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【小谷野敦さん編「三木卓単行本未収録作品集ヌートリア」】 「老い」を描く。軽妙に

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は静岡新聞で2008年1月から2023年11月まで毎月1回の連載「鎌倉だより」を執筆した故・三木卓さん(静岡高出)の単行本未収録作品を集めた「ヌートリア」(田畑書店)から。奥付発行日は2024年10月25日。編者は作家・比較文学者の小谷野敦さん。

2023年11月18日に88歳で亡くなった三木さんの、「文学界」「群像」に掲載した最晩年の短編小説7作。文芸誌「そして」に2004~2019年に毎年1回寄せた文化時評15本も収録した。

「ヌートリア」「来訪したもの」咳」「病室」などとタイトルのついた小説各編はある程度連続していて、私小説に超現実を混ぜ込んでいる作品もある。フィクション、ノンフィクションの二つの要素の濃淡が、作品ごとに異なるのが楽しい。

各編で描かれる心筋梗塞、尿路感染症、心臓の大動脈弁治療、敗血症などを理由に自宅と病院を行ったり来たりする様子は、まさに三木さんの生活そのものだと思われる。衰えていく体、ままならない体を引きずるように、それでも生きていく。誰もが避けられない「老い」が全編に充満する。

この小説の奇異なのは、それなのに「軽く読める」点である。生死の境をさまよう状態に陥り、手術を受けているのに、当事者である三木さんの口調はとことん軽妙で重々しさがない。「生きざま」というより「死にざま」を描いているような内容だが、主人公の自問自答にも「おかしみ」がにじむ。

これは何だろう。そう考えながらページを繰っているうちに、280ページが終わる。実に不思議な作品だ。(は)

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