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住宅セーフティネット法が改正!2025年10月施行の新制度を解説

「みんなの介護」ニュース

長谷川 昌之

住宅セーフティネット法改正の背景と概要

住宅セーフティネット法の概要と目的

住宅セーフティネット法は、住宅確保に特別な配慮を要する方々(住宅確保要配慮者)の入居を支援するために制定された法律です。

国土交通省によると、「住宅確保要配慮者」とは、低額所得者(月収15.8万円以下)や被災者、高齢者や障がい者、子どもを養育している方などを指しています。

これらの方々が民間賃貸住宅に円滑に入居できるよう支援することが、この法律の主な目的となっています。

この法律には、住宅確保要配慮者を受け入れる賃貸住宅が「セーフティネット住宅(登録住宅)」として認定されるシステムがあります。

これにより、入居希望者と物件をスムーズに結びつける体制が整えられているのです。

さらに、居住支援法人による生活支援や相談サービスの提供を通じて、住宅と福祉の連携が強化されています。単に住まいを提供するだけでなく、入居後の暮らしを継続的に支える体制が整っている点も、大きな特徴といえるでしょう。

この法律の背景には、住宅と福祉の連携を図る「セーフティネット」の考え方があります。住宅政策と福祉政策を一体的に推進することで、多様な住まいのニーズに対応し、誰もが安心して暮らせる社会を目指しているのです。

改正の背景にある住宅確保要配慮者の現状

近年、単身高齢者世帯の増加が顕著であり、2030年には900万世帯に迫る将来予測が立てられています。

さらに、人口減少が進む中で高齢者(特に75歳以上)の人口は増加し続けており、これまでとは異なる住宅需要が生まれているのです。

住宅確保要配慮者は、多くの場合、以下のようなさまざまな要因が複雑に関係しています。

家賃の支払い能力の問題 身体機能の低下による住環境への配慮の必要性 日常生活の支援ニーズ

こうした複合的なニーズに対応するためには、従来の住宅政策の枠組みだけではなく、福祉政策との連携が不可欠なのです。

加えて、現行の住宅セーフティネット制度にも課題があります。例えば、要配慮者向けの住宅やすぐに入居できる住宅が限られているという実態があります。

国土交通省によれば、現在登録住宅は約88万戸ありますが、そのうち住宅確保要配慮者のみが入居可能である専用住宅は、わずか5,778戸にとどまっています。また、登録住宅の空室率は2.3%と低く、実際に入居できる物件は限られています。

さらに、登録住宅には家賃の低い物件が少なく、家賃5万円未満の住宅は全体の19%(東京都では1%)しかないという現状も、低所得の要配慮者にとっては大きな障壁です。

一方で、住宅・土地統計調査によれば全国の空き家は約900万戸、その中で賃貸用は約443万戸あり、相当数の空き室が存在しています。

これは、日本の人口減少が要因の一つとして考えられています。空き家の有効活用を通じて、実際の住宅ニーズに見合った供給を実現することが求められているのです。

改正法施行に向けたスケジュール

この需要と供給のミスマッチを解消することが、住宅セーフティネット法改正の重要な課題の一つとなっています。

住宅セーフティネット法の改正法は、2024年6月に公布され、2025年10月に施行される予定です。施行まで約1年半の準備期間があるため、関係者が連携して円滑な実施を目指すことが求められています。

法改正の施行を見据えた準備としては、2025年夏頃から開始される予定です。具体的には、認定家賃債務保証業者の認定申請や居住支援法人による残置物処理等業務規程の認可申請の受付が始まります。

これらの準備作業がスムーズに進むことで、施行後の新制度がより効果的に機能することが期待されています。

改正法の施行に向けて、自治体や居住支援法人、福祉関係者などの事前連携は特に重要となるでしょう。従来は別々に進められがちだった住宅政策と福祉政策が、この法改正を機に一体的に推進されることが目指されています。

例えば、市区町村による居住支援協議会の設置が努力義務となり、地域における居住支援の取り組みが推進されることになります。

この協議会には、住宅部局だけでなく福祉部局も積極的に関与することが求められており、横断的な支援体制の構築が図られるでしょう。

改正法の内容を十分に理解し、必要な体制を整えることで、住宅確保要配慮者の支援がより効果的に行われるようになることが期待されています。

住宅セーフティネット法改正による新制度の詳細

居住サポート住宅の創設とその特徴

居住サポート住宅とは、住宅確保要配慮者に対して、安心して暮らせる住環境を提供することを目的に新たに創設された制度です。

この制度は、賃貸住宅における入居の障壁を取り除き、入居者が安定した生活を送れるよう支援することを目指しています。

居住サポート住宅の最大の特徴は、居住支援法人が大家と連携して入居者をサポートする点にあります。具体的には、次の二つの支援が行われます。

日常の安否確認・見守り

ICTを活用した安否確認や訪問などによる見守りサービスを提供

福祉サービスへのつなぎ

入居者の生活や心身の状況が不安定化したときに、適切な福祉サービスへつなぐ支援を実施

現行のセーフティネット登録住宅は「大家が拒まないこと」と「物件情報を公表すること」が中心ですが、居住サポート住宅では「居住支援法人等がサポートを行うこと」に重点が置かれています。

これは、単なる住まいの提供にとどまらず、入居後の生活支援を含めた総合的な支援体制の構築を意味しており、制度として大きな進化といえるでしょう。

また、住宅政策と福祉政策が連携する形で制度設計されており、改修費などの補助による供給促進のための予算措置(2024年度予算)も講じられています。

このように居住サポート住宅制度は、ハード(住宅)とソフト(生活支援)の両面から住宅確保要配慮者を支える新たな仕組みとなっており、従来の制度より一歩踏み込んだ支援が可能になっているのです。

家賃債務保証業者の認定制度の創設

改正後の住宅セーフティネット法において、家賃債務保証業者の認定制度が新たに創設されました。この制度は、特に家族や親族が保証人になれない高齢者や低所得者が賃貸住宅に入居しやすくするための重要な施策です。

認定制度が必要とされる背景には、保証人確保の難しさがあります。

家族構成の変化や社会関係の希薄化により、従来のような親族による保証が得られないケースが増加しています。そのため、第三者による保証の仕組みが不可欠となっているのです。

この制度では、国土交通大臣が「要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者」を認定します。認定を受けた保証業者(認定保証業者)には以下のような基準が設けられています。

認定基準 居住サポート住宅へ入居する要配慮者の家賃債務保証を原則引き受ける 緊急連絡先を親族などの個人に限定しない その他の要配慮者に配慮した基準

これまで多くの保証会社では、緊急連絡先として親族の連絡先を求めるケースが一般的でしたが、身寄りのない高齢者にとっては大きな入居障壁となっていました。

認定保証業者ではこの制限を設けないことで、より多くの要配慮者が利用できるようになります。

また、この認定保証業者を支援する仕組みとして、住宅金融支援機構(JHF)による家賃債務保証保険制度も整備されています。

これは認定保証業者の保証リスクを低減することを目的としており、保証業者が安定した経営を続けられるよう支援する制度です。

認定保証業者は、入居者の家賃支払い状況を把握することから、入居者の生活状況の変化にいち早く気づく立場にあります。

そのため、ケアマネジャーや地域包括支援センターなどとの情報連携も重要視されています。例えば、家賃の滞納が始まった際に、適切な福祉サービスにつなぐことで生活再建を支援することも可能になります。

この家賃債務保証業者の認定制度は、大家・入居者ともに安心できる仕組みであり、住宅セーフティネット機能の強化に大きく貢献するものと期待されています。

居住支援法人の業務拡大

今回の改正では、居住支援法人の業務が大幅に拡大されることになりました。特に着目すべき点は、新たに「残置物処理」などの業務が追加されたことです。

残置物処理とは、入居者が死亡や失踪などにより退去した際、部屋に残された家具や日用品などの私物を整理・処分する作業のことを指します。

これまでは、残置物の処理をめぐってトラブルが発生することもあり、貸主側にとっては大きな負担となることも少なくありませんでした。

この変更は、大家側の不安要素を軽減し、住宅確保要配慮者の入居機会を増やすことを目的としています。

居住支援法人とは、住宅確保要配慮者の入居支援や入居後の見守りなどを行う法人で、都道府県知事によって指定されます。

改正法以前から全国で活動していましたが、2024年3月末時点では851法人と、地域の居住支援の担い手として着実に増加しています。

改正法では、居住支援法人の業務として、新たに入居者死亡時の残置物処理が追加されました。

この背景には、高齢者の入居を拒否する大家の最大の理由として「居室内での死亡事故等への不安」が約9割に上っていることがあります。

居住支援法人が残置物処理を代行することにより、大家の負担が軽減され、入居者の家族にとっての安心感にもつながります。

特に高齢者や障がい者が入居する場合、孤立死や入院後の住まいの問題が深刻な課題となっていることから、この新制度は非常に重要な役割を果たすでしょう。

また、居住支援法人は地域の不動産事業者や福祉関係者との連携も強化することが期待されています。

これにより、住宅確保要配慮者に対するきめ細かな支援が可能となり、「誰もが安心して暮らせる住まい」の実現に一歩近づくことになるのです。

住宅セーフティネット法改正が与える影響と今後の展望

住宅確保要配慮者への影響と期待される効果

住宅セーフティネット法改正の最も重要な影響は、住宅確保要配慮者の「生活基盤の安定化」にあります。新たに創設される居住サポート住宅制度によって、単に住まいの確保だけでなく、生活全般のサポートが一体化することで、安心感が大幅に向上するでしょう。

具体的に期待される効果としては、まず「地域の中で孤立しない住まい方」が可能になる点が挙げられます。居住支援法人による見守りサービスにより、単身高齢者などが地域社会とつながりを持ちながら生活できるようになります。

また、「医療・介護サービスへのアクセス改善」も重要な効果です。安定した住所があることで、地域包括支援センターや介護保険サービスなどの継続的な利用が容易になり、健康状態の維持・改善につながります。

さらに、認定家賃債務保証業者の創設により、「身寄りがない方の住まい確保の壁」が低くなります。従来は保証人や緊急連絡先の確保が困難であった方々にとって、住まい探しの選択肢が大幅に拡大する可能性があります。

これらの効果は、住宅確保要配慮者の「生きがいや社会参加の促進」にもつながるでしょう。住まいの不安が解消されることで、地域活動への参加意欲が高まり、より豊かな生活が実現する可能性があります。

住宅は単なる「住む場所」ではなく、人生の土台となります。この法改正によって、誰もが尊厳を持って暮らせる社会への一歩が踏み出されると言えるでしょう。

介護・福祉業界への影響

住宅セーフティネット法の改正は、介護・福祉業界にも大きく変化をもたらす可能性があります。特に「福祉と住宅の連携」という新たな視点が、業界の可能性を広げる契機となります。

改正法は、介護・福祉業界に対して、主に以下の影響を与えることが考えられます。

新たなビジネスモデルの創出 居住支援法人として認定を受けることで、事業者が住まい支援も含めた総合的なサービスを提供できるようになります。 多職種連携の強化 ケアマネジャーや地域包括支援センターと家賃債務保証業者、不動産事業者との情報共有体制が構築され、利用者支援の質が向上します。 予防的支援の実現 見守りや安否確認を通じて、問題の早期発見・早期対応が可能になり、要介護状態の重度化予防につながります。 事業領域の拡大 高齢者の入居に際して、大家等が求める支援内容としては「見守りや生活支援」「死亡時の残置物処理」などのニーズが高いことが調査からも明らかになっており、こうした支援を提供できる体制が求められます。

この改正により、介護事業者と居住支援法人の連携が強化され、「地域包括ケア」の理念がより具体化される可能性があります。

住まいの課題解決が福祉サービスの効果を高め、結果として利用者の生活の質向上に寄与するでしょう。

また、従来は別々に動いていた住宅政策と福祉政策が一体化することで、利用者にとってもワンストップの支援体制が整いやすくなります。

こうした変化は、今後の介護・福祉業界の方向性を大きく左右する重要な転換点となるかもしれません。

自治体に求められる対応と課題

住宅セーフティネット法の改正に伴い、自治体には新たな対応が求められています。特に「居住支援協議会の設置」が努力義務となり、福祉部局の積極的な関与が不可欠になります。

居住支援協議会は、住宅と福祉の関係者が連携し、地域における居住支援の取り組みを推進するための重要なプラットフォームです。

しかし、多くの自治体ではこの設置率が低く、特に市区町村レベルでは2024年3月末時点で約5%にとどまっています。法改正を機に、この設置を推進することが大きな課題となるでしょう。

また、改正法の効果的な運用には、地域包括支援センターなどの現場職員との緊密な情報連携が必須です。

こうした職員は日常的に住宅確保要配慮者と接する機会が多く、潜在的なニーズを把握できる立場にあります。この連携をどう構築するかも重要な課題です。

さらに、居住サポート住宅の認定や家賃債務保証業者の監督など、新たな業務も増加します。限られた人員体制の中で、これらの業務をどう効率的に進めるかという運用面の課題も存在します。

国土交通省と厚生労働省が共同で基本方針を策定することからもわかるように、住宅部局と福祉部局の縦割りを超えた連携が成功の鍵となるでしょう。

特に地域資源の活用や空き家・空き室の有効活用など、地域特性に応じた住宅確保策を検討することが求められます。

改正法が真に効果を発揮するためには、自治体のリーダーシップと柔軟な対応が不可欠です。住宅と福祉という異なる視点を融合させた新たな地域支援モデルの構築が、今後の大きな挑戦となるでしょう。

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