Yahoo! JAPAN

タブレット純 “みんな同じ”になじめなかった小中学時代「学校でうまくやれなくても生きてればいい」

コクリコ

歌手・お笑いタレントのタブレット純さんのインタビュー第3回/全3回。不登校に迷う子どもと親へ。つらかった10代を救った本や親の言葉について。

【画像】子ども時代は極端な人見知りだったというタブレット純さん

幼少から好きだった昭和歌謡の深い知識と、抜群の歌唱力、脱力的な“ゆるゆる系”の雰囲気で、唯一無二の魅力を誇る歌手・お笑いタレントのタブレット純さん。子ども時代は、学校でイジメに遭い、セクシャリティの違和も感じて、当時の“普通”にハマれない自分に「まともじゃない自分は生きる価値がない」と何度も「死」を考えたといいます。

学校や友達の中でうまくいかず、しんどい思いをしている子どもと、その親へメッセージを送ります。

本で世界が広がり大きな助けになった

イジメはぼくも相当つらかったし、たしかに深刻な問題です。でも、イジメのほかにも子どもを苦しめる要素は山のようにある。親子関係や先生との関係に悩んでいる子もいるし、友だち関係や何かしらのコンプレックスに苦しんでいる子もいるでしょう。

つらい時期って、狭いところに閉じこめられて、逃げ場がない気持ちになっちゃうんですよね。特に小中学生ぐらいにとっては、学校だったり家族だったり、今いる環境が世界のすべてになってしまう。

もっといろんな世界があるんだ、いろんな人がいていろんな価値観があるんだと知ることは、大きな助けになってくれるんじゃないかとぼくは思います。

世界を広げてくれるのは、やっぱり本がいちばんじゃないかな。若い世代だとスマホをちょこちょこっといじって、ネット上の情報を拾い読みすることで「わかった」ような気になっているかもしれない。自分もネットで情報を得ることはありますけど、対話がないというか、表面的になぞるだけで自分の中にしみ込んでこないんですよね。

中学時代に「カス」とあだ名を付けられたこともあると語るタブレット純さん。  写真:日下部真紀、撮影協力:ラジオ日本

ぼくは10代のころから、中島らもさんの本に助けられてきました。1980年代から活躍され、2004年にお亡くなりになるまで、たくさんの小説やエッセイを残した方です。

世の中の常識とか規範とかがまったく当てはまらない人で、自分の身体もまったく大事にしていない。アルコール依存症やうつ病になった自分自身も、面白がりながら作品の題材にしていました。

自殺願望の話もちょくちょく出てくるんですけど、「もう死のう」と思ったときに、表から石焼き芋屋さんのアナウンスが聞こえてきて、なんだかバカらしくなってやめたそうなんです。人の生き死にっていうのはそんなもんなんだって淡々と書いてある。そんなことを言ってくれる大人は、自分のまわりには絶対にいませんよね。

あんな人はもう二度と出てこないでしょう。変なことをしているけど地位を築いた大人の姿にぼくはあこがれました。若い人のほとんどは、作品を読んだことがないどころか、名前を聞いたのも初めてかもしれない。だからこそ、あえてオススメします。興味があったら調べてみてください。そういう意味では、便利な世の中になりました。

自分や人生に期待しなかったから救われた

世間一般の大人たちは、身近にいる子どもの元気がないように見えたら、前向きになれる方法とか物事をポジティブにとらえる大切さとか、そういうことが書いてある本を勧めるかもしれない。あくまでぼくの好みですけど、それは逆効果だと思う。

別の回(第1回)でもお話ししましたが、自分は子どものころから昭和歌謡が大好きで、不幸な内容の歌が多かったところにむしろ救われました。

つらい時期に「前向きになりましょう」「明るく生きていきましょう」と言われたら、そうできない自分を責めて、ますます追い詰められたでしょうね。「いい子」になれないことを責められているみたいで。

小学生のタブレット純さん。子ども時代は極端な人見知りだった。  写真提供:トルバ

タブレット純さんの高校生のころ。ずっと「自分は何重苦もある」と思っていたという。  写真提供:トルバ

ちょっと違う話かもしれませんけど、最近は子どもに自信を持たせたり、自分には価値があると思わせたりすることが大事だって言われてますよね。もちろん、おっしゃることはわかります。自分は大切な存在だという気持ちを持つことは、いいことなんだと思います。

でも、もし自分が子どものころに、あなたは素晴らしい、あなたは何でもできると言われていたら、ぼくはすごく苦しかったでしょうね。直面している現実は素晴らしくも何ともなかったわけだし。

ウチはいわゆる「昭和の親」で、とくに父親は子どもに関心がありませんでした。母親も「お前はバカだから」と言い続けていました。たぶん𠮟咤激励のつもりだったんでしょうけど。

結果的に「自分にも人生にも期待するな」と教えられたのは、自分にはありがたかったかな。期待していなかったから、今まで生きてこられた気がします。「こんなはずじゃなかった」「自分がこんな目に遭っていいわけがない」と思わずにすみましたからね。

ま、そういう例もあるという結果オーライな話ですね。同じ状況がマイナスに働いたケースもあるかもしれません。ただ、子どもって、というか人間って、実はたくましい生き物ですよね。

親の側も「もっと『いい親』にならなければ」「子どものためにできることは何でもしなければ」みたいなプレッシャーは感じなくてもいいんじゃないでしょうか。

子どもには「生きているだけでいい」と伝えよう

ぼくは銭湯が大好きで、仕事が終わってひとっぷろ浴びるのが何よりの楽しみです。そこで小さい子どもとお父さんの親子連れをよく見るんですが、どのお父さんもやさしいですよね。「次はシャツ、次は靴下」って、全部先回りしてあげてる。ぼくも子どものころに父親と銭湯に行きましたけど、「おい、早くしろ。何やってんだ」と𠮟られた記憶しかない。

大きなお世話ですけど、やさしくない父親に育てられた自分としては、そこまで手を出さなくても、もっと子どもの力を信じてもいいのになと思ってしまいます。服を着る順番ぐらいだったらいいんですけど、子どもを持つ友達や知り合いの話を聞くと、我が子にこうなってほしいとかこうしてほしいとかって、いつもすごく考えていて、口も手も出してますよね。

ウチの親は事あるごとに「お前はバカなんだから、とにかく生きているだけでいい」というメッセージを送ってくれました。それはありがたかったです。どういう意図だったのかはわかりませんけど。意図なんてなかったのかもしれないな。

我が子に対して「こうなってほしい」という期待は、どの親もいろいろあると思います。それはそれとして、早い段階から「とにかく生きているだけでいい」と伝えることも、大切なんじゃないでしょうか。

いろいろ語ってしまいましたけど、自分がもし親になったら、ダメな親になる自信があります。子どもを𠮟るなんてできないし、子どもがなにを考えているかわからなくて怖くて仕方ないと思う。「親としての教え」なんて伝えられる気がしません。キャンプに行くみたいなことも、こそばゆくて無理かな。いっしょにゲーセンに行くぐらいはできそうだけど。

親はどうすればいいのかの正解は、ぼくにはわかりません。でも、こういう行動をしないと親失格だとかは、あんまり気にしなくていいんじゃないでしょうか。生意気ですけど、情報に振り回されている親が少なくないように見えます。親ががんばりすぎると、子どもが気をつかっちゃいますからね。

子どもの生きる力を信じてみるのも、親の役割だし愛情たっぷりの見守り方じゃないかなと、ぼくは思います。

取材・文/石原壮一郎

タブレット純はどのように誕生したかを綴る初の自伝。発売即重版に。『ムクの祈り タブレット純自伝』(著:タブレット純/リトル・モア)

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 前髪作って若返る!老け顔さんに似合うボブヘア〜2025年夏〜

    4MEEE
  2. 【Q1決算】ブルボン、菓子の販売は好調も各種コストの上昇が影響し増収減益に

    にいがた経済新聞
  3. 『今日好き』出演の米澤りあ、りんか “天使コーデ”で“天使スマイル” 『TGC teen 2025 summer』

    動画ニュース「フィールドキャスター」
  4. 石破おろしが「命がけの政治闘争になっていない」理由

    文化放送
  5. 「そば処 時遊庵あさかわ」そばとワサビの花芽が生みだす安曇野のそばを、四季を彩る名店で味わって【信州そば-松本エリア】@長野県安曇野市

    Web-Komachi
  6. 大分市大在の「ラーメンの都一」の跡地にインドカレー屋ができてた

    LOG OITA
  7. 大分市鶴崎駅近くに『ローソン』ができるみたい

    LOG OITA
  8. 【材料2つを袋でもむだけ!】「買うより安い!」「子供が飛んで喜んだ」計量なしで作れるアイスクリームの簡単レシピ

    BuzzFeed Japan
  9. ホテル日航成田の食べ放題、"小学生1人無料"ってマジ...?会員限定で「ファミリーバイキング」が超お得に。

    東京バーゲンマニア
  10. プラダ・グループ上期決算 グローバル好調も日本市場の成長鈍化が顕著に

    セブツー