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大河ドラマ「べらぼう」の舞台! 江戸時代に繫栄した「化政文化」とは?【3か月でマスターする江戸時代】

NHK出版デジタルマガジン

大河ドラマ「べらぼう」の舞台! 江戸時代に繫栄した「化政文化」とは?【3か月でマスターする江戸時代】

2025年のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。その主人公・蔦屋重三郎が活躍したのが江戸時代です。

特に、江戸時代後期には幕府政治が動揺する一方で、文化の面では充実した時代でした。
上方発祥だった「元禄文化」に対し、江戸の町人を中心に「化政文化」が隆盛を極めます。
歌舞伎や落語などの娯楽から、出版・浮世絵などの文化事業、食文化まで、現在、世界に知られる「日本的文化」が形づくられていきました。

『3か月でマスターする江戸時代』より、蔦屋重三郎も多大な貢献をした、「化政文化」について紹介します。

幕藩体制の動揺が生んだ化政文化

大スターだった江戸時代の歌舞伎役者

 18世紀後半の田沼時代には、経済の発展を背景に、江戸の武士や上層町人によって文化も発展していきました。規制が厳しかった寛政の改革でいったん停滞しますが、19世紀に入ると再び興隆。「文化」(1804〜18年)、「文政」(1818〜30年)という2つの元号から、このころの文化を「化政文化」といいます。

 化政文化の主な担い手は、都市で生活する人々です。特に江戸は最大の消費都市として人や物の集積地であったことから、化政文化の発信拠点となりました。また、交通網の発展によって人や物の全国的な交流も生み出され、地方にも江戸の文化の波が広がります。

 17世紀後半に上方を中心に興隆した元禄文化に比べて、化政文化は享楽的な色彩が強いとされています。都市では、天保の改革で浅草・猿若町に移転させられた常設の芝居小屋がにぎわい、江戸の歌舞伎興行は黄金期を迎えました。歌舞伎役者は当時の大スター。地方でも歌舞伎を真似た村芝居(地芝居)や人形芝居が行われました。

猿若町に移転となった芝居小屋ーー水野忠邦は風紀を乱す芝居小屋を取り潰そうとしたが、穏健派の町奉行・遠山景元が反対。江戸の中心地からはずれた浅草・猿若町に移転することで、存続が決定した。(「東都繁栄の図・中村座」歌川広重画 国立国会図書館蔵)

出版文化と浮世絵の黄金時代

寺子屋の普及で庶民の識字率が向上

 戦国時代までは庶民の子どもたちが学ぶ施設はほとんどありませんでしたが、江戸時代に入ると、「寺子屋」と呼ばれる教育施設が普及し始めました。寺子屋では「読み・書き・そろばん」が教えられ、庶民の識字率向上に貢献。18世紀後半には貸本屋で安価に本を借りて読む人も増え、出版物のニーズも高まっていきました。

 江戸時代の出版文化は京都や大坂などの上方で始まり、現在の出版社にあたる「版元」(板本)も登場。彼らは大消費都市である江戸にも進出し、庶民の生活を生き生きと描いた「滑稽本」、恋愛を扱う「人情本」、遊廓や遊女を描いた「洒落本」、江戸の風俗を風刺する「黄表紙」などのジャンルの本が人気を博しました。詩歌では社会風刺や皮肉、ユーモアを盛り込んだ「狂歌」や「川柳」が盛んになります。

 この時期に活躍した江戸の版元・蔦屋重三郎は、山東京伝や恋川春町、大田南畝といった人気作家の本を次々に刊行した“敏腕プロデューサー”です。彼が文学作品の出版の次に手がけたのが風俗画の「浮世絵」で、喜多川歌麿の美人画、東洲斎写楽の役者絵などを世に送り出しました。

蔦屋重三郎の「耕書堂」ーー安永元年(1772)、蔦屋重三郎は新吉原の大門の前に貸本屋「耕書堂」を開き、人気店となった。その後、重三郎は自ら本を出版し、人気作家や浮世絵師を数多く生み出している。(『画本東都遊』葛飾北斎 東京都立中央図書館蔵)

なぜ外食文化が栄えたのか

発達した外食産業 寿司・天ぷら・そば

 江戸時代は、食の分野にも多様な変化がもたらされました。世の中が落ち着いたことで、「生きるための食」だけでなく、「楽しむための食」という文化が生まれたのです。料理の調理法が書かれた本も多数出版されました。

 江戸で発達したのが外食産業でした。江戸は大名の参勤交代で単身赴任中の武士が流入したり、奉公や出稼ぎに来たりと、単身男性の多い社会でした。台所も整わない長屋暮らしの人々の胃袋を満たすため、屋台や居酒屋などが増加。飲食店は芝居小屋や見世物小屋が建ち並ぶ広場や道路沿いに点在し、多くの客を集めました。

 江戸時代の外食には、寿司や天ぷら、そば、うなぎなどがあります。寿司は、文化・文政以前は「箱寿司」といわれる押し寿司が一般的でした。19世紀前半には魚を酢飯にのせた握り寿司も登場。手っ取り早く食べられるようになりました。その起源については諸説ありますが、屋台で軽くつまむスタイルが江戸っ子の気風に合っていたと考えられます。

 高級料亭の文化が生まれたのも江戸時代。酒と一緒に楽しむ会席料理が広まりました。例えば、享保年間開業の浅草の「八百善」は、将軍もお忍びで来店したといわれています。

1日3食の習慣が生まれる

食文化が興隆する原動力になったのが、調味料です。例えば、健康的な体を維持するのに欠かせない塩は、瀬戸内海沿岸部で「入浜塩田」と呼ばれる製塩方法が開発され、量産が可能になりました。塩は味つけ以外にも保存や料理の下処理、下味などに幅広く用いられ、食文化の発展に大きく貢献しました。

 現在に続く食の習慣の多くは、江戸時代に生まれたもの。1日3食の習慣は明暦の大火で焼失した江戸を再建するために集まった労働者たちに、昼食を提供したのが始まりという説もあります。

『3か月でマスターする江戸時代』では


「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の時代をうつすセット&小道具の解説も

 2025年1月にスタートする、「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の主人公・蔦屋重三郎が活躍するのは江戸時代中期。物語には故郷である吉原遊廓、田沼時代の江戸城、職場の「蔦屋」などが登場します。

 『3か月でマスターする江戸時代』テキストでは、ドラマの風俗考証を担当する佐多芳彦さんによる、撮影のために用意されたセットや小道具、江戸時代の文化やしきたりの解説も掲載。ぜひ、大河ドラマと併せてお楽しみください。

 ※この内容の放送はありません

ナビゲーター:野島博之(のじま・ひろゆき)

日本史講師。1959年、三重県生まれ。東京大学文学部日本史学科卒。駿台予備学校、東進ハイスクールなど予備校講師を経て、現在は学研プライムゼミ特任講師。朝日カルチャーセンター講師。『学習まんが日本の歴史』(集英社)総合アドバイザー。著書に『中学から使える詳説日本史ガイドブック』上・下(山川出版社)、『ストーリーで学び直す大人の日本史講義』(祥伝社)など。

◆『NHKシリーズ 3か月でマスターする 江戸時代』
◆取材・文 常井宏平
◆地図・イラスト 雉〇/ Kiji-Maru Works

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