【模擬テスト】冷却原子を用いた固体の量子シミュレーションとは?【眠れなくなるほど面白い 図解 量子の話】
量子シミュレーションで新しい物質の特性を探る!
シミュレーションとは「模擬テスト」をすることです。ものづくりでは頻繁に本物に似せたミニチュア版を使って、実物がどのように動くか模擬テストを行います。たとえば、たくさんのコンピュータにゲームとして車を運転させ、お盆の東名高速道路の混雑具合を予測したりします。コンピュータの性能が上がり、さらに複雑なシミュレーションが可能となってきましたが、実は量子力学のルールで動いている「量子システム」は、いまのコンピュータでは非常にシミュレートしづらいということが知られています。
そこで出てきたアイデアが、「量子シミュレーション」です。1981年、アメリカの物理学者リチャード・ファインマンは、講演で「量子システムをシミュレートするなら量子力学に基づく方法でやったほうがよい」と提案しました。現在行われている多くの量子シミュレーションは、「操作しやすい量子実験を使って、別のものを模倣」しています。その1つが冷却原子を用いた固体の量子シミュレーションです。
固体の中では原子が並んだ結晶格子と呼ばれる、ある意味迷路のような構造の中を電子が飛び回っています。壁にぶつかったり、通路をまっすぐ進んだりを繰り返して動く電子の様子がこの固体の性質、たとえば導体、絶縁体、半導体、超伝導体といったものを決めていきます。行き詰まってどこにもいけない電子だらけなのが絶縁体、壁をスルッとすり抜けながら進むのが超伝導体という具合です。
冷却原子を用いた量子シミュレーションでは、真空チャンバー(真空槽)の中に強いレーザー光を発射し、プロジェクターの要領で気ままな「迷路」のパターンを空中に描いていきます。レーザー光で壁や通路の中を原子がどのように飛んでいくのかを調べると、まるで電子が固体の中を飛んでいくように振る舞っているのがわかります。このレーザー光の「迷路」の形を変えると、各種物質の「模擬テスト」ができるようになります。
こうした量子シミュレーションは、現在、室温超伝導体など新しい素材からブラックホールにおける「ホーキング放射」など、基礎から応用までさまざまな分野で研究がされているのです。
冷却原子を利用した固体の量子シミュレーション
固体の迷路で動けない電子
固体の迷路でスルスル動いていく電子
熱伝導体
固体の中には原子が並んだ結晶格子(結晶内で粒子配列構造を表すもの)があるが、これは一種の迷路のような状態。その中を電子が飛び交い、そのときの電子の様子で導体や絶縁体、半導体、超伝導体などが決まる。
レーザーを使った物質の「模擬テスト」
レーザーと原子を用いた「仮想の固体」
冷えた
冷えた原始・レーザーで描く光の迷路
冷却原子を使って真空チャンバーの中に強力なレーザー光を発射し、空中にさまざまな迷路を描いていく。原子の飛び方を調べると電子が固体の中をどのように動くのかがわかる。迷路の形を変えることでいろいろな物質の「模擬テスト」ができ、各種素材の特性が試せる。
シミュレーションとは「模擬テスト」することだけど、たとえば図のように砂浜に砂山をつくってトンネルを掘ると、砂の湿り気や砂の固め方でトンネルの強度が変わるし、割り箸などで橋をつくって強度を試したりする。これはミニチュアで実際のものがどう動くかテストすること。それとは別に道路の混雑具合を計算でシミュレートしたりすることもあるんだね。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 量子の話』著:久富隆佑、やまざき れきしゅう