Yahoo! JAPAN

藤津亮太さん新刊『富野由悠季』 監督のキャリアに迫った読み応えのある一冊!

アットエス

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は藤津さんの新刊『富野由悠季論』についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

富野由悠季のキャリアと作品に迫った大作

3月21日に、新刊『富野由悠季論』を出版しました。全496ページ、20万字以上の大作です。テーマを絞ってこの分量なので読み応えはあります。

タイトルの通り『機動戦士ガンダム』などで知られる富野由悠季監督がどういう風に演出家として、あるいはストーリーテラーとして変化していったのかを追った本です。まずは監督のプロフィールから始まり、最初にアニメで仕事をした『鉄腕アトム』の検証をしました。

その後監督になっていく過程でどういう風に技術が磨かれていったかを1話ずつ見て、うまくいっていない箇所や成長している箇所をピックアップ。そこから、監督のキャリアの前半のひとつの到達点として『ガンダム』の一話があるということと、ガンダムでニュータイプを出したことが、その後の富野監督の話作りの次のステップになっているという感じですすめています。

本編は全11章で、それとは別に監督作品の全解説をつけています。この作品解説は3ブロックあるのですが、本文では富野監督の演出やストーリーテリングに注目しているので、そこに入らない話を入れています。この作品のメカデザインはこの人で、この人がこういう貢献をしたのでこの作品はここが魅力ですよねみたいな話です。

帯は、2002年のロボットアニメ『OVERMANキングゲイナー』や『∀ガンダム』に参加していた脚本家の大河内一楼さんにお願いをしました。「富野アニメを見ていた少年期の自分が膝を打ち、富野アニメを書いていた脚本家の自分が納得する富野監督解体新書でした。」という大変素敵な帯文をいただきました。

実際僕も富野作品を見て大人になったので、あのときなぜああだったんだろうということをいろいろ考え、もう一度当時の資料を当たって再構成していったので、こういう感想をいただけて、とてもよかったな、思いが届いたなと思いました。

この本の特徴として、『鉄腕アトム』のときに富野さんが具体的にどういうことをやったのかを検証しています。『鉄腕アトム』は新作がほとんどなく、既存のフィルムをつないでオリジナルエピソードにしたものが何本かあるのですが、それを富野監督が全部やっているんです。どんどん上手くなり、最後はすごい凝った編集で1本の話を作り上げています。これは自分がどういうものを作りたいかとか、編集や映像でストーリーを語るというのはこういうことだというのを学んでいった過程なのでしょう。

もう1つ興味深かったのが、最初のガンダムと続編である『機動戦士Ζガンダム』とで、かなり雰囲気が違うということ。スタッフが変わったというのも大きいのですが、一番は間に『伝説巨神イデオン』と『聖戦士ダンバイン』があったからではないかと思います。ダンバインであまりテーマが完成せず、なにかがうまくいってなかったことがZガンダムに持ち越され、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』へ続いたのではないかという仮説を検証しています。この辺りはあまり語られてない話ですね。

あとは監督が還暦を過ぎてからは、「科学技術が関与して人間が世界の真実を知る」というテーマから、「身体性が大事」とか、「大地に還る」といったメッセージ性が強くなっていきました。これがどう転換してどういう風に作品の中で表現されるようになったか。それを考えると『ガンダム Gのレコンギスタ』は必然性があってあの内容になっているのだと思います。

そういうみんな何となく思っているけど、あまり語られてないようなことも言葉にして、しかも監督の言葉やフィルムからわかるようなことをなるべく拾って書きました。富野作品に触れたことがある方なら楽しんでいただけますので、ぜひ読んでいただけたらと思います。

【関連記事】

おすすめの記事