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「新しい消費」と「関係人口」が創り出す、十勝と全国をつなぐ新たなライフスタイルの形とは 十勝シティデザイン創業者、柏尾哲哉さんインタビュー

Domingo

2014年に創業した「十勝シティデザイン株式会社」は、帯広や十勝のまちづくりに取り組んできました。コミュニティ型ホテル「HOTEL NUPKA(ヌプカ)」の運営や、帯広中心部をお酒とともに楽しむ「馬車BAR」など、地域を活性化するさまざまなプロジェクトを展開。現在は、大都市と地域を結ぶ「新しい消費」をテーマに、100年人生時代にふさわしい新たなライフスタイルや働き方を模索しています。

今回は、地域と全国の新しい関係性を築くための取り組みについて、十勝シティデザイン株式会社の創業者である柏尾哲哉さんにお話を伺いました。

十勝・帯広から目指す「新しい消費」の姿とは

――本日はよろしくお願いいたします。まずは、「十勝シティデザイン株式会社」のこれまでの取り組みについて教えてください。

十勝シティデザイン株式会社・ホテルヌプカ創業者の柏尾哲哉さん

柏尾哲哉さん(以下、柏尾):2014年に帯広で創業しました。きっかけは2013年に地元十勝の魅力をPRする短編映画「my little guidebook」の制作でした。それを機に、2016年にはコミュニティ型ホテル「HOTEL NUPKA」を立ち上げ、十勝産の大麦麦芽を使用した「旅のはじまりのビール」など、地域と人をつなぐプロジェクトを次々に展開してきました。ホテルを拠点に、人々が集い、地域の情報を発信する場を作ることを目指してきました。

HOTEL NUPKA
旅のはじまりのビール

2021年度からは、「関係人口創出・拡大」に注力し、内閣府の補助事業に採択されました。今年はさらに進化させて、「新しい消費」をテーマに、「関係人口型地域商社」という取り組みを始めています。

――「新しい消費」とはどのような消費行動なのか、具体的にお教えください。

柏尾:「消費」といえば、これまでは「お金を払って商品を買う」という行為が主なイメージでしたが、実はその背後にはたくさんの人々が関わっています。農家が原材料を作り、加工業者が商品に仕上げ、物流業者が運び、販売者が消費者に届ける。その一連の流れに関わる人々の努力や想い、さらには課題を消費者が理解し、それを支援する形での消費が「新しい消費」の本質です。単に商品を購入して終わりではなく、たとえば生産者に直接会って話を聞いたり、活動をサポートしたりするという、広がりのある消費行動です。

「新しい消費」のイメージ

――なるほど、それが「新しい消費」なんですね。具体的にはどのような取り組みをされていますか?

柏尾:具体的には「関係人口型地域商社」というプロジェクトを進めています。これは、都市部の消費者が地方の生産者を支援し、その活動の成果を報酬として受け取る仕組みです。消費者が「関係人口」として地方と関わり続け、生産者のマーケティング活動などを手助けすることで、生産者は都市部に販路を拡大し、消費者もそのサポートの成果から報酬を得られます。このようにして、双方にメリットが生まれ、取り組みが持続可能になることを目指しています。

「関係人口型地域商社」のイメージ

「地域資源を活かし、北海道の持つ可能性を広げる」

――この取り組みが、北海道に住む人々にとってどのような意味を持つのでしょうか?

柏尾:北海道は農業や酪農、漁業といった一次産業に強みを持つ地域です。また、その産物を加工・サービス化することで、さらに経済価値を生み出す可能性も大きい。しかし、担い手不足や後継者問題、東京圏からの距離の問題など、様々な課題があります。札幌は北海道内で唯一の大規模都市なので、ここを拠点にして「新しい消費」を推進することが重要だと考えています。地域資源を活かし、生産者と消費者がWin-Winの関係を築くことで、北海道の持つ可能性をさらに広げていけると思います。

――「地域経済の活性化」以上の意味があるということですね。

柏尾:そうです。新しい消費は、単に地域の生産者を支援するだけでなく、都市に住む消費者に新しいライフスタイルや働き方の可能性を示します。年金問題や少子高齢化、経済の停滞などで、100年人生をネガティブに捉えがちな現代社会において、地域と連携することで新しい生き方を提示することができるんです。これは日本全体の経済構造を再構築するような、大きな可能性を秘めた取り組みだと思っています。

――大都市圏の消費者にとっては、具体的にどのような変化が期待されるのでしょうか?

柏尾:私たちが進めている「関係人口型地域商社」のモデルでは、大都市の関係人口が、地域の生産者の代理人として都市部で商品を紹介する役割を担います。地域産品を知ってもらうことで、その地域や暮らしている人々への共感が広がり、さらに多くの人々が関係人口として地域と関わりを持つようになるでしょう。中には、地域に移住したいと考える人も出てくるかもしれません。実際、「いつかは田舎暮らしを…」という声は少なくありません。しかし、地方移住の最大のハードルは“収入”の問題です。

地方では、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)は向上するものの、収入や所得が減ることが「トレードオフ」として語られがちです。それは現実的な課題ではありますが、今後も同じ状況が続くとは考えていません。地域資源を活かし、高付加価値の商品やサービスを創出し、全国や海外市場に輸出できれば、現状よりも高い所得を得る可能性もあるのです。地域で高収入が得られれば、生活の質と収入を両立できる移住が増えると考えています。

ただし、現時点でこれが難しいのは「遠距離課題」があるからです。特に北海道のように都市から1000キロメートル以上離れた地域では、物流も大変ですが、人と人との交流も希薄になりがちです。インターネットが普及していても、実際に会って信頼関係を築くことが重要です。しかし、遠方への移動には時間や費用がかかり、頻繁に訪れることは簡単ではありません。「お金の課題」と「遠距離課題」を克服する必要があります。

地域が「お金の課題」と「遠距離課題」を解決するには

――「お金の課題」と「遠距離課題」はどうやって克服できるのですか?

柏尾:「新しい消費」は、地域との関わりを通じて収入を増やす可能性を示しています。また、地方に生活拠点を持つことで、生活コストを抑えることもできます。人生100年時代、年金問題などの不安が高まる中で、地域との関わりが収入面の課題を解決する鍵になると考えています。

「遠距離課題」の解決には、情報通信技術(IT)と観光滞在を組み合わせることが重要です。コロナ禍でオンライン会議が普及しましたが、直接会う重要性も改めて感じられました。昨年、ソニーで開発されたテレプレゼンスシステム「窓」を使い、渋谷と帯広をつなぐ実証実験を行いました。この技術を活用し、東京から十勝を訪れ、現地での交流を促進するプログラムを展開しています。HOTEL NUPKAは、このようにして人々が集まり、地域と深い関係を築ける場として機能しています。

テレプレゼンスシステム「窓」

――今回の「新しい消費」に関する取り組みが始まったきっかけは?

柏尾:2021年、HOTEL NUPKAの別館「NUPKA Hanare」を、第一生命保険株式会社(以下「第一生命」)の帯広支社ビルの一部をリノベーションして開業したことが大きな転機となりました。第一生命は、預かった保険料の一部を不動産投資で長期的に運用しており、帯広支社ビルのリノベーションもその一環でした。このビルの大規模な改修に際し、同社の不動産部が単なる収益を超え、地域貢献も視野に入れたESG不動産投資を意識し、当社の地域貢献型ホテル運営のコンセプトに共感してくださったことが、「NUPKA Hanare」誕生のきっかけです。

NUPKA Hanare

さらに、帯広市も加わった三者間で「ワーケーションを通じた関係人口の創出・拡大」を目的とする連携協定を結び、この施設を関係人口を生み出す拠点として活用することに合意しました。その後、2024年に入り、第一生命の不動産部から、2023年に竣工したオフィスビル「D-LIFEPLACE札幌」と札幌の駅前地下通路(チ・カ・ホ)が直結する地下のオープンスペースで、十勝の関係人口を増やすイベントを実施してみませんかという提案をいただきました。このイベント企画を進める中で、「新しい消費」と「関係人口型地域商社」の構想が結びつき、具体的なコンセプトが発展していきました。

D-LIFEPLACE 札幌

「関係人口」となり地域と都市の両方に携わるライフスタイルを構築

――キーワードとしてたびたび出てくる「関係人口」についても詳しく教えてください。

柏尾:「関係人口」とは、完全な移住はしないものの、地域と継続的に関わり、地域の発展に貢献する人々を指します。観光以上の深いつながりを持ちながら、地域のイベントや産品の販売、マーケティングに参加するなど、定住せずに地域経済や社会に積極的に関わる形です。関係人口は、地域と都市をつなぐ架け橋として、地域の活性化に大きな役割を果たしています。

この「関係人口」の概念は、中国地方の山間部で生まれました。山間部での農業を持続させるために、広島や岡山の都市部から人材交流を促進する取り組みとして始まったのです。都市の人々が農村と継続的に関わりを持つことで、地域の産業や文化を支える新しい形が作られてきました。

都市と地域における「関係人口」のイメージ

十勝は、日本でも有数の大規模農業地帯であり、この地域の「関係人口」の役割は非常にダイナミックなものになると考えています。これまでの地域創生の取り組みは、観光振興を通じて交流人口を増やし、観光消費による経済効果を狙うものが中心でしたが、十勝ではそれを超えて、農産物や工芸品の生産や、さらには飲食店や商業施設の運営といった、地域全体の産業基盤を継続的に支援するような形で関係人口が活躍することが期待できます。

さらに、関係人口として活動することは、都市部の人々にとっても新たな生きがいや価値を見つける機会です。たとえば、「ライフシフト」や「100年人生」の考えに基づき、地域と都市の両方に関わることで、社会貢献をしながら新しいライフスタイルを構築できます。こうした背景から、「新しい消費」と「関係人口型地域商社」の構想を進めており、都市と地域が互いに成長する持続可能なモデルを目指しています。都市部の関係人口が地域の商品をプロモーションすることで、消費者との新しい関係が築かれ、それが「新しい消費」へとつながっていきます。

――「新しい消費」は、“地域に関わる”という点でいえば、ある意味「ふるさと納税」にも近いものを感じますが、いかがですか?

柏尾:「ふるさと納税」も地域を支援する一つの手段であり、消費者が地域に貢献するという点では共通点があります。しかし、ふるさと納税は多くの場合、寄付行為として一度の関与で終わることが多いです。「新しい消費」は、それを超えて、より深く持続的に地域との関わりを築くことを目指しています。単に返礼品を受け取るのではなく、消費者が生産者の活動や課題に共感し、直接的な支援を通じて、互いに利益を共有する関係を作り出すことが「新しい消費」の本質です。

新しい消費の大きな特徴「消費者が積極的に関与する仕組み」

――近年は地方の生産者が自らECサイトに出品し、それを都市部の人が購入するというシーンも増えていますよね。それと「新しい消費」との大きな違いはなんでしょう?

柏尾:ECサイトでの購入も、生産者支援の一つの形として非常に有効です。しかし、「新しい消費」は、単なる物の売買にとどまらず、消費者が生産者の努力や思いに共感し、それを支援する行動を起こす点で大きく異なります。例えば、ECサイトでは購入したらそこで関係が終わることが多いですが、「新しい消費」では、生産者とのつながりを深め、都市部でのマーケティング活動を手助けしたり、現地を訪れて直接生産者と交流するなど、消費者が積極的に関与する仕組みです。この点が大きな違いです。

――「HOTEL NUPKA(ヌプカ)」にも地方と人をつなげる、帯広を盛り上げるという思いがありますが、その一つの集大成が「新しい消費」といえるかもしれませんね。

柏尾:そうですね。十勝は北海道内でも元気がある地域ですが、人口減少や中心部の衰退といった課題もあります。しかし、農業や食に関しては非常に豊かな資源があります。私たちのホテル「HOTEL NUPKA」は、地域内外の人々が交流し、新しいコミュニティを築くための拠点としての役割を果たしています。旅行者がこの地に訪れ、さらに関係人口として地域と関わりを深めたり、移住を考えるきっかけになることを目指しています。単なる宿泊施設ではなく、地域活性化のハブとして機能したいと思っています。

――かつて「鉄道」がそうであったように、人が集まる「ホテル」が街を作っていくと考えると面白いですね。現代における役割が、鉄道からホテルに移り変わっていった印象です。

柏尾:確かにそうですね。150年ほど前までの北海道は一面の原生林に覆われていました。しかし、明治時代に鉄道が敷かれると、物流と人の移動が一気に活発化しました。鉄道駅は町の中心となり、駅周辺には商店や住民が集まってコミュニティが形成されていきました。しかし、現代の地方社会では車移動が主流となり、駅周辺の中心市街地は次第に空洞化が進んでいます。車社会では、すれ違っても人との交流が生まれにくく、孤独になりがちです。

その点、ホテルがある町の中心部は、公共交通機関や飲食店が集まりやすく、旅行者や歩行者にとって便利な場所です。そこでは人と出会ったり、自然に会話が生まれたりと、非常に人間らしい交流が促されます。ホテルは単なる宿泊施設ではなく、地域の「ハブ」としての役割を果たし、人々が集まり、情報やアイデアが交換される場となります。さらに、新しい取り組みやプロジェクトが生まれることも多いです。こうした人々の交流が、新しい価値を生み出し、「新しい消費」を促進していく。これこそが、これからのホテルの役割だと信じています。

地域と人のつながりを創り出しているNUPKA

新しい消費で「消費者と生産者の双方が豊かな生活を実現できる世界を目指す」

――いろいろとご説明いただきありがとうございました。今後、「新しい消費」はどのように展開されていくのか、その未来についてお考えをお聞かせください。

柏尾:ここまでは「新しい消費」を主に国内での取組みとしてお話してきましたが、今後は世界への広がりも視野にいれていけると考えています。例えば、世界中から北海道を訪れる旅行者が「関係人口」として、この地域の事業者や生産者を支援し続ける関係を構築していく未来を描いています。生産者の方々が日々情熱を持って取り組んでいる「ものづくり」は非常に魅力的ですが、それを広めていくためには限界もあります。だからこそ、消費者が「新しい消費」を通じて積極的に地域に関わり、生産者とともに成長していくことが重要です。私たちは、その先に、消費者と生産者の双方が豊かな生活を実現できる世界を目指しています。

行動を通じて知識や経験が蓄積され、地域資源がさらに高付加価値なものに転換されていくと信じています。地域ごとにオンリーワンやナンバーワンの取り組みが全国各地に広がれば、日本全体が新たな活力を持つ国として再生できると確信しています。「新しい消費」のムーブメントが、地域活性化だけでなく、消費者自身のライフスタイルや生きがいにおいても大きな変化をもたらすでしょう。

――素晴らしいビジョンですね。今後の発展に期待しています。本日はありがとうございました。

(インタビュー:山下恭平)

柏尾 哲哉
十勝シティデザイン株式会社/ホテルヌプカ 創業者

帯広市出身。東京で弁護士として活動しながら、2014年に十勝シティデザイン(株)を同郷の坂口琴美と共同で創業。短編映画(my little guidebook)の製作(2013年)、コミュニティ型ホテル「ホテルヌプカ」の開業(2016年)、十勝産大麦を使ったクラフトビール(「旅のはじまりのビール」)の企画・販売(2016年)、十勝の輓馬が曳く馬車BARツアー事業など十勝・帯広を拠点に注目の取組みを立て続けに開始。2020年のふるさと企業大賞(総務大臣賞)受賞、帯広市・第一生命とワーケーション推進連携協定を締結し関係人口拡大に向けた取組みを本格化。2021年4月に開業した新館「NUPKA Hanare」を活用するワーケーション推進事業が、内閣府の地方創生関係人口実証実験に採択され注目される。2022年より「帯広中心市街地の将来構想を考える会」を主催

NUPKA MARCHE from 十勝

「知って、広める」新しい消費の仕組みと「関係人口」で、十勝・帯広とつながろう!

十勝・帯広で、世界から訪れる人たちを「暮らすような旅」でおもてなしするホテル、HOTEL NUPKA(十勝シティデザイン運営)。そんなNUPKAがオススメする自然豊かな十勝でつくられた豊かな食の数々が札幌に集結。

販売や試食・試飲はもちろん、モーニングイベントやトークも。十勝・帯広の魅力を存分に感じてください。

■開催日:2024年10月12日(土)・13日(日)
■開催時間:11:00-16:00
■会場:D-LIFEPLACE札幌 B1F(北海道札幌市中央区北3条西4-1-4)
※チ・カ・ホ直結、地下鉄「さっぽろ」駅10番出口直結)


<ミニイベントも開催!>

■パネル展示
10月10日(木)~13日(日)※最終日は16:00まで

十勝シティデザインと第一生命のコラボで生まれた「NUPKA Hanare」から「関係人口」「新しい消費」への広がりなどをパネル展示。地域と都市とが連携する「新しい未来」を提言します。

■モーニングトーク&イート
10月11日(金)8:00~10:00

十勝からお届けする軽食&ドリンクを片手に、十勝・帯広で農業/食/観光分野で新たな取組みに挑戦する地域事業者の紹介と、「新しい消費」及び「関係人口」に関するトークセッション。

■ミートアップ&トークイベント
10月11日(金)18:30~20:00

十勝の農業を支えた馬文化の記録を残す短編映画「馬橇の花嫁」の紹介。札幌国際短編映画祭での上映前日に逢坂芳郎監督をお招きしてのトークセッション。「新しい消費」及び「関係人口」に関する取組み紹介も交えながら。

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