青春続行!ロック魂が響き合うイベント「千のRock You!! 2024」体験レポート
バンドならではの最も魅力的な瞬間とは?
バンドで演奏する醍醐味とは何だろう? それぞれが練習してきたバラバラの音が、ひとつにまとまり、ボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードが一体となる瞬間―― これこそが、バンドならではの最も魅力的な瞬間ではないだろうか。
そんなバンドでしか味わえない心地よさを、1,000人ものメンバーとともに体感できたら… そんな夢のような体験ができるイベントが『千のRock You!!』。私は今年、初めてこのイベントに参加し、日常では得がたい感動を味わうことができた。その一部始終をここに記し、この熱い想いを読者にも届けたいと思う。
イベントの背景と参加のきっかけ
“ひとつの曲を1,000人で演奏する” というコンセプトは、2015年にイタリアで始まった『Rockin' 1000』が発端だ。日本では2017年から『1000人ROCK FES.GUNMA』として開催され、関西では2023年から『千のRock You!!』として大阪府堺市で開催されている。私がこのイベントを知ったのは、通勤途中に見た南海なんば駅の大型ビジョン広告だった。関西でもこのイベントが開催されていると知り、早速検索。映像に映る参加者の笑顔に引き込まれ、プロモーションを兼ねた路上ライブに足を運ぶことにした。
金曜の仕事帰りに梅田のOSビルに向かうと、十数人のメンバーが演奏していた。ほとんどが私と同世代かそれ以上の印象だったが、なんと小学生らしき子どもたちの姿もあった。正直、演奏はそれほど上手ではなく、立ち止まって聴く観衆も少なかった。しかし、演奏者たちはそんなことをまったく気にしていない様子で、みんな楽しそうに笑顔で演奏していた。その姿が印象的で、その笑顔に背中を押されるように、翌日には参加登録をしてしまった。こうして私は、高校時代に購入して以来押し入れに眠っていたベースを引っ張り出し、約30数年ぶりにライブに向けた練習を始めた。
演奏するたびに新しい発見と感動を与えてくれる課題曲
課題曲は4曲。それぞれが個性豊かで、演奏する楽しさを感じさせる選曲だった。
まず1曲目は「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」。世界的なロックアンセムと言っても過言ではない、ニルヴァーナの代表曲である。この曲はイタリアの本家『Rockin' 1000』でも演奏されており、その大迫力の様子はYouTubeで見ることができる。
2曲目はサディスティック・ミカ・バンドの「タイムマシンにおねがい」。1974年にリリースされたこの楽曲は、数多くのアーティストにカバーされてきた。広い世代に愛され続けている日本のロックアンセムである。
3曲目は怒髪天の「オトナノススメ」。他の課題曲に比べると知名度は低く、私自身もこの楽曲を知らなかった。しかし、練習を重ねるうちに、この曲こそが『千のRock You!!』らしさを最もよく表現している楽曲だと実感するようになった。
そして4曲目はザ・ブルーハーツの「TRAIN-TRAIN」。この曲は昨年のイベントでも演奏されており、主催が鉄道会社の南海電鉄ということもあって、まさに『千のRock You!!』の代表曲とも言える存在である。
これら4曲は、それぞれに異なる魅力があり、演奏するたびに新しい発見と感動を与えてくれる課題曲だった。久々にTAB譜と格闘しながら練習を進める日々がはじまり、左手の指の皮が厚くなっていく感覚に、高校時代のバンド活動を思い出した。寝る前のひとり練習が毎日の楽しみになっていった。
忘れていたバンドの醍醐味を一瞬で思い出させてくれた練習会
『千のRock You!!』では、本番までに数回の練習会や交流会が開催される。個人練習を始めて約1か月後、堺市の浜寺公園で行われた練習会に初めて参加することにした。ギターケースを抱えて電車に乗ると、まるで高校時代に戻ったような気分になる。会場に到着すると、小学生から私より上の世代まで約30人が勢ぞろいしていた。多種多様なメンバーに少し緊張しつつも、いざ演奏が始まるとその緊張は吹き飛んだ。
“ひとつの曲をみんなで合わせるのって、こんなに楽しいんだ!”
暑い秋空の下での演奏は、忘れていたバンドの醍醐味を一瞬で思い出させてくれた。同じパートのメンバーが複数いることで、ミスも目立たずに楽しめる。この気軽さも『千のRock You!!』の魅力だと気づいた。
メンバーとの絆と本番への準備
練習会に参加したことで熱意がさらに高まり、個人練習にもより力が入るようになった。同時に、練習会にも頻繁に参加するようになり、メンバーたちとの絆も深まっていった。
『千のRock You!!』は、ただ参加登録するだけではなく “千分の…” を意味する “THE ‰”(ザ・パーミル)というバンドメンバーとして登録する形式を採用している。この考え方は、ただの参加者ではなく、一緒にバンドを組む仲間として楽しむという理念に基づいている。
何度も練習会で顔を合わせ、演奏を重ねることは、まるで高校時代にバンドメンバーとスタジオで練習を重ねていた日々と同じだった。こうして演奏技術だけでなく、メンバー同士の結束もお互いに高め合いながら、本番の日を迎えることとなった。
50台近くのドラムセットが並ぶ壮観な光景
いよいよ本番の日がやってきた。晴天にも恵まれ、木々が色づき始めた会場・大泉緑地の大芝生広場には、早朝からメンバーが集まり始めた。圧巻だったのはドラムセットの並び。50台近くのドラムセットが並ぶ壮観な光景は、これまで見たことのない壮大さだった。他のメンバーたちも次々と集まり、ロックな衣装に身を包んでいた。私も、高校時代に愛用していた黒のハットをかぶり、ライブ気分を満喫。ここは芝生の上だけれど、私たちにとっては間違いなくライブのステージだった。
北は北海道から南は鹿児島まで、同じ志を持った約370人の “THE ‰” メンバーが集結。午前11時、最初のリハーサルがスタート。「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」のイントロが鳴り、ギターリフの後にドラムが加わる瞬間からアドレナリンが放出される。年齢や性別、演奏技術の差など関係なく、全員でひとつのグルーヴを作り上げていることにテンションが上がりっぱなしだった。
リハーサル後の約2時間半を経て迎えた本番。晴れていた空が突然雲に覆われ、最初の曲「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」の演奏が始まると、小雨がぱらつき始めた。しかし、それもダークな曲調に合わせた天の演出のように感じられた。「タイムマシンにおねがい」「オトナノススメ」と続くにつれて晴れ間が広がり、「TRAIN-TRAIN」の頃には眩しい日差しに包まれていた。
本番中の細かい記憶はあまりない。ただ、ひたすら楽しかったことだけが鮮明に残っている。記録用に自撮りしていた動画を見ても、終始笑顔で口を開けっぱなしだった。ただ「TRAIN-TRAIN」のイントロのピアノソロが流れた瞬間、演奏が終わってしまう寂しさを感じたのを覚えている。
アンコールでは「オトナノススメ」を再び演奏。この約2か月間は、高校時代のバンド活動に戻ったような “青春” を謳歌していた。大人になっても “大ハシャギ” できる喜びを実感しながら、最高の時間を過ごした。
オトナはサイコー!青春続行!
人生を背負って大ハシャギ
怒髪天のこの歌詞こそが、“THE ‰” メンバー全員の心を代弁しているように思える。今回は1,000人での演奏は叶わなかったが、いつか1,000人のメンバーが揃って演奏する日を目指して 『千のRock You!!』はこれからも “青春続行" していくだろう。このコラムを読んだあなたも、“THE ‰” のメンバーにぜひ加わって欲しい。