冬の漁港を漂う奇妙なクラゲ<ヨウラククラゲ> 複数の個虫が役割を果たす不思議な生きもの?
冬になると、外洋性のプランクトンが沿岸部にやってきます。
その中でも、特に多くみられるクラゲであるヨウラククラゲを紹介します。
冬になると見つかる<ヨウラククラゲ>
ヨウラククラゲはヒドロ虫網クダクラゲ目ヨウラククラゲ科に分類される種類で、国内だと本州から沖縄まで広い地域に分布。外洋の表層~中層、およそ水深200メートル以浅で暮らしています。
上から見ると12角形になっており、形がインドで身分の高い人が身につける装飾品「瓔珞(ようらく)」に似ていることから名付けられました。
肉食性で、甲殻類のプランクトンから小型の魚類まで幅広く捕食します。
ヨウラククラゲは複数の個虫が集まってできた群体
ヨウラククラゲは、複数の個虫が集まってできた「群体」。
てっぺんに「気泡体」という個虫があり、中のガスを調節することで浮力をコントロールしています。
その下には、一般的なクラゲでは傘の部分にあたる「泳鐘部」という泳ぐための個虫群があり、拡大と縮小を繰り返すことで、水中での泳力を生み出します。
続く下部分には「栄養部」というさまざまな役割をもった個虫群があります。それぞれ体を守るために個虫を覆う保護葉、食事のための触手を発達させる栄養体、捕食消化器官・生殖体があります。
そして、体の中心に幹があり、各個虫に栄養分を巡らせたり、新しい個虫を生み出す役割があります。
ヨウラククラゲが冬になると現れる理由は海中にアリ
ヨウラククラゲは普段、沿岸から離れた外洋の中層域に生息しています。
では、なぜ冬になると沿岸部で見られるようになるかというと、深海から沸いてくる水の流れ、湧昇流に乗って来るからです。これは“上昇気流の海流版”ともいえるでしょう。
発生する理由は諸説ありますが、冬になると表層の海面が冷やされ、それが深海へと下り深海の比較的暖かい水域が浅瀬へと流れる──要するに、小学校の理科で教わった熱対流と同じ現象が海にも起きているということです。
すると、ヨウラククラゲをはじめとした外洋・中層プランクトンや深海魚の幼魚などが表層に現れます。
ヨウラククラゲは10月上旬頃から現れ始めるため、ひとあし早く冬を告げるクラゲだと言えるのです。
ヨウラククラゲは奇妙なクラゲ
ヨウラククラゲは変わった面が多く、なかなか奇妙なクラゲです。中層での生息密度は高く、その密度がそのまま沿岸に現れることもあります。
外洋性のクラゲや幼魚・プランクトンなどが沸いている時は多くの場合で本種も現れますが、居ない時は全く現れずないこともあります。
同じ水深と環境に生息するクラゲの中には、春になっても継続して浅瀬に現れるものもいますが、筆者がよく訪れる漁港では、春になるとヨウラククラゲはパタリと現れなくなります。
体が丈夫で再生能力も高い
そして、体が丈夫で再生能力も高いのですが、飼育は難しく、数日で弱ってしまいました。
近縁種に、ナガヨウラククラゲというヨウラククラゲよりも遙かに長い種類がいます。
こちらはヨウラククラゲとは比較して珍しく、あまり出現することはありません。ですが、水面に保護葉がちらほらと漂っていることがあります。
クラゲの仲間はいろいろ
彼らはクダクラゲの仲間で一般的なクラゲとかけ離れた体の構造をしているため、一目でこれがクラゲだと分かる人は少なく、サルパなどの他の種類の浮遊生物だと勘違いされることが良くあります。
これをクラゲの仲間だと知ると驚く人も多いです。
クラゲにはまだまだ知られていない面が多くあります。その片鱗をヨウラククラゲから知るのも悪くはありません。
(サカナトライター:俊甫犬)