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上野万太郎の「この人がいるからここに行く」 春日市で東インド料理文化を発信する「インディアンスパイスファクトリー」の中山さん夫妻物語

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インド・ベンガル地方で日本料理店を運営していた中山浩司さんが、福岡県春日市でベンガル料理を専門とするインド料理店「インディアンスパイスファクトリー」を妻の祥子(さちこ)さんと一緒に開業したのは2018年12月。僕は翌年1月にカレー好きな友達に誘われてディナーに伺ったのが最初だった。

ベンガル料理とはベンガル地方の料理なのだがどういう料理なのか、そもそもベンガル地方とはどのあたりなのか。
「ベンガル地方とはインドの東側の端っこにあって、西ベンガル州と隣国であるバングラデシュが含まれる地域のことです。そして、ベンガル料理は米、魚介類、野菜を多く使用していることもあり、日本人にとってもたいへん馴染みやすいインド料理の一つだと思います。特に鯉やナマズなどの淡水魚を使うことが特徴的です。私はコルカタ生活が長かったので、ほぼ毎日のように食べていました。激辛でもなく、素材感、スパイス感がしっかり出た優しい味の料理が多いです。私が思う美味しいベンガル料理を提供することにより、福岡とコルカタとの架け橋になりたいのです」と中山さん。

早速結論的な話を書いたが、そもそもどうして中山さんは東インドのコルカタに住んでいたのかまで遡って、コロナ禍以後の現在の「インディアンスパイスファクトリー」についてあらためて話を聞いてみた。

「インディアンスパイスファクトリー」の資料より

広島県出身の中山さん

中山さんは1975年広島市生まれ。大学浪人中にタワーレコードやアパレルでバイトしながら音楽バンド活動に夢中になっていたそうだ。

「2浪して大学に入学したもののバンド活動に熱中し外国の音楽に触れたくてワーキングホリデーを利用してオーストラリアのメルボルンに行ったんです。そこで1年半過ごしました。特に1960~1970年代のソウルやファンクなどのブラックミュージックをベースにした音楽で3バンドを掛け持ちしていました」

「音楽への気持ちは高まるばかりでオーストラリアに移住しようと考え始めたのです。どうやったら移住できるかを現地の人に相談していたら、料理人になると移住条件をクリアしやすくなると聞いたんです」。

帰国した中山さんは料理人の道を目指すことにした。あくまでもオーストラリアに移住する目的として飲食業に飛び込んだというから移住にかける本気度が伺える。

飲食業界に就職

結局、留学もしていたため6年かかって大学を卒業した中山さんは、広島市で日本料理店を運営する会社に就職した。「どうせ働くのだったらこの道でも成功したい」と思い、良い条件の話があればキャリアアップのために何社か転職もしたそうだ。

ー そのうち音楽の道を諦めて飲食業で生きていこうと決意したということでしょうか?

中山さんー 下積み時代を3年経験した後に調理師免許を取得しました。その頃から料理も楽しくなり、音楽の道は諦めて飲食業界で生きていこう思うようになりました。

ー 広島から福岡に来たきっかけは?

中山さんー 4社目くらいの会社に移った時に全国の店舗マネージャーをしていたのですが、広島よりも福岡のほうが交通の利便が良いので福岡事務所をつくってもらい、福岡に転勤しました」。

ー その後にインドに行くことになるわけですね?

中山さんー そうです。当時の会社の社長の知り合いにインド人の方がいて『インドのコルカタに和食店を開業したいので一緒に取り組んで欲しいと』という相談があったのです。その話が進んで海外経験のある自分に声がかかってインドのコルカタに和食レストランを作ることになり赴任することになりました。

中山さんがインドにつながったのはここがスタートだった。数年後にはコルカタで2店の他にデリーやチェンナイでも和食店を展開するに至った。中山さんはそこでシェフとして、マネージャーとして仕事に励んだという。そして約2年間コルカタで勤務。現地での仕事が落ち着いた頃、会社の辞令でコルカタから帰国することになった。帰国したタイミングで中山さんはまた福岡の飲食会社に転職。福岡の食材に力を入れた和食居酒屋チェーン店を経営する会社で2年間マネージャーとして働いた。

ー それからまたインドへ行かれたんですよね?

中山さんー はい、インドに住んでいた頃の関係先のインド人から声がかかり、再びコルカタで新しい和食店の運営に関わることになりました。その時は就職ではなくコンサルタントというか共同経営者というかフリーの身でそのプロジェクトに参加することになったんです。それを機に再びコルカタに移住しました。

実はこの頃、祥子さんと福岡で知り合い結婚していた。一緒にインドに行こうと思っていたが、第一子の出産を控えていたので中山さん単身で渡印することにした。その後2年間コルカタで仕事に打ち込んだが、いろいろ問題もあり、帰国することになったそうだ。

コルカタ勤務時代の中山さん

「インディアンスパイスファクトリー」の開業

ー そしていよいよ「インディアンスパイスファクトリー」の開業となるわけですね。

中山さんー 東インドで日本人シェフが本物の和食料理を提供するという仕事に長年取り組んできたので、逆にインド人シェフを日本に連れて来て本格的な東インド料理を提供するのは面白いんじゃないかと思ったのです。

日本には北インド料理、ネパール料理、南インド料理を提供するレストランは増えていたが、確かに東インド料理レストランは少ないのだ。
2018年12月にインド人シェフを日本に呼び寄せ「インディアンスパイスファクトリー」を開業。最初にも書いた通り、米、魚介類、野菜の素材感を大事にしながら優しいスパイスをまとわせて提供するベンガル料理と呼ばれる東インドの料理は、なかなか日本では食べられないので福岡のカレー界隈では話題になりファンも増えていった。

ランチプレートの一例

ー しかしその後、コロナ禍が世の中を襲うことになるわけですね。

中山さんー コロナ禍でインド人シェフの帰国や再入国が自由にできなくなり、さらに感染症対策や営業時間制限のために思うように店を開けられない状況が続きました。最終的には家族に会うためになんとか帰国したインド人シェフが日本に戻って来る目途が立たないという状況が続いたので、大きく方向転換をせざるを得ませんでした。ということで、長年料理人をしていた妻の祥子をシェフとして2人で切り盛りしていくことにしました。

妻、祥子さんの経歴

それでは祥子さんの経歴をご紹介しよう。
祥子さんは、大分県日田市出身で高校時代は家政科で縫製や料理などを勉強していたそうだ。福岡市のファッション専門学校を卒業し一旦アパレル会社に就職したものの会社都合で退職することになり、福岡市内の「難破船」というスペインバルにアルバイトとして働きだした。半年後には調理長になり山あり谷ありではあったが、結局そこで16年間スペイン料理人としてのキャリアを積んだ。

「難破船」勤務時代に、のちに夫となる中山さんが客として来店した。マスターに紹介された祥子さんは中山さんと食事に行ったりするようになったそうだ。
「最初はその気はなかったのですが、結婚まで話が進んでいきました(笑)」と祥子さん。

中山さんが単身インドで仕事している間に、一人目の娘さんを出産した後は、子供を連れてインドに何回も足を運んだそうだ。自身も料理人をしているので、インド料理にはとても興味があり楽しかったという。数週間から一ヶ月以上インドに滞在している間は、現地の人に料理を習ったり食材を買ってインド料理を作ったりしていたという。

コルカタにて

コロナ禍以後「インディアンスパイスファクトリー」のシェフとなった祥子さん

「コロナ禍での営業ではインド人シェフの処遇なども含めて大変苦労が多かったのですが、さらにちょうど第二子の妊娠と出産と長女の体調不良での入院ということも重なり公私ともに大変な時期でした」と祥子さん。

以前はインド人シェフのサポートとして調理に関わって来た祥子さんだったが、コロナ禍以後に営業が徐々に再開した頃は「サチコのキッチン」としてランチタイムのみ東インド料理とスペイン料理の二刀流で提供したりしていた。

コロナ禍直後のランチの一例

現在のメニュー

コロナ禍が明けて完全に営業再開してからは、祥子さんメインでの料理提供になっている。営業時間もランチ中心に変わった。ランチはターリーと呼ばれる大皿にのったスタイルで提供され、日本のカレーにはないコルカタの現地感のある料理が味わえる。

ターリーに厳格な食べ方のルールはないが全部の料理を少しずつ混ぜながら味わうインド料理とは少し違う習慣がある。

「東インドではヨーロッパの文化が入り混じったルーツが強く残っており、ターリーもコース料理を楽しむように、豆、野菜、魚介類、肉類といったように軽い味付けのものから重い味付けの料理へと混ぜ合わせることなく順々にライスと絡めながら楽しむのがベンガル流です」と中山さん。

それでは具体的に「インディアンスパイスファクトリー」のメニューからいくつかご紹介しよう。
まずはランチのご紹介。

そしてベンガル料理の世界を楽しむことが出来る土曜日限定で完全予約制のおまかせベンガルディナーコースはこちら。↓

下の写真のような魚料理、肉料理、野菜料理、ビリヤニなどがその日のおまかせである。2名様以上、2週間前までのご予約、全20品以上、お一人様11,000円となっている。

現在のスタイルになる前のコロナ禍以前にはディナーを何度か愉しませてもらったが、食べ慣れていない素材の特徴を生かしながらも食べやすくバラエティにとんだ味付けで提供される皿の数々は感動の味だったことを覚えている。

「インディアンスパイスファクトリー」の目指すもの

ー 最後にあらためて、祥子さんが作るベンガル料理とはどんな料理でしょうか?

祥子さんー ベンガル料理はスパイシーと言っても辛いスパイスはあまり使いません。うちの場合は、自家製の野菜を使った素材感を大事にしたスパイスの香りを楽しむ優しい料理だと思っています。

中山さんー サチコ料理というイメージで、あくまでもベンガル料理ではあるんですが、僕らがコルカタで食べて来た料理を再現するようにしています。もう少し言えば、インド人が食べても本場のベンガル料理だと分かる料理ではあるんですが、その中でも特にコルカタのお婆ちゃんの味という感じで、昔から現地の人が慣れ親しんできた料理を目指しています。

ー 自家農園で野菜を作られているそうですが、どんな野菜を作られていいるのですか?

祥子さんー 季節に応じて品目は変わりますが、赤玉ねぎ、ピーマン、ロキー(ユウガオ)、アーティチョーク、ささげ豆、ケール、カシミールチリなどですね。インドの種が手に入るものはそれを使っています。

中山さんー 今後も祥子の料理を中心に提供していこうと考えています。祥子の技術とセンスを前面に出して新しいベンガル料理の表現方法を再構築していくつもりです。

祥子さんー 自給自足の野菜や野草を使って料理することは、お客様だけでなくうちの娘たちにとっても食の在り方などを考えるきっかけになればいいなと思って、一生懸命野菜も作りますし料理もしていこうと考えています。

ー まさに“食育”ですね。さらにそれが東インドとの懸け橋にもつながるということですよね。

中山さんー 開業当初からずっとインド文化の発信や、福岡とコルカタとの懸け橋になるような『インディアンスパイスファクトリー』でありたいと思っています。最近はシタールというインド楽器の教室を店で開催したり、祥子が地域の小学校の課外学習でインドの文化や料理の話をするといった活動も行なっています。

ー 音楽活動をしていた若い頃を振り返ると、現在どういう想いでしょうか。

中山さんー 大学の時、音楽のためにオーストラリアに行ってなかったら今の仕事も家族もないので音楽を目指していたことに意味があったと思います。せっかく選んだ人生なので家族とともに今の営みを大切にしていきたいと思います。

東インド・コルカタ生まれで春日市育ちの「インディアンスパイスファクトリー」のサチコ料理。春日市昇町というお世辞にも商売上有利な地理的条件とは言えない場所にあるが、食べる・聞く・体験するに価値のあるレストランだと思う。さらにできれば土曜日限定おまかせベンガルディナーコースも味わってみて欲しい。インドカレーに対する新しい扉が開くこと間違いなしです。

店名 : インディアンスパイスファクトリー
住所 : 福岡県春日市昇町4-24-1F
電話 : 092-586-6665
時間 : 11:30〜LO15:00/ディナーは土曜日限定完全予約制おまかせコース料理のみで営業中
店休日 :月曜日・火曜日
駐車場 :6台
席数:カウンター4,テーブル18
メニュー: ランチプレート(平日・土日祝日)2,200円より、ベンガルアルティメットターリーセット(土日祝限定)4,000円、コルカタスタイルビリヤニ&ベンガルベジタリアンターリーセット(土日祝限定)4,000円、土曜日限定おまかせベンガルディナーコース(2名様以上、2週間前までのご予約、全20品以上、お一人様11,000円)

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