韓玉山教授は、世界中からウナギ製品を収集し、DNA解析を用いた種同定と世界各国のウナギ流通量を推定しました。
この研究成果は『Scientific Reports』に掲載されています(論文タイトル:Global consumption of threatened freshwater eels revealed by integrating DNA barcoding, production data, and trade statistics)。
ウナギは世界で重要な水産資源
ウナギ属魚類は日本国内で漁獲されているニホンウナギを含め、ヨーロッパウナギなど全16種が世界的に重要な水産資源とされています。
さらに、養殖に用いられるウナギ属の稚魚(シラスウナギ)は世界的に高値で取引されることから、密漁や密輸などの違法行為が後を絶ちません。
IUCNが評価したウナギ属12種のうち10種が絶滅危惧種か純絶滅危惧種に分類されており、その原因として海洋環境の変化や過剰な漁獲が挙げられています。
また、特定のウナギ属の減少や規制の強化は、規制の緩い地域や他のウナギ属魚類へ需要をシフトさせます。
具体的には、ニホンウナギの稚魚の採捕量の減少はヨーロッパウナギの需要を増加させ、ワシントン条約によるヨーロッパウナギの保護は東南アジアや北中米のウナギ属へ移っていきました。
ウナギ属魚類の保全と持続的な利用のためには、世界規模でウナギの消費動向を把握する必要がありますが、今までグローバルな消費実態は把握されていません。
加工品を外見から種同定するのは困難
さらに、消費実態を明らかにするためには流通しているウナギ属を種同定する必要がありますが、加工品で出回ることが多いウナギにおいて、外見から種を判別することは困難です。
こういった状況の中、中央大学の海部健三教授と白石広美研究員、台湾国立大学の韓玉山教授は世界中からウナギ製品を収集し、DNA解析を用いた種同定と世界各国のウナギ流通量の推定を行いました。
これにより、世界規模でウナギ属のどの種がどの国や地域でどのくらい消費されているのか明らかにしたのです。
各地から282点のウナギを収集
この研究では、世界的なウナギ属の消費構造を解明すべく2023年~2025年にかけて東アジアはもちろんのこと、欧米、北米、オセアニア、東南アジアの計11カ国・地域26都市からウナギと、その加工品が282点が収集されました。
収集されたサンプルには、生鮮品に加え、蒲焼きや総菜、飲食店の料理が含まれており、これらについてDNAバーコーディングを用いた種同定が行われています。
さらに、FAO(国連食糧農業機関)と日中韓台で構成されるウナギ資源管理組織「非公式協議」の生産統計と国連貿易統計の輸出入データを用いて、2020年~2022年における各国の国内ウナギ流通量を推定。世界規模の消費構造が算出されました。
ウナギ属魚類を4種確認
DNAバーコーディングによる同定の結果、解析ができた279点からアメリカウナギ、ニホンウナギ、ヨーロッパウナギ、インドネシアショートフィンウナギの4種が確認されており、それぞれ順に54.1%、44.1%、1.4%、0.4%となっています。
さらに、FAOに基づいた全世界の年間平均供給量が約28.6万トンであったのに対し、「非公式協議」では約12.1万トンと大きな差があり、統計の不透明さが明らかになりました。その主な要因は、中国の養殖生産量の報告値の差にあることがわかっているようです。
流通量上位3カ国については、FAOデータで中国、日本、韓国の順であり、「非公式協議」のデータでは日本、韓国、アメリカの順。一人当たりの供給量は、データソースにかかわらず東アジアが上位を占めており、日本が世界で一位、次いで香港、韓国、マカオ、オランダの順となっています。
消費の中心は絶滅危惧種3種に
種構成を供給量で補正した世界消費量推定では、FAO統計でアメリカウナギ75.3%、ニホンウナギ18.0%、ヨーロッパウナギ6.7%、インドネシアショートフィンウナギ0.02%、「非公式協議」統計でアメリカウナギ52.7%、ニホンウナギ43.5%、ヨーロッパウナギ3.6%、インドネシアショートフィンウナギ0.2%という結果に。
これにより、消費の99%以上がIUCNの評価で絶滅危惧種に分類されているアメリカウナギ、ニホンウナギ、ヨーロッパウナギの3種に集中していることが明らかになったのです。
この結果は、ウナギの消費の中心である東アジアの文化的嗜好と購買力が背景にあると考えられています。
統計の精度向上が急務とされる
今回の研究でウナギの消費の中心が東アジアにあり、1人あたりのウナギ供給量は日本が世界で一位であることが判明しています。
また、世界中で流通しているウナギの種が特定された結果、世界で消費されているウナギ属の99%が絶滅危惧種3種に集中であること、最も消費されているウナギ属がアメリカウナギであることも明らかになりました。
今後、今回の調査では対象にならなかった地域やウナギ属についての消費動向の把握、ウナギ属全体の生産・貿易に関する統計の精度向上が非常に重要とされています。
(サカナト編集部)