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「“意味不明な行動”なら人間はAIに負けない」映画監督・上田慎一郎が考える、ちょっと先のクリエーティブの未来

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「“意味不明な行動”なら人間はAIに負けない」映画監督・上田慎一郎が考える、ちょっと先のクリエーティブの未来

テクノロジーが進歩した未来を描いたショート動画『みらいの婚活』が話題となっている。手掛けたのは、大ヒット映画『カメラを止めるな!』で監督を務め、今年11月には最新作である映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』の公開が控えている上田 慎一郎監督だ。

上田監督は22年にAIクリエイターと連携して映像制作を行う映画スタジオ「PICORE」の設立に携わるなど、AIをはじめとするテクノロジーの進歩をポジティブに受け止めている様子がうかがえる。しかし近年、「生成AIによって権利が脅かされる」との懸念を抱くクリエーターが増えているのもまた事実。

AIの進歩はクリエーターに何をもたらすのか。上田監督の考えを聞いた。

映画監督
上田 慎一郎さん

中学生の頃から自主映画を制作し、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2010年、映画製作団体PANPOCOPINA(パンポコピーナ)を結成。17年までに8本の映画を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得した。初の劇場用長編映画『カメラを止めるな!』(17年)は都内2館で上映を開始し、後に全国300館以上に拡大される異例の大ヒットを記録。その後も精力的に活動を続け、23年、縦型短編監督作『レンタル部下』がTikTokと第76回カンヌ国際映画祭による「TikTokShortFilm コンペティション」にてグランプリを受賞。24年11月、監督最新作となる劇場長編映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が公開予定 ■X:@shin0407 ■Instagram:shinichiro_ueda0407 ■TikTok:picorelab

技術がもたらす“半歩先”の明るい未来「虚構の物語の力を信じている」

ーーさまざまなショート作品で話題を呼んでいる上田監督ですが、最近ですとテクノロジーが進歩した未来を描いた『みらいの婚活』がSNSを中心に好評を得ています。この作品の着想はどこから得たのですか?

『みらいの婚活』のようにテクノロジーが発展した未来を描いた作品は多いですが、どうしても「人間がAIに滅ぼされる」みたいなディストピアものになりがちですよね。対してこの作品は、テクノロジーの進化がもたらす「明るい未来」を描きたいと思って作りました。

ーー拝見しましたが、温かい気持ちになる作品でした。

『みらいの婚活』はKDDI株式会社のブランディング作品として作成したのですが、「この物語が未来を変えられるといいな」という思いを込めているんです。

例えばスタンリー・キューブリック監督作品の『2001年宇宙の旅』は1968年にアメリカで公開された映画ですが、そこに出てくるタブレット端末の存在は、まさに現実のものになっています。

映画を見た人が「こんなものがあったらいいな」と思って、本当にそれを作ってしまうような。今はまだ虚構だったとしても、そうやって現実を引き寄せる力が物語にはあるに違いないって僕は信じているんですよ

ーー確かに作品を見ていて、こんな技術が生まれる未来はきっと来るだろうな、と思いました。

5年後10年後に確実にくるだろうという想定をもとに書いたので、そう感じてもらえたのかもしれません。

僕は普段から「半歩先の未来を描く」ということを心掛けているんですよ。

ーー「一歩先」ではないんですね。

「一歩先」だとちょっと遠くて、見る人が自分と地続きの物語だと感じられなくなってしまうんです。

未来に影響を与えるためにも、想像もつかないような未来を描くのではなく、本当にありそうだなと思える身近な作品を作ることを大切にしています

テクノロジーの進歩は、クリエーターにとって明らかにプラス

ーーここ数年の生成AIの進歩は目を見張るものがある一方で、クリエーターの仕事にあらゆる影響を及ぼすとも言われています。上田監督はAIの進歩についてどのようにお考えですか?

僕としてはポジティブに捉えています。歴史を振り返ると、技術の進化にはプラス面だけでなくマイナス面が伴うのがスタンダード。ですが、結果的にプラスになることが多いと思うんです。

古くは産業革命の時代にも「人の仕事がなくなるのでは」と言われていましたが、ただ単に失われるのではなく、機械の発展に伴って新しい仕事が生まれましたよね。だから最近のテクノロジーの進歩も、大いにプラスの面があるはずです。

例えば業務を効率化したり、人間をもっとクリエーティブにしたりすることが、AIにはできると思います。

ーー上田監督は2022年にAIクリエイターと連携して映像制作を行う映画スタジオ「PICORE」の設立に携わっていますよね。AIを活かした映像制作には、どのような方法が考えられますか?

まず、脚本のたたき台作りでAIが活用できると思います。例えば「AとBの要素が入ったストーリーはどんなのがある?」と問いかけたら、それなりのものがパッと出てくるでしょう。話し相手がいないときは、ブレストのキャッチボールに付き合ってくれそうです。予算と人員の情報をもとに撮影スケジュールを組むような作業は、すでにできるのではないかと思います。

あとは作品を見ている最中の人の表情を収集して、観客がどのシーンでどんな感情になっているか分析することもできそうです。アナログでやると非常にコストがかかりますが、AIでできるようになれば「ここで何人笑ったからもっと盛り上げよう」とか「ここは誰も笑ってなかったからカットしよう」といった判断を公開前にできるようになったら便利ですね。

人間が出せる価値とは「意味不明なことをする」こと

ーーAIが進歩すると、映画や映画を作る人に求められるスキルはどのように変わるのでしょうか?

さまざまな変化があると思いますが、一つは「空間デザイン」のスキルが求められるようになるでしょう。

今誰もが持っているデバイスといえばスマホですが、10年後にはスマートグラスに移行すると言われています。すると、空間を使ったエンタメコンテンツが大量に展開されるようになる。それに伴い、今までは2Dの平面の中だけをデザインすればよかったのが、360度の空間デザインをする力が求められるようになるのです。

もう一つ必要なのが「パーソナライズ化」のスキルです。現在の映像コンテンツは、ほとんどの場合結末は決まっていますよね。それが今後は、視聴者に合わせてリアルタイムでストーリーが変わっていくような映像作品が生まれてくるのではないかと考えています。

ーー今もNetflixやAmazon Prime Videoなどのプラットフォームはパーソナライズされていますが、そうではなく、映像そのものがパーソナライズ化されるということでしょうか?

ええ。例えば将来『ゴジラ2030』といった作品ができたとしても、全員が同じ『ゴジラ2030』を見ることはないということです。怖いシーンが苦手な人には恐怖感を煽るような演出が出てこなくなったり、恋愛シーンでテンションが上がる人には関連する場面が多めに出たりするイメージです。

今もマルチエンディングのコンテンツはありますが、視聴者の嗜好や反応を取り入れながら、もっとリアルタイムにストーリーを変化させる作品が生まれてくるはず。この変化に対応するためには、テクノロジーのスキルや知識が必要になってくると思います。

ーーそんな中でも、クリエーティブな作品を生む上で人間でなければできないことはあると思いますか? ご自身の職業でもある映画監督に関連してお聞かせください。

映画監督の仕事の一つに「そのシーンにおけるOKを出す」ということがあります。これは、AIに大量の映画データを学習させれば、人間の代わりにできるようになるかもしれないとは思います。むしろ、ヒットした映画に倣って判断するだけであれば、AIの方が素早くできるでしょう。

ただ、過去作品に則って判断している限り、新しいものは生まれません。それを考えると、人間が出せる価値とは「意味不明なことをする」ことなのかなと思います。

ーー意味不明なこと?

過去作品のレールに乗るのではなく、いかにレールから外れるかを、人間が積極的にやっていくんです。

僕の場合、映画を作るときは「構築」「破壊」「再生」の3ステップを大事にしています。

「構築」とは、脚本を練ったりリハーサルを重ねたりして土台を固める作業のこと。「破壊」は、現場で思わぬことが起きて、2度と撮れないものが撮れた瞬間のこと。そして「再生」とは、破壊されたものを含めた編集作業を指します。

僕は「構築」の段階で徹底的に土台を固めるのですが、現場ではできるだけそれが壊れてほしいと思っているんです。「破壊」のプロセスがないと、作品が予定調和のつまらないものになってしまうから。そして3ステップの中でも、特に「破壊」は人間だからこそ生み出しうるものなんです。

今秋に公開予定の映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』の撮影でもたくさんの「破壊」が生まれましたが、言語化不可能な意味不明なものを「面白い」と感じて作品に取り入れることは、今のAIには厳しいように思います。70点や80点の作品であればAIにも作れそうですが、120点の作品を作ることは難しいでしょうね。

ーークリエーターが予定調和でない作品を作るために大切なことは何でしょうか?

「予定調和を知ること」だと思います。型を知っていなければそれを破ることはできませんから。

AIに出せない価値を出そうと思ったら、まずは型を学び、それを破壊し裏切ることによって、いかに視聴者に喜んでもらうかを考えられるようになるといいと思います。

ーー最後に改めて聞かせてください。クリエーターとして、上田監督はAIの進歩を怖いとは感じませんか?

感じません。映画監督の仕事とAIにできることは完全なるイコールではありませんから。

それに、もしAIがゼロから全てを作り上げた映画があったとして、観たいと思いますか? 最初は興味を持つかもしれませんが、繰り返し観るでしょうか。 2作目、3作目と続いたらどうでしょうか。

例えば将棋だって、優れたAI同士の対局よりも、人間たちの名人戦の方を見たいと思いますよね。まだ多くの人は、人間が生み出すものを見たいはずなんです。

将来、人間のAIに対するアレルギーが解消されたときはどうなるか分かりません。それでも僕は、テクノロジーと共存することでもたらされる明るい未来を信じ続けたいなと思います。

作品紹介

『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』11月、新宿ピカデリーほか全国公開

上田 慎一郎監督による最新作『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が、11月新宿ピカデリーほか全国公開されることが決定!

上田監督が『カメラを止めるな!』公開前から動いていた渾身のプロジェクト。ソ・イングク、 スヨン、 マ・ドンソクの豪華共演で日本でも話題を呼んだ韓国ドラマ『元カレは天才詐欺師~38師機動隊~』を原作に、上田監督がオリジナリティーを加え、豪華キャストと精鋭スタッフが集結し実現した企画だ。

【あらすじ】
税務署に務めるマジメな公務員・熊沢二郎(内野聖陽)。ある日、熊沢は天才詐欺師・氷室マコト(岡田将生)が企てた巧妙な詐欺に引っかかり、大金をだまし取られてしまう。親友の刑事の助けで氷室を突きとめた熊沢だったが、観念した氷室から「おじさんが追ってる権力者を詐欺にかけ、脱税した10億円を徴収してあげる。だから見逃して」と持ちかけられる。犯罪の片棒は担げないと葛藤する熊沢だったが、自らが抱える”ある復讐”のためにも氷室と手を組むことを決意。タッグを組んだ2人はクセ者ぞろいのアウトロー達を集め、詐欺師集団《アングリースクワッド》を結成。壮大な税金徴収ミッションに挑むーー。

監督:上田慎一郎
出演:内野聖陽 岡田将生
配給:NAKACHIKA PICTURES
■公式サイト:https://angrysquad.jp/
■X:@angrysquad2024
©2024アングリースクワッド製作委員会

取材・文/一本麻衣 撮影/桑原美樹 編集/秋元 祐香里(編集部)

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