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【徒然リトルジャーニー】埼玉県日高市~曼殊沙華の咲く巾着田に遠足の聖地。高麗郡1300年の歴史が息づく街を歩く

さんたつ

4-1徒然

1300年もの昔、この地に高麗(こま)郡が置かれた歴史が今なお息づく埼玉県南西部の日高市。武蔵野の面影と秩父山地がせめぎ合う間を縫うように高麗川が蛇行を繰り返している。秋の気配にはほど遠いなか、東西に広がる市域を精力的に訪ね歩いた。

高麗神社(こまじんじゃ)

アクセス

鉄道:池袋駅から東武鉄道東上線・JR川越線で約1時間10分の高麗川駅下車または池袋駅から西武鉄道池袋線で約1時間の高麗駅下車。

車:関越自動車道練馬ICから同自動車道・圏央道を利用し、圏央鶴ヶ島ICまで約30km。同ICから日高市中心部まで約7km。

日高市でしか提供できない新名物

日高市の資料をひもとくと「巾着田(きんちゃくだ)」「高麗」といったキーワードが目につく。巾着田とは蛇行した高麗川の流れがあたかも「きんちゃく」のような形をしている土地を指すそうで、川に沿って公園が整備されている。ここは秋になると曼珠沙華(まんじゅしゃげ=彼岸花)が咲き誇り、見物客で大いににぎわうのだとか。写真を見ると拙宅近くの群生地とは比べ物にならない規模で、「これはすごい」と思わず声が出た。

この日は花期には早かったが、商工会が旗振り役となり、「ひだか巾着田うどん」なる新名物を売り出し中とのこと。口コミを頼りに訪れた『福和打(ふくわうち)』で、地元客に混じりながら自慢の手打ちうどんを味わったが、竹のざるまでもが巾着田の形を模している。聞けば県西部で唯一残る竹製品専門店『新井竹芸(ちくげい)』の新井正一(しょういち)さんが10店舗分計200個を手作りした労作なのだとか。まさに日高市でしか提供できない新名物である。

聞き込みを進めると、『たかはしたまご』に『弓削多(ゆげた)醤油』をかけた究極の卵かけご飯をすすめられたり、『サイボク』のブランド豚肉や『加藤牧場Baffi(バッフィ)』の濃厚カマンベールチーズを教えてもらったりと、魅力的なスポットが各所に点在していることも知った。

将軍標に導かれながら、新鮮な出合いに心弾む

続いて巾着田を見下ろそうと日和田山(ひわださん)へ足を延ばしたところ、散策に適した見どころが集まる日高市は「遠足の聖地」と呼ばれていると耳にした。なるほどこの眺めを前に、たっぷり汗をかいた小学生たちの歓声が聞こえてきそうだ。

下山後に訪れた高麗神社はこの地を語るうえで外せない存在である。ここ日高市は、朝鮮半島の高句麗(こうくり=高麗)からやってきた渡来人を集め、霊亀2年(716)に大和朝廷が高麗郡を置いた場所とのこと。都から遠く離れた地を治め、礎を築いたのが高句麗の王族であった若光(じゃっこう)で、その霊を祀(まつ)るのが同神社である。「高麗の名が散見されるのは、そうした歴史があったのか」とうなずきながら参道脇に目をやると、見慣れない標柱が立っている。将軍標と呼ばれる朝鮮半島由来の魔除けで、西武池袋線高麗駅前にもっと大きなものがあるという。

高麗駅前へ移動し、その奇抜さと大きさに圧倒されたが、改札口の目の前の小さな建物が気になって仕方ない。なんでもこの物件は高麗駅売店跡で、カフェと花屋が入居する『Cawaz go』として2024年6月にグランドオープンしたばかりだとか。地域資源を生かした町づくりやアウトドア事業などを手がけるCAWAZ代表の北川大樹さんが駅前活性化を掲げて始めたもので、駅を利用する皆さんも興味深げだ。こちらは単なる通りすがりに過ぎないが、思いがけない出合いに感謝し、立ち寄ってみることにした。

巾着田曼珠沙華公園

秋を彩る彼岸花

赤いじゅうたんを敷き詰めたかのように曼珠沙華が埋め尽くす園内の様子(写真提供=日高市産業振興課)。

市内西部を流れ下る高麗川。大きく蛇行した左岸部分を整備した公園で、500万本もの曼珠沙華が咲き誇る開花期間のみ入場料が必要(開花状況は市HPで逐次更新)。園内は早咲きエリアと遅咲きエリアに分けられ、長い時期観賞できるよう配慮されている。

巾着田曼珠沙華公園(きんちゃくだまんじゅしゃげこうえん)
住所:埼玉県日高市高麗本郷125-2/営業時間:有料入園時間7:00~17:00

福和打

ボリューム満点のひだか巾着田うどんを提供

ひだか巾着田うどん1500円には天ぷら3種、そば稲荷、自家製そばの実アイスが付く。
店を切り盛りする新井政行さん・千景さん夫妻。

大通りから奥まった立地ながら、わざわざ足を運ぶ客でにぎわううどんとそばの店で、創業は1985年。麺は手打ちにこだわり、季節により水加減を変え、夏は細め、冬は太めで提供している。大きめな天ぷらは店主ご夫妻のサービス精神の表れだ。

福和打(ふくわうち)
住所:埼玉県日高市鹿山47-2/営業時間:11:15~14:30/定休日:水・第3木(祝の場合は翌平日)

新井竹芸

伝統の技術を守り、歩みを今に伝える

「注文があればなんでも作りますよ」と語る新井さん。作業に入ると表情が一変する。
弟子の沼澤さんが制作する入間型魚籠(びく)は受注生産の逸品だ。

昭和10年(1935)創業の竹製品専門店で、現在は2代目の新井正一さんが伝統を守る。工房の向かいに店舗があり、弟子の沼澤香織さんの作業場も兼ねている。店舗2階の「奥武蔵竹工芸資料館」には新井さん自ら収集したかつての竹製品が展示され、先達(せんだつ)が歩んだ歴史にも触れられる。

新井竹芸(あらいちくげい)
住所:埼玉県日高市高麗本郷746/営業時間:8:00~17:00/定休日:火

弓削多醤油 醤遊(しょうゆ)王国

伝統の醤油づくりの魅力を幅広く発信

蔵付きの乳酸菌や酵母菌を生かした木桶での仕込みの様子もガラス越しに見学可。
しぼりたて生しょうゆは本店2階のみで販売。

2023年に創立100年を迎えた歴史ある醤油蔵で、味見可能な蔵元直売所や醤油を用いたメニューが揃う軽食コーナーがある。人気の生(なま)しょうゆは酵母菌を生かすため火入れやろ過をせず、あとを引く旨味が特徴的だ。醤油しぼり体験もでき、予約不要の工場見学は所要40分で1回10名限定。

弓削多醤油 醤遊王国(ゆげたしょうゆ しょうゆおうこく)
住所:埼玉県日高市田波目804-1/営業時間:9:00~17:00/定休日:無

たかはしたまご

従来の概念を超える高価格なたまごを販売

換気や日照に留意した鶏舎の様子。
色・張り共に別格の半熟状態の萌味たまご。

自称世界一のたまご職人と言って憚らない代表の高橋尚之さんが、試行錯誤を重ねた至高のたまごを販売。徹底的にエサを吟味する一方、放し飼いせず、洗卵せず、冷蔵庫にも入れずと世間の常識を覆す方法で生産。金印20個2300円、萌味(めぐみ)10個2500円と高価ながら、根強いファンも多い。

たかはしたまご
住所:埼玉県日高市旭ヶ丘9/営業時間:10:00~17:00/定休日:無

サイボク

湧出量豊富な天然温泉も併設した豚のテーマパーク

レストランの一番人気はゴールデンポークを150g使用したロースとんかつ1730円。
ゴールデンポークのスペアリブは1本500円。
「花鳥風月」では温泉ソムリエが湯温などを管理。営業は10〜22時で月1回火休、平日980円・土・日・祝1180円。

コクと甘みがあり、しょうが焼きやバーベキューなどに適したゴールデンポークと、きめ細かいサシが入りあっさりとして上品な味わいのスーパーゴールデンポークは、半世紀かけて作り上げたサイボクオリジナルの血統の豚肉。ゆったりとした園内には、自慢のブランド豚肉や加工品を購入できるミートショップ、焼き肉やとんかつを味わえるレストラン、テイクアウトメニューも揃うキッチンにカフェテリア、農産物直売所などが点在する。毎日新しい湯に入れ替えるほど湯量豊富な日帰り天然温泉「花鳥風月」も併設。

サイボク
住所:埼玉県日高市下大谷沢546/営業時間:9:00~18:30(施設により異なる)/定休日:水(特別営業あり)

加藤牧場Baffi

ヤギやヒツジとも触れあえる

金賞に輝いた「HIDAKA WHITE」(グラム単位の量り売り)を手にする加藤恵美子さん。
2種のチーズを重ねたとろ~りチーズ丼650円。
しぼりたてミルクのジェラート380円もぜひ。

気候を生かした酪農と乳製品の加工・販売を手がけ、牛舎の見学もOK。新鮮な牛乳を使用した食事メニューやジェラート・ソフトクリームに加え、種類豊富なチーズやスイーツも見逃せない。クリーミーな濃厚カマンベール「HIDAKA WHITE」は2024年の国際チーズコンテストで金賞を獲得。

加藤牧場Baffi(かとうぼくじょうバッフィ)
住所:埼玉県日高市旭ヶ丘572/営業時間:10:00~17:00/定休日:無

日和田山

山頂からは広々とした関東平野を一望

男坂の最上部から巾着田(左奥)を望む。
梵字を刻んだ宝篋(ほうきょう)印塔が立つ山頂。

標高305mの低山ながら変化に富んだ山歩きを楽しめるため、子供から高齢者まで登山者の年齢層は幅広い。登山道は途中で岩場のある男坂とゆるやかな女坂に分かれ、いずれを通っても登山口から山頂までの標準所要時間は約40分。男坂と女坂が合流する二の鳥居では南側の視界が開け、その名の通り「きんちゃく」の形をした巾着田を見通せる。

高麗神社

出世開運の霊験あらたかなパワースポット

山が迫り、おごそかな雰囲気が色濃く漂う拝殿。

1300年前の創建とされる地域を代表する古社。高麗郡開拓の祖であり、祭神でもある若光の子孫が代々神社を護り、現当主(2024年8月時点)はなんと60代目に当たる。出世開運に御利益があるとされ参拝者の姿が絶えない。社殿裏手には国指定重要文化財の高麗家住宅が残る。

高麗神社(こまじんじゃ)
住所:埼玉県日高市新堀833/営業時間:境内自由(社務所受付8:30~17:00)/定休日:無

Cawaz go

地域活性に向けた新たな拠点が駅前にお目見え

右からCAWAZ代表の北川大樹さん、カフェの奈良悠介さん、花屋の秋本璃奈さん。
ピザは米粉を使用。
彩り豊かな店内。

高麗駅前の売店跡を再生した地域観光拠点で、テナントとしてカフェと花屋さんが入る。カフェの「DELICA TEN・SEN」ではドリンクのほか石窯ピザ、石窯パン、スイーツなどを提供。花屋「Moku-Sei」には季節の切り花や鉢物が所狭しと並び、アレンジメントにも気軽に応じてもらえる。

●営業時間・休は各店舗のSNSで確認を。埼玉県日高市武蔵台1-1-1

【耳よりTOPIC】市内で目にする不思議な標柱の正体は?

空を見上げるほど大きな高麗駅前の将軍標。

高麗神社参道脇や高麗駅前など、市内各所で目にするのが「天下大将軍」「地下女将軍」と記された男女2対の標柱だ。将軍標(チャンスン)と呼ばれる朝鮮半島特有の風習で、日本における道祖神同様、村の入り口や道端に置かれ、魔除けや道標の役割を担っているという。いかついながら、どこかユーモアのある表情も興味深い。

取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2024年8月号より

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