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ゆめみ突然の「原則出社」宣言に社内は猛反発? 代表の胸中と真の狙いとは

エンジニアtype

ゆめみ突然の「原則出社」宣言に社内は猛反発? 代表の胸中と真の狙いとは

ゆめみが今年2月5日に公開した「原則出社」を打ち出すドキュメントが話題を呼んでいる。

コロナ禍により一気に進んだリモートワーク。さまざまな課題が見えてきたことで、国内外の企業が出社に回帰する流れが確かにある。

しかし、ゆめみはコロナ禍に突入するより前の2019年に「リモートワーク先端企業」を宣言。それ以降も社内外に対してエンジニアの働きやすさをアピールしてきた会社だ。

そのゆめみが「原則出社」を宣言するからには、背景には相当な課題意識と覚悟があったはず。宣言後には、社内でも相当なアレルギー反応があったことは想像に難くない。

そしてこのドキュメントに関して、内容と同じくらい話題になっているのが、「原則」と「メタ原則」からなる独特の言い回しだ。

今回の件の事情を赤裸々に語ってもらうべく、代表の片岡俊行さんにインタビューを実施した。

「これは世間に先駆け、ゆめみがいち早くAIフレンドリーな組織へと生まれ変わることの宣言でもある」と片岡さん。一体どういうことだろうか?

ゆめみ
代表取締役
片岡俊行さん(@raykataoka)

1976年生まれ。京都大学大学院情報学研究科在学中の2000年株式会社ゆめみ創業、代表取締役就任。在学中に100万人規模のコミュニティサービスを立ち上げ、その後も1000万人規模のモバイルコミュニティ・モバイルECサービスを成功させる。また、大手企業向けのデジタルマーケティングの立ち上げ支援を行い、共創型で関わったインターネットサービスの規模は6000万人規模を誇り、スマートデバイスを活用したデジタル変革(DX)支援を行うリーディングカンパニーとしてゆめみグループを成長させ、現在は400名規模の組織に

リモートは失敗ではないし、変えられないものでもない

ーー他社に先駆けてリモートワークを推進してきたゆめみが、なぜこのタイミングで原則出社を打ち出したのですか?

きっかけの一つは、顧客側の出社が進んでいることです。海外のテック企業から始まった流れが日本にもやってきていて、2024年以降、出社に回帰する企業が増えています。肌感覚としては、スタートアップも多くの企業が出社回帰。大手はゆるやかに出社回帰を進めている印象です。

それに伴い、物事が顧客側のオフィスで決まることが増えています。対面の何気ない会話の中で物事が決まるようになると、われわれとしても、そういう場に出向かなければ追いつかなくなっていきます。

現時点で顕在化した問題があるわけではないですが、時間経過とともに、そういうことが起こり得るだろうと考えました。

ーーゆめみが「リモートワーク先端企業宣言」を行ったのは2019年。コロナ禍により各社がリモートワークに振り切るより前のタイミングでした。つまり、当時も「顧客は出社で、ゆめみ社員はリモート」という状況はあったはず。同じように難しい状況があったのでは?

当時「リモートワーク先端企業宣言」を行ったのは、リモートワークが主流となる時代の到来を見越して、働く時間や場所に捉われない勤務形態を実現するためでした。

ただ、実際にリモートワーク時代に突入するのはもっと先だと思っていたんです。2030年ごろにはテクノロジーが十分に発展して、リモートワークが当たり前になるだろうと。そこに向けて、10年かけて段階的にシフトしていく計画でした。

そのための準備として、宣言直後にはオフィス環境の改善に1億円投資しているんです。

ーー「リモートワークを始めるぞ」と宣言した直後に、オフィスに投資!? 矛盾を感じますが……。

リモートでの体験を最大化するには、その対極である「出社」の最大値を体験しておくべきだと思ったからです。

100点満点の出社体験を知っていれば、いざリモート時代に突入した時に「出社していたときの体験が100点だったとすると、まだ改善の余地はあるな」と比較できるじゃないですか。なのでまずは、社員同士で集まったり、顧客に来てもらったりできるオフィスを作ることで出社体験の向上を目指しました。

ただ、予想外だったコロナ禍が訪れてしまい、われわれの想定よりかなり早く世の中がリモートワークにシフトすることになりました。

例えるなら、テクノロジーもカルチャーもリモートに対応できていないのに、矯正ギブスで無理やり適応した状態。勤務スタイルと現場のニーズがちぐはぐしている状態はそもそも問題だったわけです。今まさに起きている“揺り戻し”を見て「リモートワークは失敗だった」と判断するのは性急でしょう。

ーーだとするとなおさら、どうして今「原則出社」なのかが分かりません。

われわれが「リモートワーク先端企業宣言」をした当時見据えていた2030年まで、残り5年。ここからはおそらく、リモートと出社のハイブリッドで、どういう形が最適なのかを各社が探るフェーズに入ると思います。だとしたらわれわれもまた、今まで以上にダイナミックに最適化を進める必要があります。

その際、リモートワークを所与の条件、つまり変えられないものだとしてしまうのは、ある種の思考停止。最適化を進める上での妨げになると考えたのです。

ーーなるほど。最適な選択をするために、一度フラットな位置に立ち返ろうということですね。

このことはかねてから考えていて、あとはいつ、どのタイミングで打ち出すと効果的か、機をうかがっていました。

ゆめみは今年25周年。そのキックオフイベントを創立記念日である1月27日にオンライン開催したのですが、これがそのタイミングだと思いました。そこで、大半の社員が視聴していたそのイベントが終わる直前に「原則、出社にします!」とぶち上げたわけです。

ーーえっ? そんなタイミングで。

新卒2年目の若手社員が考えてくれた25周年のコンセプトが「解体→新章」というものだったので、これに乗らない手はないな、と。

これまで「リモート、リモート」と言ってきたところに、いきなり「原則出社」とぶち上げる。これこそまさにコンセプトに沿ったものだと考えました。

極端なコミュニケーションが本音を可視化する

ーーエンジニアファーストな働きやすさを売りにしてきた経緯を考えると、反発もあったのではないかと想像するのですが。

ええ、もちろんいろいろな意見がありました。

当社のSlackは日本で一番マチュリティスコアが高いと認定されるくらいに活発です。Xをイメージしてもらえるといいのですが、何か情報が投下されると、その度にバーっと情報が拡散されて議論が起こり、ときには「まとめ記事」のような議論が集約されたりもする。一般的な会社が何カ月もかけて議論することが、ほぼ1、2日で議論されるような勢いです。

今回もさまざまな内容の投稿がなされました。「これはおかしいんじゃないか」「この場合はどうするのか」「やっぱり不安だ」など。そして、あちこちで議論が起きましたね。

私はその投稿をリアルタイムで観察し、1日半くらいかけて回答をFAQにまとめました。それが、今回公開したドキュメントです。

ーー紛糾することは折り込み済みだったということですか?

そうですね。新しい制度ができたり既存の制度が変更されたりということは、ゆめみでは日常茶飯事なので。その度に、今回と同じような反応がありますから。

それで問題ない……というより、むしろ議論が起きることによって、いい方向へ変わっていけばいいというスタンスです。

それに、これは期間を区切った実験です。やってみた結果、問題があるという結論に至れば、当然撤回することもあり得ます。この期間を通じて一番いいやり方を見出し、確定させましょうという話ですから。

ーーむしろ結論ありきになって思考停止してしまう方がよほど怖い、ということでしょうか。

その通りです。一度掲げてしまったら格好がつかないからそのまま進む、といったことはまったくありません。いつでも戻れるし、いつでも変えられるというのが当社のスタンスです。

その前提が共有されているので、社員としても、現時点で自分の考えとは違っても、一旦受け入れてみようという姿勢になるのではないでしょうか。実際、今回もいろいろと議論は起きましたが、3日後くらいにはだいたい収束していました。

ーーとはいえ、イベントの終了間際という発表のタイミングもそうですし、いきなりの「原則出社」はあまりに極端すぎるメッセージにも思うのですが。

それは意図的にやっていることでもあります。決して感情を逆撫でするつもりはないのですが、「なんだよ」と言いたくなるようなコミュニケーションをあえてとっているのは、その方が分かりやすく反応が出るからです。

実際、普段であればなかなか意見を口にしない人も、今回は声を上げてくれました。その結果、「そこまで不安なのか」「そういう事情もあるんだな」といったことが可視化され、把握することができたのです。

びっくりするようなコミュニケーションをとることで、本音を言わせる。これはリモートワークならではのマネジメントのコツの一つだと思います。対面で部屋に呼んで、一人一人表情をうかがえば分かることかもしれないですが、それにはやはり限界がありますからね。

社員の自律性を保ちつつ、判断を最適化するには

ーー今回のドキュメントは「原則」と「メタ原則」という独特の言い回しも話題になっています。人によっては分かりにくく感じると思うのですが、こうした表現を選んだことにはどんな意図がありますか?

仕事をする上では日々たくさんの判断を行うことになります。その一つ一つに関して、どう判断するのが正しいのかを会社が決めるのは無理ですし、本質的ではありません。

ここ数年は、メンバーの自律性を保ちながら、いかに判断を最適化するかという課題と向き合い続けてきました。今回のことは、その課題と改めて向き合うという宣言でもあります。

ーーどういうことでしょうか?

たとえば給与を自分で決められるという実験。自分がアサインされる仕事を自分で決められる実験。購買に関する実験など。ゆめみはさまざまなことに関して、社員の自律に任せる制度を作り、実験してきました。

その結果分かったことの一つは、任せっぱなしだと利己的な行動に陥ってしまい、組織として最適な判断にならない制度があるということでした。

自律に任せられないとなると、「この場合はこう」「こういうケースはこれ」というように、細かなガイドラインを追っかけで作る必要が出てきます。

しかし、ガイドラインを作りすぎると、今度は「ガイドラインがないと自分勝手に動いていると周りから見られるのを気にして、自分で判断ができない」という状況に陥ってしまう。これでは本来目指している自律とは程遠いというジレンマがありました。

ーーそのジレンマは多くの企業が抱えていそうです。

この問題に対する解決策として今回新たに設定したのが、「原則」という意思決定モデルです。

ゆめみではこれまで「原則」という言葉を定義してきませんでした。コロナ禍に際しては、多くの会社が「原則出社しないで」「出社する場合は上司の判断を仰いで」といった形でこの言葉を使っていましたが、われわれはそのことにむしろ批判的でした。曖昧な言葉ですし、上司の判断だって揺らぐものだと思うからです。

ーー確かにそうですが、だとしたら今回その言葉を用いたのはなぜですか?

強い強制力がある一方で、曖昧さも含んでいる。そういう言葉があることによって、自律的に考えざるを得なくなるのではないかと思い直したからです。

自律に関して実験を重ねていく中で分かったのは、個々の自律に任せた方がうまくいくものもあれば、みんなで一斉に、決められた通りにやった方がうまくいくものもあるということ。ですから、組織としてそこを見極めて、適切に設計することが大切になります。

そのために、ゆめみではもともと三つの意思決定モデルを定めていました。一つは、厳格に守るべき「ルール」。一つは、あくまで参考指標である「ガイドライン」。そしてその間にあるのが「標準」です。

「標準」も「ルール」と同様、全社に適用される方針ではありますが、上書きができます。部門ごとに上書きすることも、部門単位の「標準」をさらに個人で上書きすることもできる。リモートワークは従来、この「標準」に分類して運用してきたのですが、その結果、さまざまな亜種が乱立する状況が生まれていました。

出社かリモートかというのは、個々の家庭の事情などもあるので、本人に判断を委ねざるを得ません。ですが、完全に本人に委ねてしまうと、やはり利己的になってしまう問題があります。

ですから、ある程度の強制性はありつつも、個々人に判断を委ねるという塩梅がいい。そこから導き出されたのが「ルール」と「標準」の間に「原則」というモデルを新たに設けることだったわけです。

【参照】ゆめみオープンハンドブック(会議標準/Slack標準/職務基準など全社標準)https://yumemi.notion.site/Slack-615201f8e44e408e8e0b70a11345172b#6be46e0f77b54573bb2df2fd5b9cd0bf

ーーなるほど。つまりこの「原則」という言葉は、「出社かリモートか」という問題のために用意されたものでもあるし、同時に、それ以前から向き合ってきた「社員の自律を保ちながら、いかに組織として最適な判断を行うか」という問題に対する回答でもあるわけですね。

おっしゃる通りです。ただし、われわれが用いる「原則」という言葉が強制するのは、「出社すること」ではなく、「出社すべきかどうかを自律的に判断すること」です。

同じ「原則出社」を謳っていても、その点で他社さんがおっしゃっていることとは違います。「会社が言っているから出社する」という思考停止ではダメなわけです。

ゆめみはAIフレンドリーな組織に生まれ変わる

ーー「原則」については分かりましたが、「メタ原則」については?

自律的に判断すると言っても、判断するためには何らかの基準が必要になります。自律的な判断を下すための判断基準として設けたのが、この「メタ原則」です。

例えば、「こういう事情があるんですけど、出社した方がいいですか」という問い合わせに対して、これまでは「自律で判断してください」と返して終わっていました。それではうまくいかないことは分かっていたのですが、「とはいえ自律が大事だから」ということで、そのやり方をしていました。

これからは「このメタ原則に沿って自律で考えて」と言えます。それは大きな違いだと思っています。

出典:原則と「メタ原則」の定義

もちろん、中には「そう言われても分からない」という人もいるでしょうが、その場合はAIの力を借りればいい。実際、社内のSlackではすでに「こういう事情があるのだが、どうしたらいいか」と尋ねてみると、このフローに沿って適切な判断を返してくれるようになっています。

このように、今回の一連の動きの前提には、生成AIの存在があります。中でも「メタ原則」を作成したことは象徴的で、意味合い的には、AIフレンドリーな会社になるという宣言でもあるのです。

ーーAIフレンドリーな会社になる。どういうことですか?

明確で明晰で、揺れがなく、構造的で論理的な文章は、人間からするととっつきにくいかもしれませんが、AIにとっては実は分かりやすい。ですから、AIフレンドリーな環境を整えていくことが、結果としてAIに頼る人間にとってもフレンドリーな状況になっていくということです。

出典:原則と「メタ原則」の定義

出社すべきか、それともリモートにすべきかというような、あらゆる事情を考慮して複雑な判断を下すことは、人間にとって少し負担が大きいことでした。けれども、近い未来には人間の上司に代わって、生成AIがそういう判断をしてくれる世界が必ず来ます。

われわれはそういう世界が来ることを見越して、いち早くAIフレンドリーな会社を目指す。今回こういう記述を行ったのには、その宣言としての意味合いがあります。創立25周年というタイミングで、単に解体するだけでなく、新章としてAIフレンドリーな会社を目指すという宣言です。

ただそのメッセージは、世間からするとおそらくまだ早すぎる。ですから多くの人からすると「わけの分からないこと」「単なる言葉遊び」として映るのかもしれません。

けれども、AIフレンドリーな組織を目指すのであれば、どんな会社であっても、本来こういう面倒な言語化をしなければならないのではないでしょうか。これは世の中に対する、そういう問いかけでもあるんです。

とは言え、実は今回のメタ原則の定義も大部分はAIの力を借りながら作りました。フローチャートなどは記法も面倒で、昔は私自身も嫌悪していたぐらいですが、今回はAIと対話しながら自然に作れたのです。

産業革命の時代には、機械的な組織で機械を活用した企業が勝ち残り、インターネット時代では、インターネット的な組織がインターネットを活用し勝っています。AI時代においては、AIフレンドリーな組織でAIを活用した企業が勝ち残ると考えています。

取材・文/鈴木陸夫 編集/玉城智子・秋元祐香里(ともに編集部)

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