生成AIも対人も「伝わらない」がストレスに、背景には「読み取る力」と「伝える力」 漢検協会
公益財団法人日本漢字能力検定協会(京都市東山区)は9月18日、生成AIの利用にストレスを感じる人の多くが、対人コミュニケーションにおいても同様にストレスを抱えている傾向があるとする調査結果を発表した。背景には、「相手の意図がわかりにくい」「自身の意図が伝わらない」といった共通の課題があり、「読み取る力」や「伝える力」の不足がその要因として浮かび上がっている。
生成AI利用者の6割以上が「ストレスを感じたことがある」
調査は、全国の20〜59歳の男女1000人を対象にインターネットで実施された。対象者の9割以上が日常的にパソコンやスマートフォンなどのデジタル機器を使用しており、44.7%が生成AIを仕事や日常生活で利用した経験があると回答した。
生成AI利用の主な目的(複数回答)は、以下の通り。「情報収集」(51.7%)や「文章要約」(46.8%)、「メール作成」(23.7%)などが上位を占め、実務にも活用されているようすがうかがえる。
・情報収集(51.7%)
・文章要約(46.8%)
・メール作成(23.7%)
・企画書・報告書作成(21.7%)
・画像・デザイン案作成(21.7%)
・議事録作成(17.0%)
・その他(3.6%)
一方で、生成AIを利用したことがある人のうち68.0%が、「ストレスを感じたことがある」(「よくある」と「たまにある」の合計)と回答。
理由として最も多かったのは「期待した回答が得られない」(70.7%)となった。ほかにも「問いかけ方がわからない」(25.3%)、「結果が信用できない」(24.7%)、「出力内容が読み取れない」(23.7%)といった項目が続いた。
対人コミュニケーションでも同様の課題が浮上
生成AIとのやりとりにストレスを感じている層では、人とのコミュニケーションでも同様の課題が顕著だった。
メールやチャットといったデジタルコミュニケーションにおいてストレスを感じている人は全体の50.7%。その理由として、「文章が冗長で理解するのに時間がかかる」(37.3%)、「自身の意図が相手に伝わらない」(33.3%)などが挙げられた。
デジタルコミュニケーションにおけるストレスの理由(複数選択、ストレスを感じたことがある人を100%)
・文章が冗長で理解するのに時間を要する(37.3%)
・自身の意図が相手に伝わらない(33.3%)
・必要とする情報が欠けている・説明不足(29.0%)
・敬語や文法の間違いが目立つ(25.8%)
・相手の話の流れがみえず、意図や結論がわからない(25.4%)
・誤字脱字が多い(24.3%)
・表現や語彙が適切でない(17.4%)
・事実と意見が区別されていない(12.2%)
・都度同じ指摘をしなければならない(9.7%)
・その他(2.8%)
また、対面でのコミュニケーションでも60.0%がストレスを感じており、「相手の話の流れがわからず、意図や結論がつかめない」(37.7%)、「自身の意図が相手に伝わらない」(36.8%)という課題が上位に並んだ。
対面コミュニケーションにおけるストレスの理由(複数選択、ストレスを感じたことがある人を100%)
・相手の話の流れがみえず、意図がわからない(37.7%)
・自身の意図が相手に伝わらない(36.8%)
・必要とする情報が欠けている・説明不足(36.5%)
・主語や目的語がない、あいまいである(34.5%)
・態度や口調が不適切だと感じる(33.5%)
・TPOに応じた言葉遣い(敬語・表現など)ができていない(18.3%)
・事実と意見が区別されていない(14.0%)
・その他(1.5%)
生成AIでのストレスと対人ストレスに強い関連性
特に注目されるのは、生成AIとの対話にストレスを感じる層ほど、対人コミュニケーションにおいてもストレスを感じやすい傾向がある点だ。
生成AIを利用する時にストレスを感じた人のうち、デジタルコミュニケーションでもストレスを感じている割合は86.2%。一方、生成AI利用時にストレスを感じていない人では40.6%と、実に45.6ポイントの差が見られた。
対面コミュニケーションにおいても同様で、AI利用時にストレスを感じている層では84.9%、感じていない層では61.5%と、23.4ポイントの差があった。
この結果から、生成AIで感じる「もどかしさ」や「伝わらなさ」が、対人コミュニケーションでも同様に生じていることが明らかになった。
背景には「伝える力」と「読み取る力」の不足
日本漢字能力検定協会は、こうした傾向の背景に、「言葉で伝える力」と「言葉から読み取る力」という、コミュニケーションに不可欠な能力の不足があると分析する。生成AIを活用する際には、適切な問い掛け(プロンプト)を作成する力や、AIの出力を的確に読み取る力が求められ、こうしたスキルは対人コミュニケーションとも共通するとしている。
月刊総務オンラインでも、過去記事「防災訓練の段取りを相談するならどう入力する? ChatGPTに期待した回答をもらうコツを伝授」において、生成AIから有用な回答を引き出すためのポイントとして、
・達成したいことをはっきりさせる
・質問・依頼文は明瞭かつ具体的に書く
・必要に応じて追加の条件やルールを指定する
というプロンプト作成の基本を紹介している。こうした「伝える力」は、ビジネスにおける対人コミュニケーションにも通じるものといえるだろう。
同協会は、「コミュニケーションが多様化する社会において、日本語・漢字能力の果たす役割は今後ますます重要になる」として、今後も調査・研究を継続していく方針を示している。
「デジタル時代のコミュニケーションにおける実態調査」は8月19、20日にかけて実施。調査結果の詳細は、同協会の公式リリースで確認できる。