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高級食材のフグやホタテやアン肝…これ全部「こんにゃく」じゃないか! 山形「こんにゃく懐石」の見立ての妙

ロケットニュース24

リーズナブルで低カロリー、食物繊維の豊富な健康食品としてもお馴染みのこんにゃく。ただ、家庭料理の食材としての用途は限られているし、そうそう毎日食べられるものじゃない。けれどもし、肉や魚や米や麺の代わりに、こんにゃくがテーブルに並んだら……?

日本料理に息づく「見立て」の美学。煮物にちょっと添えられる脇役の域を超え、すべてにおいて“こんにゃくが主役” の懐石料理があるという。山形県上山市の「こんにゃく専門店」を訪ねてみた。

【画像】景色も美しい「こんにゃく番所」

・丹野こんにゃく「こんにゃく番所」

訪れたのは丹野こんにゃく「こんにゃく番所」。江戸時代にタイムスリップしたかのような風情ある門構えが出迎えてくれる。

付近一帯はかつて羽州街道「楢下宿(ならげしゅく)」として栄えた交通の要所で、今も古い街並みと人々の暮らしが共存しているエリアだ。

箱根や川越など大きく観光開発された宿場町は全国にたくさんあるけれど、冬の羽州街道はとても静か。渋滞も行列もない。それでいて「こんにゃく番所」の開店時刻が近づくと続々と人が集まり、みるみるうちに活気がみなぎってきた。

広い敷地内には、日本庭園を囲むように食事処、売店、カフェがある。食事処でしっかり食事をすることもできるし、売店でテイクアウトの串料理を買ってその場で食べたり、カフェでスイーツを楽しんだりと、さまざまな過ごし方ができる。

食事まで少し時間があったので、ふらりと売店を見ていたら店員さんから呼び止められた。

勧められるがままにテーブルに着くと、お茶と小鉢のおもてなし! 「ま、ま、まだ何も買ってませんけど……!」と挙動不審になってしまったが、見渡すと店内の全員がおもてなしを受けていた。窓の外は雪景色。温かいお茶に心がゆるゆると和む。

その後も「試食どうぞ!」と何度も声をかけていただく。店内はとにかく明るく、元気な声にあふれている。大人も子どもも、商品を買った人もそうでない人も、分け隔てなく歓待される雰囲気がある。

・こんにゃく尽くしの「三懐石料理」(税込3740円)

そうこうしているうちに定刻となり、レストラン店内へ。この日、オーダーしたのは三懐石料理(税込3740円)だ。ほかに二懐石料理(税込2970円)や一懐石料理(税込1870円)もある。

席に届けられたのは「御献立」の紙。八寸(はっすん)から甘味まで十品ほどのコース料理で、品書きを見るだけで期待が高まる。

※季節や仕入れ状況などによって内容が異なり、この日も実際の料理と献立とは若干の違いがあります。

コースのはじまりは食前酒から……だけれどドライバーも心配なく。アルコールではなく、ゼリー状の林檎こんにゃくだ。爽やかで美味しい!

和食における “前菜” のような役割の八寸。海の幸・山の幸を少しずつ盛り付けるのが作法だというが、ここは「こんにゃく番所」! すべての料理にこんにゃくが使われている。

たとえば黒豆の煮付けは、本物の黒豆と、黒豆に似せたこんにゃくが混ざっている。食感の違いを楽しみながら、日本の伝統料理を味わう。

続いて並べられたのは「御椀」と「煮物」。

それぞれの皿には、ご本人登場とばかりに「こんにゃくそのもの」として調理されたこんにゃくもあれば、何か別の素材に似せた「見立て」として登場するこんにゃくもある。

煮物では、桜餅に見立てたこんにゃくが登場した。もち米の粒々感のある関西風で、こんにゃくの歯ごたえが心地よい。

これはとても珍しいのでは! 純白の見た目からは想像できないけれど、こんにゃく製のそうめんだ。出汁と一緒にスルリと喉を通る。

カリカリに揚げてあるタイプも美味しい。

ちなみに売店でお茶とともにいただいたのは「中華あんかけ麺」で、こんにゃくは麺にもなれるのだ。炭水化物よりも罪悪感なく食べられる。

お腹も温まってきたところで、コースは佳境を迎える。こ、こ、これはフグ刺し……!

向こう側が透けて見えるテクスチャーや、プルプルの身の弾力がリアル……!

一般的に、こんにゃくには独特のクセや匂いがあり、それが苦手という人もいると思う。筆者も普段「煮汁も使えます」と書いてあるような半調理品でも、匂いが気になって洗ってしまう。

しかし丹野のこんにゃくは、料理を邪魔するような「えぐみ」がまったくなく、透明感のある清らかな味わい。だからこそ、どんな食材にも化けられるのだろう。

生の魚介の旨みまでは再現できなくても、フグ自体が淡泊な白身魚ということもあって、「フグだー! フグだー!」と楽しんで食べた。

こちらは “海のフォアグラ” とも呼ばれるアン肝。夜の珍味がこんなところで食べられるとは! その「見立て」の技術はいかに……

……しまった!! 本物のアン肝を食べたことがなかった。ゆえに出来栄えもわからない……!

ホタテならわかるぞ! 貝焼きに見えるけれど、身の部分はこんにゃく。

縦方向に身がさける、あの繊維質の感じがよく出ている! 同じこんにゃくでも硬さ、弾力、繊維の方向などまったく違う食感を作り出せることにびっくり。

ここまでは和食だったけれど洋風の意欲作、こんにゃくリゾット。ご飯の代わりに粒状のこんにゃくが使われている。

〆は蕎麦または粥から選ぶことができ、筆者は蕎麦をセレクト。「つなぎ」にこんにゃくを使っているそう。違和感なく、言われなければ気づかない。

デザートは同店の人気商品「こんにゃくみぞれ ら・ふらんす」。口に入れると洋梨特有のざらっとした舌触りが感じられ、果肉をそのままゼリーに仕立てたみたい! 今日一番の「本物そっくり」を挙げるなら、このデザートだ!!

・食後にも続くおもてなし

お会計を済ませて立ち去ろうとすると、またもや呼び止められた。食事をした人にサービス……ということで玉こんにゃくをいただいた! すでに懐石料理で満腹だけれど、ほかほかと湯気を立てる山形名物に嬉しい悲鳴だ。

この後、併設のカフェ「日々蒟蒻」でスイーツをいただいて終了。完全に食べ過ぎたが大丈夫だ。だって、ヘルシーなこんにゃくだもの。

お茶を勧められて腰かけ、ユニークな「見立て料理」を楽しんだ後は、試食品をいただいてはまた腰かけ……ついつい長居をしてしまう。

筆者も東北の生まれで、地方の観光地に行くと「元気ないなぁ……」「寂れてるなぁ……」と気分が沈むこともしばしばだが、対照的な様子に感激するばかり。人が来ないとスタッフも意欲がなくなって場が暗くなる、するとさらに人が来なくなる……という悪循環が起きてしまうけれど、その逆もまたしかり。

「こんにゃく番所」は懐石料理もすごかったが、なにより「おもてなしの心」がすごかった。テーマパークのようなこんにゃく専門店、山形を訪れたならぜひ!

参考リンク:丹野こんにゃく公式サイト
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.

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