アメリカ開拓地の奇妙な怪物伝説!木こりが語り継ぐ「フィアサム・クリッター」とは(その2)
19世紀頃のアメリカはまだまだ自然が豊かであり、多くの開拓民、すなわち「木こり」による森林の伐採が行われていた。
木こりたちの生活はまさしく地獄そのものであり、彼らは常に死と隣り合わせだった。
林業は数ある職業の中でも、死亡率の高い仕事として知られている。
伐採した木が倒れる際に押しつぶされる事故は日常茶飯事であり、危険な野生動物の襲撃も頻繁に発生していた。
そんなストレスフルの環境において、木こりたちは少しでも気を紛らわせようと、日夜くだらないホラ話に花を咲かせた。
中でも特に流行したのが、「架空の怪物を、まるで実在するかのように語る」というものである。
これら想像上の生物は「フィアサム・クリッター」と呼ばれ、いつしかアメリカ全土に定着し、神話として語られるようになった。
今回は前回に引き続き、
アメリカ開拓地の怪物伝説!木こりたちが語る恐怖の「フィアサム・クリッター」とは
https://kusanomido.com/study/fushigi/story/95884/
魅力的なフィアサム・クリッターの世界へ、あなたをご招待しよう。
1. スクォンク
スクォンク(Squonk)は、代表的なフィアサム・クリッターの一種である。
この生物はペンシルベニア州北部にある、ツガマツの生い茂る森の中に生息するとされた。
明け方や夕暮れなどの、物寂しい時間帯に活動をするという。
スクォンクは体中がイボと痣にまみれており、また、異常に憶病な性格をしているという。
己の醜さと内気さからくる自己憐憫で、常に涙を流しているそうだ。
それゆえ、この生物が通った跡には大量の水滴が落ちており、それをたどることで簡単に見つけることができる。
追いつめられたスクォンクは、恐怖でより大量の涙を流し、最後には溶けて無くなってしまうとされている。
伝承によれば、あるハンターがこの生物を捕らえ、袋に詰めて家に持ち帰ろうとしたという。
しかし、途中で袋が急に軽くなったので確認してみると、中には水と泡しか残ってなかったそうだ。
2. スプリンターキャット
スプリンターキャット(Splinter Cat)は、ノバスコシア州や五大湖周辺、太平洋岸北西部など、アメリカの様々な地域に生息するとされた、奇妙な豹である。
この豹はハチミツに目がなく、蜂の巣ができている木を見つけると、猛スピードで突進するそうだ。
そして強烈な頭突きにより木を粉砕してしまうのだが、勢いよくぶつかる弊害か、常に頭痛に悩まされイライラしているという。
八つ当たりで殺され兼ねないため、もしこの豹を見かけたとしても、決して近づいてはならないとのことだ。
3. ティーケトラー
ティーケトラー(Teakettler)は、ミネソタ州あるいはウィスコンシン州の森に潜むという、珍妙な生物である。
ヤカンを英語でティーケトルと言うが、ティーケトラーはその名が示すように、ヤカンが沸いたような鳴き声を発するという。
しかし、音が聞こえる方へ向いても、ティーケトラーはすぐに隠れてしまうため、見つけることはできないそうだ。
後ろ向きにしか歩けない、猫の耳を持つ、ダックスフンドに似ているなど、この生物に関する情報は様々だが、誰もその姿を見たことがないため、真偽の程は定かではないという。
4. スノリゴスター
スノリゴスター(Snoligoster)は、フロリダ州のオキーチョビー湖などに生息するとされた、凶悪な怪物である。
その姿は一見ワニのようだが、四肢は存在せず、背中からは巨大な角が突き出しているという。
最大の特徴として、尻尾の先端がプロペラになっており、これを高速で回転させることで、猛スピードで泳ぐことができるそうだ。
食性は肉食であり、特に人を好むとされる。
スノリゴスターは水中にその身を隠し、人間が通りかかるのを待つ。
そして水辺に近づいた人間を尻尾で捕らえ、上空へ放り投げた後、背中の角に突き刺して殺すという。
腹が空いてきたら、角から死体を外し、プロペラでバラバラにしてから食べるそうだ。
フロリダ州は、ワニが多く生息する地域として有名であり、スノリゴスターの伝承は、ワニを元に創作されたと考えられている。
またアメリカの南部には、アリゲーターガーというワニに似た巨大な淡水魚が生息しており、こちらも元ネタになった可能性が示唆される。
5. スライドロックボルター
コロラド州といえば、ロッキー山脈の山々が連なる、アメリカでも有数の山岳地帯として有名である。
そして山に潜むフィアサム・クリッターといえば、スライドロックボルター(Slide-Rock Bolter)が挙げられるだろう。
この怪物は、傾斜が45度を超える山の上に生息しており、見た目はクジラやカジカに似ているという。
尻尾の先端にはホックが付いており、これを用いて山の頂をガッチリと掴み、体を固定するそうだ。
そして、麓に人間が近づいてくるとホックを外し、猛スピードで斜面を滑り降り、大きな口で丸飲みにしてしまうという。
さらには、口から油を垂れ流して滑りを良くし、速度を上げることもあるそうだ。
コロラド州は観光業が盛んな地域であり、各地から大勢の人が訪れる。
そのため多くの観光客が、スライドロックボルターの犠牲になったといわれている。
そこで警備隊は、この怪物を退治するため、爆薬を仕掛けたマネキンを山の麓に仕掛けたそうだ。
案の定、スライドロックボルターは齧り付き、そして大爆発が起こった。
スライドロックボルターは粉々になって死んだが、火薬の量があまりにも多かったため、近隣の建物の半分が吹き飛んだという。
参考 : 『Mythical Menagerie』『A Book of Creatures』他
文 / 草の実堂編集部