TVアニメ『異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~』OP主題歌「Majestic Catastrophe」インタビュー|闇も光も抱えながら前に進んでいく――アーティスト・佐々木李子の進化と素顔
歌手・声優として活躍する佐々木李子さんが、夏の終わりにニューシングル「Majestic Catastrophe」をリリース。Ave Mujicaのドロリス/三角初華役や、『キラッとプリ☆チャン』のだいあ/虹ノ咲だいあ役など、さまざまなキャラクターを変幻自在に演じてきた佐々木さん。本作の表題曲は、自身が声優としても出演しているTVアニメ『異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~』のOP主題歌。荘厳なシンフォニック・メタル調のサウンドに乗せた力強く美しい、孤高の歌声で作品の壮大な世界観を鮮烈に描き出している。さらにシングルには「豪華絢爛祭」、自身が作詞を手がけた「詩をまく者」を含む全3曲を収録。これまでの道のりを振り返りながら、本作にパッケージされた三者三様のロックナンバーに込めた想いを語ってもらった。
【写真】佐々木李子『異世界黙示録マイノグーラ』OP主題歌で表現した闇と光【インタビュー】
ガツンと心を掴まれるような曲
──ニューシングルは、佐々木さんらしくありながらも、近年のソロ活動では見せてこなかった新たな表情を感じさせる楽曲になっています。ソロデビューからこれまでを振り返ってみると、佐々木さんとしてはどのような感触がありますか。
佐々木李子さん(以下、佐々木):昨年5月にランティスさんからデビューさせていただいて、最初の「Windshifter」(テレビアニメ『リンカイ!』オープニング主題歌/テレビ番組『モーニングこんぱす』5月度EDテーマ)は王道の爽やかなロックでしたし、2枚目の「Palette Days」(テレビアニメ『日本へようこそエルフさん。』オープニング主題歌)は温かくて優しい雰囲気の楽曲でした。そして今回の3枚目「Majestic Catastrophe」は、表題曲もカップリングもまた全然違っていて、よりゴシックでメタル寄り、オペラ的な要素も感じられるメロディアスな楽曲です。佐々木李子としてこういう曲を歌うのはすごく新鮮でした。私は昔からこういう闇を秘めた雰囲気が大好きなので、新鮮さと同時に「どうやってこの世界を作ろうか」とワクワクが止まりませんでした。
──佐々木さんといえば、ミュージカル『アニー』で主演を務めるなど、早くから舞台経験も積まれてきました。ご自身の音楽的バックグラウンドについて、改めてお聞かせいただけますか?
佐々木:思えば、小さい頃から本当にいろんなジャンルを聴いてきました。親も音楽好きなんですよ。例えば母は松田聖子さんが大好きだったので、私もよく聴いていました。まさに『アニー』のオーディションの自由曲でも「青い珊瑚礁」を歌っていました。一方で父はロックンロールが好きで、矢沢永吉さんの曲をよくカラオケで歌っていて、私も一緒に歌っていましたね。
ただ、自分が一番よく聴いていたのは洋楽かもしれません。小学校1~2年生の頃に『タイタニック』を観て、セリーヌ・ディオンの「My Heart Will Go On」に衝撃を受けたんです。英語の意味は分からなかったけれど、気持ちがこんなに伝わるんだ、と感動して。「こんな歌手になりたい」と思ったのが、歌手を志すきっかけでしたね。
──へえ! 小学校低学年のときに『タイタニック』を。名作ですよね。
佐々木:歴史的な悲劇を最後に楽曲で包み込むセリーヌ・ディオンに、幼いながらも心を揺さぶられました。そこから歌のレッスンに通い始め、本格的に歌手を目指すようになったんです。その後はジャズや、映画『バーレスク』でのクリスティーナ・アギレラにも夢中になりました。『バーレスク』は何回も映画館に見に行きましたし、DVDも持っています。ああいう魂で歌うような方に憧れるんですよね。日本のアーティストではSuperflyさんに憧れていて、力強い歌声に心を震わされました。
──今回の「Majestic Catastrophe」のようなシンフォニック・メタル寄りのサウンドというのはどうでしょう。
佐々木:そこまで幼い頃は深く触れてはいなかったと思います。リンキン・パークなどのバンドサウンドは聴いていましたが。それとちょっとジャンルは違うかもしれませんが、シンディ・ローパーのように、ただ歌うだけではなく「泣き叫んでいる」ように聴こえる表現には強く惹かれました。歌を超越した何かを届ける方というか……ただ巧い、ただ技術があるというよりも、その人の人生や想いが見えてくる歌が好きなんです。
──まさに佐々木さん自身の歌声もそうですよね。
佐々木:わあ、ありがとうございます。そうなれるように頑張っています。
──「Majestic Catastrophe」は“憑依系シンガー”である佐々木さんの魅力もまた、発揮されているように感じます。
佐々木:ありがとうございます。「Majestic Catastrophe」のように世界観がしっかり作られた楽曲は、自分自身もこの曲の世界観に堕ちていくような、圧倒的強者になって皆を導いていくような存在となって歌っていたので、そこはいつもの佐々木李子よりも……なんていうんでしょう。憑依させて、世界を降ろして歌っていました。
──「Majestic Catastrophe」を初めて聴いたときの印象はいかがでしたか?
佐々木:もうガツンと心を掴まれるような曲だなと。緊張感が漂っていて、ド頭の、〈惨状ヲ!叫喚ヲ!与え、行け――─〉という力強いコーラスからの重厚なコーラス。初めてデモをいただいた時に目をつぶって聴いたら、ダークな世界に君臨する者がいて、それに従い共に突き進む者たちがいて……というような情景が浮かんできました。
──クワイアのようなコーラスが入ることで、一気にその世界が立ち上がって見えるような感覚がありました。あのお声も佐々木さんなんですよね? まるで違う方が歌っているような感覚も最初のコーラス聴いたときに「あれ?」と。
佐々木:実は当初はコーラスを別の方に担当していただく予定だったんですが、このフレーズも私のお気に入りポイントだったので勝手に練習していたんです。試しに仮で歌ってみたら、音楽ディレクターさんが「李子ちゃんでやってみようか!」と言ってくださって、コーラス含めすべて自分で担当することになりました。メインとは違う雰囲気を意識してコーラスを入れたので、力強さの中にも美しさが感じられる部分になったと思います。サビの掛け合いのような部分も合わせて、ぜひ楽しんでいただきたいです。
──作詞は真崎エリカさん、作曲・編曲はアッシュ井上さん。歌詞も内容も奥深いですよね。ダークではありながらも、哲学的というか。
佐々木:一筋縄ではいかない世界に飲み込まれ、圧倒的な力を手にしたのかなと。でもその力があるからこそ、全てを包み込む温かさも持てると思うので、
そんな二面性を描いた楽曲だと思います。ただの「闇」ではなく、微かな光や祈りも感じられるというか。
──特に〈唯一 君へと 切実に願うこと〉のあたりは、それを感じました。
佐々木:そうですね。特にここはそれまでの声色と雰囲気を変えています。それまでが“闇りこち”だったので、ここはもう“ひかりこち”というか(笑)。でもラスサビでは逆に闇を極めて黒光りするような力強さを意識しました。
──曲の中でのグラデーションの違いが素敵ですよね。MVでも黒と白の世界観が表現されていました。
佐々木:そうなんです。黒い衣装の時は自信に満ちて、時には睨みつけるような、牙を剥くような強さを表現して、白い衣装の時は儚さや祈りを込めた表情にして。MVの撮影もすごく楽しかったですし、キャンペーンで、「お気に入りのシーンをスクショして投稿してください」という企画をやらせていただいたんです。
── 「#マジェリコベストショット」でさまざまな感想が寄せられていましたね。
佐々木:ファンの皆さんがいろんなシーンを細かく見てくださって、「黒のリコが好き」「白の方が好き」など感想をたくさん寄せてくれて、とても嬉しかったです。"トリコ"(佐々木李子のファンの名称)の皆さんたちのことをより深く知られたように思います。
──今日の少しゴシックな雰囲気の黒のワンピースも素敵だなと思っていました。撮影用かと思ったんですが、普段から黒がお好きなんですか?
佐々木:ありがとうございます。黒はすごく好きです。でも白も好きで、好きな色を聞かれると結局「黒か白」って答えることが多いですね。もしくは虹色(笑)。
だから今回のMVで黒と白の衣装を着られたのは、本当にテンションが上がりました。2枚目のシングル「Palette Days」とも対比になっていて、スイッチが切り替わる感じが自分でも面白かったです。
聴く人がハッとするような、ピンと張り詰めた緊張感を
──『異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~』にはダークエルフのエムル役としても参加されていますが、だからこそ歌えた心情というのはありますか。
佐々木:原作コミックスを読んだ時から「ただの邪悪な世界」だけではなくて、ところどころ笑えるシーンもあれば、平和を願う瞬間もあるんだなと感じていて。邪悪でありながら平和を願うってすごく新しいなって思いました。キャラクターもそれぞれいろいろな表情を見せてくれるので、やっぱり惹き込まれますよね。最近放送されたお話だと、ヒロインのアトゥがすごい表情で高らかに笑うという鳥肌が立つようなシーンがあって。歌でも聴く人がハッとするような、ピンと張り詰めた緊張感を出したいと思いましたね。
──それこそ一筋縄ではいかない世界観で、転生モノでありながら、これまでになかったような斬新さがありますよね。
佐々木:本当にそう思います。主人公の伊良拓斗の存在もすごく気になって。普段は優しそうな青年に見えるのに、他の者から見たら真っ黒い存在に見えるっていう。そんなギャップから内なる闇が見えてくるっていう……私自身も原作の続きを読みたくなります。ダークな作品でありながらも、アフレコの現場は和気あいあいと温かい空気で。作品そのものが「ダークさ」と「温かさ」のコントラストを持っているんだなと感じました。
──まさに「Majestic Catastrophe」との相性も抜群だなと。
佐々木:本当にそう思います。曲のメロディや雰囲気もそうですが、歌詞の中にキャラクターが浮かんでくるようなフレーズがあるんです。〈残虐ヲ!冷酷ヲ!〉なんて、まさにアトゥが言いそうなセリフのようですし、バトルシーンが頭に浮かぶところもありますし。一方で〈愛すべき仔たちよ 安らかな(blessing)今日の(blessing) Ah 御胸にあれ〉という歌詞は、守りが強いキャラクターたちの姿と重なったり、2番では双子ちゃんの姿も思い浮かんだり……ぜひ歌詞カードを見ながら聴いて欲しいです。パッと聴いたときに「これどういう意味なんだろう?」「どういう漢字なんだろう?」ってなる言葉もあると思うんです。
──確かに言葉選びが独特で、歌詞カードを見ないでフルで聴いたとき、より気になる言葉がたくさんありました。
佐々木:そうなんです。耳で聴いただけではすぐに漢字が浮かばない部分もあると思います。でも文字で見ると新しい発見があって、二重に楽しめる楽曲だと思います。
──時計の音のような「チチチ…」という音も、なんだかすごく印象的で。
佐々木:2番に入る前のところですね。MVのときも砂時計をひっくり返すシーンがあって。力強さだけではなく、あえてささやくように歌う部分もあって、楽曲全体の緩急や演出を体で感じながら歌うことができました。
難しい曲 だからこそ「燃える」
──続いてカップリング曲「豪華絢爛祭」についておうかがいさせてください。作詞をSkipjackさん、作曲・編曲を先田貴裕さん(Dream Monster)が手掛けられた曲ですが、ド頭から攻めてきますよね。
佐々木:冒頭の〈(Shangri-la)〉というフレーズから始まって、自分なりの理想郷を描くように展開していくんです。タイトル通り、ギラギラと輝く祭りのような雰囲気で、自分の人生を祭りに見立て、「それぞれの輝きで生きていこう!」というメッセージが込められていると思います。
──これもまたロックな雰囲気ではあるものの、「Majestic Catastrophe」とは毛色がかなり違う、和テイストの芳烈な曲ですよね。佐々木さんからのご希望もあったのでしょうか?
佐々木:実は今回のシングルでは「それぞれ違ったロックでいこう」というテーマがあって、その会議にも参加させていただきました。表題曲「Majestic Catastrophe」とはがらりと雰囲気もメッセージも変えよう、と。そして今作のカップリングから新しい音楽ディレクターさんとご一緒することになりまして。その方から最初にいただいた楽曲が「豪華絢爛祭」だったんです。「この曲どうかな?」って。
──その時はどう感じられたんでしょう?
佐々木:言葉数が多く、テンポも速くて、拍子も変わるのでとても特殊な動きをする楽曲だなと。一筋縄ではいかないし、それでいて歌い上げるような曲なんですよね。ディレクターさんから「李子ちゃん、いける?」っていう確認が入りました(笑)。でも即答で「歌いたいです!」と。
──カッコいい。
佐々木:むしろ燃えるタイプなので(笑)。最初に一聴したときは唸ったところもありましたけどそれでも「絶対に自分のものにしたい」と思いましたし、歌詞にも共感するところも多かったので、この曲に決めました。
──生き様の美学が込められた歌詞だなと感じました。共感できた歌詞というのは、例えば〈弱い自分に勝ち続けること〉とか……?
佐々木:そうですね。この世界で生きていくには、どうしても自分の弱さに打ち勝たなければいけないと思うんです。歌詞を読んでいると昔のことをいろいろ思い出します。私自身、挫折や葛藤を繰り返して、比べて落ち込むこともあって。辛くてボロボロの状態でステージに立ち、泣きながら歌ったライブもありました。でもその日のことをファンの方が「つらいときにあの日のライブのことを思い出します。本当に輝いていた」と言ってくださって。正直メイクも落ちてボロボロでしたけど、でも、側だけじゃなく、中身を見てくれているんだなと。歌詞の中にも〈本当に美しいべきは生き方〉というフレーズがあって、まさにそうだなと思いました。
──〈本物なら伝わるはず 伝わるまで鳴らせ〉というフレーズも印象的です。
佐々木:そこもすごく共感できるところで!音楽をやっている身としても胸に響きました。
──実際に歌ってみていかがでしたか。
佐々木:レコーディングはとにかく楽しかったです。歌詞に共感できたからこそ「届けたい」という思いが定まっていて、真っ直ぐに歌えた気がします。自信を持って歌えましたし、レコーディングというよりかは、まるでステージに立っているような気分でした。頭上にミラーボールが回っている光景や、〈祭りや祭り〉で客席の様子まで思い浮かんで。サビの繰り返しの部分やコーラスでは、ファンの皆さんと一緒に盛り上がるイメージも浮かんできました。実際にライブで歌う時は、みんなと一緒に動きをつけて楽しめたらいいなと。そういうイマジネーションを掻き立てられるようなレコーディングでしたね。
──振り付けがつくかもしれない?
佐々木:今考え中なんです。私が最初に提案したものがあったんですがダサすぎて却下されました(笑)。
──あははは、それはそれで気になりますね。
佐々木:とにかくダサかったんです(笑)。祭り感を出しすぎてしまったんですよね。せっかくかっこいい曲なので、自分たちの理想郷で心をひとつにしながら踊るような、そういう曲にできたら良いなと思っています。今月のリリースイベントで、ファンの方にどんな振り付けがいいか聞いてみたいなと思っているんです。ライブではこの祭を一緒に楽しみつつ、一緒に育てていけたらなと。
──ところで、先ほどお話に出た「泣きながら歌ったライブ」というのは、いつ頃のことですか?
佐々木:もう6年くらい前だと思います。2018年、2019年くらいだったかなと。当時は新人声優で、佐々木李子として歌手としてもデビューしたばかりの頃でした。記憶がまばらではあるんですけど、挫折するような出来事もあって。私はライブが生きがいと言っていいほどライブが大好きなんですけど、ライブ前に「もう家から出られない」とマネージャーさんに伝えてしまったくらいで。でも、その時マネージャーさんが何も言わずに家まで迎えに来てくださって、会場まで一緒に連れて行ってくれたんです。結果的に最後までステージで歌うことができました。あの日のことは今でも忘れられません。こういう曲を歌うときは、そういう人生経験を取り込みながら歌っています。
──表現することってたくさんの葛藤が生まれると思うのですが、その経験がバネになるのも、この仕事の性というか、なんというか……。
佐々木:そうですね。歌を生むもの、表現者としては、それも大切なことで。同じように悩んでいる人がいたら、説得力を持って寄り添える人になりたいと思います。
ありのままでいるのが苦手だった私
──そして3曲目には「詩(うた)をまく者」が収録されています。まさにそういった佐々木さんの人生観も感じます。
佐々木:はい。この曲は私自身が作詞を担当しました。
──「豪華絢爛祭」には〈芽吹く場所 吸い上げる水は選べない〉といった言葉もあったので、「詩をまく者」とのつながりもあったのかな?なんて思ったんですけど、これは偶然なんでしょうか。同じ花が出てくる曲でありながらその情景の違いというのも面白いなと思ったりして。
佐々木:偶然なんですけど、偶然で良いことが起こりやすいです(笑)。「豪華絢爛祭」が芍薬や百合の花が咲き誇る理想郷を描いているとしたら、「詩をまく者」はそこに至るまでの道を描いた曲なんです。まだ種の状態から芽が出なくて、頑張っても結果が出ない。そんな時期を思い出しながら書きました。ファンの方やスタッフさんは応援してくれているのに、自分の小ささを痛感して落ち込むこともあって。でもその愛があったからこそ今も続けられているんです。少しずつ「ありのままでいい」「がむしゃらでもいい」と思えるようになってきて、そういう気持ちを込めました。
──最初はありのままでいるのが苦手だった?
佐々木:そうなんです。デビューしたばかりの頃は「うまく歌わなきゃ」「MCも完璧にしなきゃ」と思って、自分で考え込んでしまっていました。全部考えすぎてしまって、自分を出すのが下手で、なかなか素直になれなかったんです。でもいろんな人や楽曲と出会って、少しずつ「自然体でいいんだ」と思えるようになりました。夢を持ち続けて、ファンの皆さんと一緒に進みたいと思えるようになれたのは、本当に幸せなことです。それを歌詞に書きました。
──それこそ佐々木さんのありのままを閉じ込めた、そしてそのありのままをさらに育てて、咲かせていくっていう。ものすごく素朴な疑問なのですが……佐々木さんはご自身で“ネガティブなタイプ”だと思いますか?こちらから見ると十分に自信を持っていいように感じるんですが。
佐々木:自己肯定感は低めだなとは思いますね。いつも「これでいいのかな」と考えてしまうんです。でも、そんな自分も含めて「これが私なんだ」と思えるようになってきました。少しずつ、そういう自分を受け入れられるようになったというか。みんなが「ここが好き」と伝えてくれるおかげで、やっと人間らしくなれた感覚があります。
振り返れば最初の頃は本当にロボットのようで、言われたことを一生懸命やるだけで、「自分って何だろう」と思っていました。だから「空っぽな人形」という意味で「Empty Doll」という曲を書いたこともあるんです。でも続けていく中で、人は少しずつ変われるんだなと実感しました。続けるってこんなにも大事なんだなって。「新人声優の佐々木李子です」と一生懸命チラシを配っていた時期もありました。でもそういう苦しい時期やオーディションに落ち続けた経験も全てつながっていると思います。当時は点で見れば小さな出来事ですが、それが今、少しずつ自信につながっているというか。そうした経験を経て、図太さや強さも身についたのかもしれません。だからこそ今は「もう大丈夫、怖くない」と思えるようになりました。
──自分を受け入れられるようになったのは、徐々にという感じなのでしょうか。
佐々木:小さな積み重ねが少しずつ大きくなった結果だと思います。夢が少しずつ叶っていく感覚があって。ある日ふと「死ぬのが怖い」と思ったことがあったんです。昔は逆で、「死にたい」と思うことはなかったんですけど、死に対して恐怖がなくて。なぜだろうと考えたときに……「今は積み重ねてきたものを絶対に壊したくない。まだまだ歌いたい、夢を叶え続けたいと思っているからなんだ」と気づいて。その気持ちになれたことが嬉しくて、その時の思いもメモに残していたんです。そんな自分の変化を絶対に歌に残したいと思って『詩をまく者』を書いていきました。
──そうした人間味のある歌を届ける佐々木さんも、素直にそれを話せる佐々木さんもまた魅力的だなと感じます。地均し、種まきの季節を経て、今があるんだなと。
佐々木:私は一気に「ボン!」と飛躍できるタイプではないので、ものすごく地道にやってきていて。でも無駄なことは一つもないんですよね。努力が実らないと悩んでいる人にも届いてほしいと思っています。
──ハイトーンとフラットな部分のコントラストも印象的でした。実際に歌われてみていかがでしたか?
佐々木:そこは無意識だったかもしれません。本当に自然体で心の動くままに歌っていたので、気持ちが正直に現れたのだと思います。〈自然体で生きていたい〉の部分はフラットに、続いていくフレーズは伸びやかに歌えていたかなと。
──この曲を歌ったことで、自分の中で前に進めた部分もありましたか?
佐々木:この歌を完成させたことで「自分の証明」になりました。最初はただ皆さんの愛を受け取る種のような存在でしたが、今は「自分らしく咲いていい」のかなと思えるようになって。満開じゃなくても、自分の花を咲かせ、その種や光を今度は自分が蒔いていきたい。そんな存在になりたい……いや、なるよ!と。
──それがまた芽吹いて、皆さんのもとで咲いていくんだろうなって。佐々木さんならではの応援歌で、静かではありますけどロックな曲ですよね。作曲・編曲は佐藤厚仁さん(Dream Monster)が担当されていて。
佐々木:そうですね。静かながらもアコギの熱情も感じられる曲です。
──「詩をまく者」というタイトルは曲中にも登場しますが、「詩」と書いて「うた」と読むのが印象的です。この読み方には、どんな想いを込められたのでしょうか?
佐々木:歌だけじゃなく、少し拙くても自分らしい言葉で気持ちを伝えたい、という想いを込めています。昔は自分の思いを言語化するのがすごく苦手だったんです。でも最近はSNSなどでも、ありのままに、赤裸々に、ふと思ったことを素直に書けるようになってきましたし、これからも自分の言葉を歌に乗せて届けたいと思っています。このタイトルはスタッフの皆さんとも相談して決めたのですが……自分でもいくつか候補を考えていて、その中で「詩=歌」という表現が一番しっくりきました。
──ところで、新しいディレクターさんとの制作はいかがでしたか。
佐々木:「詩をまく者」の歌詞も、ディレクターさんへ初稿提出した時に「これでいこう」と即決せず、たくさん読み込んで「こうしたらもっと伝わるかも」とラリーを重ねてくださって。昔の私なら言われるまま従っていたと思いますが、今は「ここはこだわりたい」と伝えられるようになって、そこを尊重してもらえています。本当にありがたいことに、いろいろな方と出会い日々成長させてもらっていて。しかも、皆さん本当に真摯に向き合ってくださるんです。コミュニケーションをしながら好きなことができている今は、本当に幸せです。
──12/27(土)にはKT Zepp Yokohamaにてワンマンライブを予定されています。どのようなライブになりそうですか?
佐々木:はい。ワンマンライブ『RE;VERSI』を開催します。今年5月に久しぶりのワンマンライブ『I'm RICO.』を開催し、それが自己紹介にもなるような、自分を表現するライブだったのですが、その延長線上にある公演で、タイトルに「再び」という想いを込めています。セミコロンには「強く結びつける」という意味があるんです。ファンの皆さんだけでなく、チームとの絆も深めて、次へつなげていきたいライブにしたいです。そして『RE;VERSI』という名前の通り、ゲームのリバーシのように、来てくださった方全員を“リコ色”に染めたいと思っています。次につながるライブにして、ここでしか感じられないもの、歌や言葉を届けて、また「佐々木李子のライブに行きたい」と思ってもらえるような時間にしたいです。
──絶対素敵なライブになりますね。〈独りじゃなかったことやっと気づけたよ〉という歌詞がありましたが、改めてそれを感じるようなライブになりそうです。
佐々木:ライブに来てくださった皆さんと、そういう空間を一緒に作り上げていけたらいいなって思っています。そして、私の夢を叶えるだけのライブではなく、ファンの皆さんにも「一緒に夢を叶えたい」と思ってもらえるような場にしたいです。一緒にもっと広い景色を見に行きたいと思えるライブにしたい……いや、します!
[文・逆井マリ]