【実話】インドで「詐欺師か?」と警戒し過ぎてやるせなくなった話
海外旅行で初めての国を訪れる際、まずは治安を気にする方は多いことだろう。日本の治安が良すぎるためか、やや神経質になってしまうことが少なからずある。
これは私が人生初のインドで体験した実話。あまりにも警戒しすぎた結果、最終的に私は「なんて俺は小さな人間なんだ……」と自分を責めざるを得なかったのである。
・呼ばれた
俗にインドは「呼ばれないと行けない国」などと言われている。私はポケモンGOのイベントで “人生初インド” を経験したので、インドではなくピカチュウに呼ばれたのかもしれない。
さて、インド行きを決めた時から周囲からは、かつてないほど注意喚起を促された。話は多岐にわたったが、要約すると「食に気を付けろ」そして「詐欺師に気を付けろ」という内容である。
食に関しては割愛するが、特に観光地や大都市には大勢の詐欺師がいるんだとか。「彼らは1発で獲物を見分ける」「にこやかかつ華麗に詐欺を行う」等々、渡航前から散々脅されていた。
私自身、これまでちょいちょい海外には行っている。そのため「そこまで警戒しなくても……」とも思っていたが、初のヒンドゥー圏であるインドは、掴み切れない不安があったことも事実だ。
・ムンバイにて
で、あれはインド到着2日目のこと。ムンバイ市街にいた私は、観光名所として名高い「インド門」を見に行くことにした(ちなみにインド門はデリーにもあるヨ)。
タクシーかウーバー……と一瞬頭によぎったが、せっかくのインドなら電車にはぜひ乗ってみたい。かくして電車とバスを乗り継いで、インド門へと出かけることにした。
やがて特にトラブルもなく、到着したインド門。一通り写真などを撮影したら、再び市街地へリターンすることに。Googleマップによれば帰りは「電車 & バス」ではなく、バスだけでどうにかなるようだ。
だがしかし、ようやく乗り込んだバスで車掌さんから切符を買おうとすると「そこには行かないぜ!」と非情な宣告が。ギュウギュウの車中、どうしようか……と途方にくれてしまった。
・来たか
その時である。私の後方にいた青年が「俺に着いてきなよ」と案内役を買って出てくれたのだ。どうやら彼は私の目的地よりも先に行くようで、途中まで私と一緒に行動してくれるらしい。
年齢は読みづらいが、彼はおそらく10代後半~20代前半の青年だろう。背はさほど高くなく、青のギンガムチェックのシャツを身に着けていた。英語が出来るようで、私の拙い英語にも必死に耳を傾けてくれている。
なんて親切な青年なんだ……インド最高! 人類みな兄弟!! ……と素直に思えれば良かったのだが、ぶっちゃけ私の心の中では「緊急警報」がウーウーと鳴り響いていた。「ついに噂のヤツがきたぞ!」と。
結局、彼と一緒にバスを降り、行きの駅まで戻った私は切符を購入することに。彼は定期券的なもの(?)を持っているだろうに、なんと長蛇の列が出来ている切符売り場で15分ほど私と並んでくれたのだ。
1秒ごとに申し訳なさとありがたさがこみ上げてくる一方で、まだ警戒心は解けていない。だがようやく切符を購入した私に彼は「あの電車に乗ってね」と告げ、爽やかに立ち去っていったのであった。
・すまん
そう、彼は詐欺師でも悪いヤツでも何でもなく「ただただいい人」だったのである。どんなに少なく見積もっても、彼が私のためにロスした時間は20分。見ず知らずの外国人のため、同じことができる人がどれくらいいるだろうか?
結果的に私は帰りの車中「なんて小さな人間なんだ……」と自分を責め続けた。初めてのインドだった、周りからビビらされていたなどは関係ない。要するに私の器が小さかっただけの話である。
いいやつばかりじゃないけど、悪いやつばかりでもない。そんなことはわかっていたが、いざ現場でそれが見抜けなかった私は、まだまだ未熟者。車窓を流れる景色がなんともやるせないムンバイの午後であった。
執筆:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.