「絶賛される企画書」と「スルーされる企画書」の決定的な違いとは【ビジネスコミュニケーション力】
ビジネスの現場では、企画書は重要なドキュメントの一つと見なされています。
特に、企画職、営業職、新規事業担当の方々にとって、企画書の作成は日常的な業務の一部でしょう。
しかし、企画書が「絶賛される」か「スルーされる」かは、 ほんの些細な違い に左右されることがあります。
そもそも、企画書の目的は、提案内容を明確に伝え、相手を納得させ、行動を促すことです。
しかし巷には「受け手」の目線が欠けているケースが多く、ひどいときには「企画書(笑)」など、揶揄されてしまうこともしばしば。
一体なぜ、そのようなことが起きるのか。
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今回は、12年間経営コンサルティングに従事し、WEBメディアの運営支援、記事執筆などを行うティネクト株式会社の代表、安達裕哉さんに、「良い企画書とは何か、作成のポイント」について伺った。
企画書とは、「受け手の○○をかなえるもの」
では、そもそもの定義から始めます。
企画書とは、いったい何を指すのでしょうか。
様々な考え方がありますが、本質的には企画書とは、特定のプロジェクトやアイデアを提案するための文書であり、
1.背景 2.目的 3.具体的な実施内容 4.期待される成果
の4つを明確に示すもの、と言われます。
しかし、そうした「企画書の定型」の話が知りたければ、ブラウザバックして、Googleで企画書の書き方でも調べてください。
私が今回、この記事を通じて皆様にお伝えしたいのは、もっと本質的な「相手目線での企画書作成」という考え方です。
これは単に
「相手にとってわかりやすい」とか
「相手のメリットを示す」とか
そうした、良く言われる話だけではありません。
企画書は、相手の欲求や感情に、ダイレクトに訴求するものでなくてはならない、という話です。
例えば、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教授のターリ・シャーロットは著書
『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』(白揚社)にて、次のように語っています。
数字や統計は真実を明らかにするうえで必要な素晴らしい道具だが、人の信念を変えるには不十分だし、行動を促す力はほぼ皆無と言っていい。(中略)
実のところ、今日の私たちは押し寄せる大量の情報を身に受けることで、かえって自分の考えを変えないようになってきている。
マウスをクリックするだけで、自分が信じたい情報を裏づけるデータが簡単に手に入るからだ。
むしろ、私たちの信念を形作っているのは欲求だ。
だとすれば、意欲や感情を利用しない限り、相手も自分も考えを変えることはないだろう。
つまり、相手を説得するための道具立てとして企画側は
「数値」
「事実」
「統計」
などを駆使しようとしますが、実際の企画書においては、単なる情報の羅列になってはいけません。相手が企画そのものに興味を持てなくなってしまうからです。
従って企画書は、 必要な情報が十分に掲載されているかだけではなく、受け手をひきつけるストーリー展開を持つことが求められます 。
いうなれば、企画書は「受け手の欲求をかなえるもの」 と考えねばならないのです。
相手の関心事は何か
したがって、企画書を作成する際には、読み手の立場や関心事を考慮することが重要となります。
相手が何をやりたいと思っているか どのような企画が 「相手の出世」 につながるか 企画を実行する自分がイケテいる と思えるか
ありていに言ってしまえば、儲かる、儲からない、という話よりも上の3点の方が、はるかに説得力がある、という事になります。
「本当に?」と思う方もいると思いますが、本当です。
例えば、経営層に対する企画は、企画の戦略的な意義やビジネスへの影響を強調してください。
できるだけ 「頭が良さそうに見える」企画が効果的 です。
正直なところ、戦略コンサルティング会社はそのあたりをよくわかっており、 「この戦略を採用できる自分たちって、頭良くね?」 と思わせるような、戦略的な意義を明確にした企画書を駆使することによって、彼らは仕事を得ています。
一方、実務担当者に対しては、具体的な実施内容やスケジュール、リソースの配分など、実行可能性に関する情報が重要ですが、 もっと重要なのが、「楽に、社内外で有名人になれる」可能性を見せてあげる ことです。
時流や、時々の経営方針、相手がやりたい仕事、社会的な意義など、事前に相手のニーズや期待をヒアリングし、それに基づいて企画書をカスタマイズします。
強調しておきますが、 ほとんどの会社員の本音は皆
「楽したい」
「出世したい」
「チヤホヤされたい」
「すごいと思われたい」
です。
ですから、「事実」や「統計」は必要ですが、本質的な企画の内容は、相手の欲求を反映させる必要があります。
ここを分かっていない人間が書く企画書は、ことごとくスルーされます。
でも、本質なんて、こんなものです。
わかりやすく!
そしてもう一つ重要なことは、「分かりやすく」書くことです。
企画書は、限られた時間の中で読み手に情報を伝えるため、簡潔で明瞭な文章にします。
具体的に言えば、 「中学生でも理解できるレベル」 にしてください。
これは、私がコンサルタントだったとき、上司から口を酸っぱくして言われたことです。
なぜ、それほどにもわかりやすさが重要なのかというと、 「皆、文章を読むのが嫌い」 だからです。
もちろん、小説や物語などを好む人はいます。
しかし、説明文、論説文、提案書、企画書などを好んで読む人は多くないでしょう。
皆、これらのものを読むときのデフォルトの感情は
「面倒くせえなー」 です。
それを分かっていない企画者は、内容を充実させすぎて、企画を分かりにくくします。
要するそれは、読み手のことを考えている、というよりは
「こんなすごい企画書を作れる俺ってすごいでしょう」
というアピールを考えているだけなので、ダメなのです。
企画者は、「すごい俺」という考え方をいったん捨ててください 。
「こんなシンプルでいいの?」
というくらいに、わかりやすくした資料の方が、読み手の「面倒くさい」を乗り越えますので、絶対にウケます。
1文1メッセージ 図表 専門用語や業界用語は必要最低限
こういった「ちょっとした気遣い」が、全体の印象を大きく変えるのです。
最初に「受け手の欲求」を書く
さて、ここまでくると、「良い企画書」というものがどういうものなのかがわかると思います。
良い企画とは、
「相手の欲求」をかなえてあげるもの
にほかならず、それが
「とにかくわかりやすく」
表現されているものが、よい企画書です。
ですから、企画の構成上、守っていただきたいことがあります。
それは 「最初に受け手の欲求を書く」 という事です。
最初の一ページで、企画書全体の成否が決まると言っても過言ではありません。
私がコンサルタントをやっていたころ、 企画や提案の最初のページは必ず
「お客様」のご要望 当社(経営陣)が解決したいと考えている課題
から書くことになっていました。
つまり「相手の欲求」から記述するのです。
ここが明確になっていないと、せっかくの企画書も、無駄になります。
企画のプレゼンテーションの第一声は、
「まず確認をさせていただきたいのですが」
です。そして、資料で
我々は、これらのお客様のご要望を100%かなえるために提案をしているのだ 私は、当社(の経営陣や部長)の解決したいと考えている、これらのために企画をつくっているのだ
と話します。
内容に関して、「受け手」がうなずいてくれれば、半分企画が通ったようなものです。
裏を返せば「企画」がスルーされてしまうのは、「受け手の要望を外している」からです。
ですから、最初にそれを確認してください。
場合によっては 「受け手の欲求」が、会社が儲からないものや、経営陣の方針に全くそぐわないといったこともあります 。
それでも「受け手」の欲求は最優先になります。
通る企画書というのは、「良い企画」ではなく、「受け手がやりたい企画」であるということを、決して忘れないでください 。
企画書作成の本質、ご理解いただけましたでしょうか。
きれいな言葉では
受け手目線で企画書を書きなさい
という表現になるでしょう。
しかし、もっと汚い言葉を使えば、 企画書はあなたの優秀さを証明する書類ではありませんということ、そして本質は「人間はやりたいコトしかやらないんだから、それをかなえてあげる内容にしようよ」ということです 。
プロフィール
安達裕哉
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。 品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。 大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。
現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」および生成AIコンサルティング会社「ワークワンダース」 の代表として、コンサルティング、webメディアの運営、記事執筆などを行う。
代表著書
『仕事ができる人が見えないところで必ずしていること(日本実業出版社)』
『頭のいい人が話す前に考えていること(ダイヤモンド社)』
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安達裕哉