映画『惑星ラブソング』主演・曽田陵介&秋田汐梨インタビュー
映画『惑星ラブソング』が2025年5月23日に広島県で先行上映され、6月13日から全国で上映される。広島に暮らすモッチとアヤカが、謎めいたアメリカ人旅行者のジョンの観光案内をしながら不思議な出来事に遭遇するというストーリーだ。モッチを演じた曽田陵介とアヤカ役の秋田汐梨に本作の撮影エピソードを聞いた。
2つのストーリーが交錯するファンタジー
『惑星ラブソング』は二つのストーリーが交錯する。
第一のストーリーの主役は、進路が見えずに水族館でアルバイトをする大学生のモッチ(曽田陵介)とタウン誌で働きながらアメリカ留学を目指すアヤカ(秋田汐梨)。アヤカの留学には多額の資金が必要だが、タウン誌の社長の「自誌SNSで“外国人向けの広島の観光地”ネタで『いいね』を10万以上獲得すれば、留学の費用を負担する」という言葉を頼りに、モッチと一緒に外国人旅行者の観光案内を始める。そこで出会った謎めいたアメリカ人旅行者・ジョンを加えた三人で「10万いいね」を目指す。
第二のストーリーは、宇宙人に夢中の小学生、ユウヤが主人公。ユウヤは学校の授業で学んだ原爆の歴史に慄くあまり、その晩少女に戦時中の広島に誘われる夢を見る。その双方にジョンのストーリーも絡んでくる。
進路に迷いながらも明るくジョンと交流する若者を好演する曽田陵介と秋田汐梨にとって、それぞれの役柄と自分とで共通しているところはあるのだろうか。
「モッチの好きなものもやりたいことも見つけられないという点は、僕の大学生時代もそうだったなと。就職先をどうしようとか、そこはすごく等身大で演じることができました」(曽田)
「アヤカは、アメリカに行きたいという目標があって、そのために『10万いいねとるぞ!』と行動に移す、その行動力はよく似ています。私も自分がやりたいことがあると、考えるよりも先に動いちゃう性格ですし。でも、アヤカって行動力がありつつも、アメリカに行って何がしたいかは明確に決まってないんですね。その行動力から、一見完璧に見えるけど、とりあえず行ってみたいし、『行けばなんとかなる』というところにリアリティを感じますね」(秋田)
曽田にとって本作は、初めて長編映画の主役を演じた作品である。やはり気負いはあったのだろうか。
「主演だからといってかしこまりはしませんでした。出演者全員との横のつながりを大切にしたいと思い、チェイスや秋田さんなど皆さんの人柄を知りたくて積極的に話しかけたりしていました。円滑に現場を回すことが芝居に生きてくると思っていたので」(曽田)
「(曽田さんが)初めての長編映画主演だったと今聞いてびっくりしています。現場では『何度も経験しています』みたいな感じでナチュラルだったし、座長として板につきすぎているというか…。みんなに話しかけるし、集中する時は集中しているし、意見を出し合ったりして、みんなを正しいレールに持ってきてくれるような存在でした」(秋田)
オール広島ロケで生み出されるリアリティ
本作のロケはすべて広島県内で行われ、広島に縁のある役者が多数出演している。モッチたちが贔屓にしているお好み焼き屋(店名はセカンドハウス)は実在し、そこの店主を演じる西村瑞樹(バイきんぐ)は広島市の出身だ。監督の時川英之は広島市で生まれ育ち、海外や東京で映像の仕事に携わった後、2012年からは映画制作の拠点を広島に置いている。さらに言えば、曽田も青春期を広島工業大学で過ごしている。
「(撮影の合間に)ロケ地の近くにある『ほの湯』っていう温泉に路面電車で出かけました。電車から風景を見ながら、『大学時代にここを通ったな』とノスタルジーを感じていました。エモかったですね」(曽田)
一方、京都生まれの秋田の話す広島弁はナチュラルで、見事に広島に溶け込んでいる。アヤカは留学志望だけに劇中で英語のセリフが多く、2つの言葉にはさぞかし苦労したのではないだろうか。
「英語に限らず発音は結構褒められるんですよ、耳がいいって。英語は全くしゃべれないので、セリフや流れを考えながらも、音として覚えて。暗記した言葉を話しながらも、頭の中では“日本語にすると何て話しているか”を常に考えながら、違う言語でも気持ちを表現できるように意識をして、お芝居をしていました」(秋田)
悲惨な戦争の描写が一切ない反戦映画
2025年は終戦80年目に当たる。
この節目の年に広島を舞台に設定しているのだから、太平洋戦争と原爆がストーリーに密接に絡んでくるのは必然。本作は「ラブソング」というロマンチックなタイトルとは裏腹に、テーマはラブ&ピースである。
曽田と秋田は自主的に広島の歴史を学んで、撮影に臨んだ。
「モッチの役が決まって台本を読んだ時は、原爆が落ちた戦争について全然知らないんだなって思い、平和祈念資料館で写真や展示品、被災された方のインタビュー動画などを見て幅広く調べました。でも、モッチは広島の歴史について昔は学んでたんだけど、今は(日常に)それがありすぎて少し嫌気を感じて『なんか広島って進んでないよね』と思っている役柄だったので、自分で学んだことは心の中に留めておきつつ、そこまで言葉にしないようにはしてました」(曽田)
「学校の授業で学んだ知識はありましたが、その程度だったので、私も原爆ドームや広島平和記念資料館に行って、当時の映像資料を見て勉強しました。歴史上で起こった出来事を勉強しても、その時を生きていた人たちがどういう感情だったのかを考えたことがありませんでした。でも、それは彩香もそうだし、今の若い人はそれほど深く考えたことがある人は少ないんじゃないかな」(秋田)
曽田の「モッチは広島の歴史が身近すぎて『広島って進んでない』と少し嫌気を感じている」という言葉は興味深い。というのも、監督の時川英之が本作について次のように語っているからだ。
「小学校の授業やテレビのドキュメンタリー番組で見た戦争映像が、あまりに悲惨な光景で苦手だった。考えたのは、『自分が伝えられる平和とは何か』。ショックな映像に目を向けることがつらいのは、子供だけでなく、原爆が身近でない大人も同じだとわかっている」
悲惨な戦争なんて直視したくない。だが、それでは映画の興行は成り立たないし、何より作品を観てもらわなければメッセージも伝わらない。
そこで時川は「誰が見ても平和を感じられる映画」を目指し、戦争中の悲惨な描写の一切ないファンタジーに仕立て上げた。
一風変わってはいるが、時川が込めた反戦のメッセージを二人はどう受け取ったのか。
「あくまで映画を観ていただいて、そこから感じたことは持ち帰ってどうするかはお客様次第ですよというスタンスで撮っていました。監督からは『戦争を背負いすぎずに、現代の考え方でやってみて』と言われました。重いテーマですが、ファンタジーも織り混ざっていて堅苦しくない。観終わった後は平和について考えようというきっかけにもなりました」(曽田)
「台本には戦争シーンはないけど、ユウヤのひいおばあちゃんの『(原爆が投下されて)川に逃げたら死体がたくさんあった』と話すシーンに『うわ〜!』ってなりました。若い人たちに戦争の残酷さをちゃんと伝えつつも、『ハッピーな未来を作ろうよ』と発信する前向きな作品だととらえています」(秋田)
時川はインタビューで「平和についての答えは提示していないのですけれど、考えてもらう機会を提案できるんじゃないかなと思います」と話している。最後に撮影を通して二人が考える平和とは。
「家に帰って温かいご飯が食べられることじゃないですかね。ちゃんと雨風をしのげる場所があって、家族や友達、好きな人と話せて笑い合える時間があるのが平和なんだと思います」(曽田)
「たとえば、非日常的な犯罪などを扱う作品を観て『こわい』と思える、何かエンタメのようにそれを消費している自分は、すごく平和なんだろうなと感じます。こんな感覚で、平和であることが当たり前になっているので、よくないかもしれませんね…」(秋田)
広島県知事推奨映画『惑星ラブソング』
●監督・脚本・編集:時川英之
●プロデューサー:時川英之/横山雄二
●特別協賛:みどりグループ
●協賛:オタフクソース/モースト/津谷静子/にしき堂/やまだ屋/プローバホールディングス/ウメソー/広島電鉄/生活協同組合ひろしま/Y-HOTEL薬研堀/ボートレース宮島/ひろぎんホールディングス/フューレック
●後援:広島県/広島市/広島市教育委員会/広島ユネスコ協会/国連ユニタール協会 /鶴学園/広島大学
●配給:ラビットハウス
●宣伝:ブラウニー
●企画・制作:TimeRiver Pictures
●製作:「惑星ラブソング」製作委員会
2025年5月23日(金)より広島先行公開/6月13日(金)より全国公開
©映画「惑星ラブソング」製作委員会