4s4ki、 OHTORA、DÉ DÉ MOUSE、Charisma.comら出演『ササクレフェス2024』をレポート
ササクレフェス2024
2024.06.08 渋谷WOMBLIVE
ササクレクトが主催するイベント『ササクレフェス2024』が6月8日、渋谷WOMBLIVEにて開催された、今年はレーベル「術ノ穴」が20周年、その母体会社であるササクレクトが5周年を迎えるアニバーサリーイヤーで、周年に相応しいラインナップが集結。ライブステージ「MAIN LIVE」とDJフロア「DJ&ART」の2ステージに計13組のアーティストが出演し、4s4kiのライブではアニバーサリー曲「Don’t Look Back」に参加したOHTORA、Hanagataも加わるこの日ならではのコラボレーションも実現した。ここではライブアクト6組をレポート。表現のアウトプットは様々だが、どこか共鳴するマインドを残した5時間を振り返る。
■Gigandect
MAIN LIVEの口火を切ったのは任天堂ゲームボーイの2台使いでチップチューンを作るクリエーター・Gigandect。4s4kiの「SUCK MY LIFE」や「OBON」のトラックで、この日集まったオーディエンスには馴染みの存在だろう。チップチューンというとライトなイメージだが、フロア仕様の低音もバリバリに出ていてインダストリアルなムードが漂う曲もプレイ。それがQ昆の生身と仮想がないまぜになったVJとすこぶるマッチする。かと思えば、キュートな音像とポップなメロディの曲では「せーのっ!」と合いの手を入れたり、まるで神器のようにゲームボーイを掲げたり、DJとしてレアなキャラクターを見せてくれたりもする。どこまでもドリーミーでポップな音色と、シューティングゲームなどの攻撃性、加えて大音量のダンスミュージックであることの肉体性が同時に存在している興奮にいつの間にか約40分が過ぎ去り、「See You NextLater!」と言い残してステージを去った。『ササクレフェス』の一番手に相応しい不思議なアンビバレンツの余韻が残った。
■Hanagata
アニバーサリーソング「Don’t Look Back」にも参加しているHanagata。同曲でのボーカルや歌詞以外はほぼ正体不明だというオーディエンスも多かったのではないだろうか。それもそのはず、今年3月にササクレクトに加入後、今回が初ライブだったのだから。
うつむき加減で登場し、1曲目はダークな世界観を持つショートチューン「Batman」。さらにバーチャルな夕暮れ時を感じさせるエレクトロニックなR&B調の「Lucid Dreaming」、切ないピアノハウステイストの「release」と立て続けに披露されたナンバーにはどこか少年性も漂い、エフェクトで加工されているとはいえ、澄んだトーンのボーカル、ほとんど顔を上げない佇まいも相まって自然と歌の内容を耳が追う。
ステージが進むと次第にオーディエンスに開かれたパフォーマンスに変化して、ラストの「By my side」ではHanagataがハンズアップする様子に自ずとフロアも同調。ラッパーというより、シンガーソングライター的な資質を見せるユニークな存在として強い印象を残した。
■Charisma.com / ダダダ!
2013年のデビュー以来、他に類を見ないラップスタイルとウィットに富んだ鋭い歌詞やソリッドなサウンドで国内外にファンを持つCharisma.com。しばしの活動休止ののち、昨年6月にライブ復帰を果たし、若いリスナーにとっては今回が初めてのステージという人も多そうだ。
ステージには土器大洋(Gtmani)と髙橋尚吾(Drsampler)も加わり、生音がダイナミックな抑揚をつける中、現れたいつか(Vo)は顔をシェードで隠した状態で踊り、歌う。1曲目はトライバルな「カンブリアダンス」。テンポよく3曲披露し、序盤で早くも6月26日にリリースとなる「メンタルワープ」なる新曲も飛び出し、初披露にも関わらずフロアからは盛大にクラップが起きていた。
中盤のダダダ!で、ゲストにダンサーであるTEMPURA KIDZのKARINが登場し、東アジアの民族調ダンスで大いに盛り上げる。高速ラップで世の中のあらゆる勘違いした崇拝にユーモアを込めてノーを突きつける「nobody崇拝」などを圧巻のダンスパフォーマンスを交えて展開。終盤はKARINもマイクを持ち、いつかのコンビネーションで魅せていく。さらにQ昆のヤバすぎるVJも相まって、「ミイラキラー」はライブならではの痛快さに突入していた。ラストは「イイナヅケブルー」を新たなバージョンにアップデート、約30分に12曲という特盛セトリで沸かせてくれたのだった。
■DÉ DÉ MOUSE
DJセットに位置した途端、マイクを手にして「周年おめでとうございます! まずは乾杯!」と、ハッピーなトーンに振り切ったDÉ DÉ MOUSE。しかし勿論、出音の迫力はライブアクト以上でさすが。Daft Punk「Revolution909」のDÉ DÉ MOUSEミックスでフロアをバウンスさせる。明るいアグレッシブさで煽り、それまでライブを“観る”モードだったオーディエンスも各々自由な動きで踊り出す。
フレンチエレクトロ寄りからしっかり電音部の白金煌(CV)「Sweet Illusion」に繋ぎ愛らしい女性ボーカルが際立つこの日ならではの展開も。ハイテンションで矢継ぎ早にジャンルを越境していく彼に、追加のビールがスタッフから供給され、「みんなで踊っていきましょう!」とさらにフロアを煽ると、セットのスタート当初は想像できなかったほどの一体感が生まれていた。
周年のアンセムである「Don't Look Back」のジャングルミックスでは歓声とともに大きなクラップが起こり、急転直下、メロウチューンに切り替えていくスピーディなDÉ DÉ MOUSEワールドでいい意味、フロアは翻弄され続ける。もはやテーマパークのようなカラフルさにクラブミュージック初体験のリスナーも全身で楽しんでいる様子が素晴らしい。クライマックスにはセットの上からジャンプを決め、「最後までみんなで平和に踊っていきましょう!」とメッセージを放ったのだった。
■OHTORA & maeshima soshi
DÉ DÉ MOUSEのマイクを受け取って登場したのはR&B、シティポップやファンク、オルタナティブをJ-ポップに昇華するシンガーソングライター・OHTORA。日本国内だけでなくアジアにもリスナーを拡大する存在だ。この日はOHTORAはもちろん、術ノ穴では4s4kiをはじめ、今のポップシーンで活躍するアーティスト数多く手がけるプロデューサー・mashima soshiがDJを務めた。
オープナーはスチールパン風のリフが印象的な「BYAKUYA」。高低差のあるメロディラインと複雑なフロウを乗りこなし、儚くもディープな世界に誘っていく。ムーディなトラップ「Nightmare」を歌い終わると、オーディエンスに向かって「みんな飲んでる?」と、親しみを込めたコミュニケーションも。
大事な人を守ってやれなかった後悔から一歩進もうとしている穏やかな「Railway」など、じっくり聴けるナンバーを続けたあと、「初公開の曲を聴いてください」と歌い始めたのは、ほぼ通しでファルセットの美しさが堪能できる「BLACK HIACE」というナンバーだった。一転して、maeshima soshiを紹介すると、ポップチューン「HONEY DARLIN」、ハードなハウス寄りの「Coconuts」でパフォーマンスもアグレッシブになり、サビではオーディエンスも続々ジャンプする盛り上がりを作り出し、ラストは秘密と現代的なイシューを掛け合わせた「Digital Tattoo」でユニークな言語感覚と特徴的なボーカルスタイルを印象付けたのだった。
■真新宿GR学園(電音部)
キッズたちで賑わう土曜の渋谷の街と地続きなイメージで登場したのは真新宿GR学園。クラブミュージックを基盤とした音楽制作キャラクタープロジェクト「電音部」の新エリアとして2022年から活動している彼女たちをファンの熱い声援が迎える。
それぞれ異なる個性が魅力の3人から、口火を切ったのは吉田凜音だ。OHOTRAとNARISK共作のアグレッシブなリリックが刺さる「Cheater」を皮切りに、SONOTAの鋭いラップが炸裂する「pHyCooo」、入れ替わるようにをとはがステージに現れると、二人とは全く異なるいわゆるキュートなアニメ声で禁断の遊びを想起させる「残酷りむる」を披露した。
MCで全員が揃うと、大神纏(CV:吉田凜音)、安倍=シャクジ=摩耶(CV:SONOTA)、りむる(CV:をとは)をイメージして作られたハードでトライバルな「Siren」に突入。3人とも挑発的だが、声の個性の違いがパワフルさを増幅して迫ってくる。もちろん、攻撃的なだけじゃなく、アバンギャルドな飲み会(!?)の場面を彷彿させるをとはが歌う「焼ヶ鮭」でコール・アンド・レスポンスが起きたりもして感情が忙しい。ラストは代表曲でヘヴィなビートと3人の目まぐるしく変わるボーカルスタイルの「禁言」で鮮烈な印象を残した。
■4s4ki
レーベル代表の挨拶に続き、「今のササクレクトを象徴するアーティスト」と紹介された4s4ki。その言葉通り、フロアにはオーディエンスが詰めかける。今日のDJは4s4kiへの楽曲提供も多いGigandectが務めるのもこのイベントらしい一貫した流れを感じる。ステージに現れた4s4kiはピンクの髪色、シルバーのプリーツミニスカートにプラットフォームの白いレースアップブーツと、トレンドを踏まえたポップなルックが新鮮だ。
1曲目の「SUCK MY LIFE」からステージ前方に膝をつき、オーディエンスを見据えて歌う。狼煙のようなシャウトにこのライブへの意気込みが伺える。間髪入れずmaeshima soshiとの共作曲でエレクトロニックなポップチューン「ring ring you kill me」で伸びやかなボーカルを響かせ、明るいメロディに乗る切実な歌詞が沁みる「0h G0D!!」、隙間の多いトラックがむしろ幼さと暴力性を綴るリリックをまっすぐ届ける「SAD night boi」と、序盤からヒリヒリした世界が続く。パフォーマーとして、聴き手に伝えようとする姿勢に今の4s4kiの強さを見た思いだ。
MCではササクレクトと音楽を作ってきたことを幸せだと話した彼女。ピアノの弾き語りでは初期のナンバー「Gender」と「unwise」を高い集中力で聴かせ、音楽を作り始めた頃のむき出しの気持ちに心が揺さぶられる。そして、当時全てを出し尽くせたという「クロニクル」を演奏したのだが、それでもまだ音楽を作る気持ちになれたのはレーベルとの出会いがあったからだと言う。続いては周年のアンセムである「Don't Look Back」をOHTORAとHanagataを迎えたスペシャルなライブバージョンで届けた。4s4kiが歌う世界観として新しいだけでなく、レーベルのネクストフェーズでもあると感じられる曲がライブで披露された意味も感じられたのだ。さらにCharisma.comのいつかを迎えた「幻」での二人の凛とした佇まいも心地よい。二人が初めて同じイベントに出演したのも、ここWOMBだったというのも感慨深い。
「知ってる人は踊って歌ってください!」という呼びかけで始まったのはTRFのカバー「survival dAnce」。躍動するフロアの熱を高めるGigandectのサウンドがキャッチーな「OBON」、所信表明のような「おまえのドリームランド」を経て、グッと包容力を増した今の彼女を全身で感じる感動的な「ねえ聞いて」で、記念すべきスペシャルライブは終演。まさにトリに相応しいアクトだった。
同じイベントに集結することが稀有なジャンルやアーティスト性を持っていながら、終始温かいムードでステージに熱量を注いでいたファンの姿も印象に残ったこの日。他のレーベルではなかなか感じ得ない繋がりを確認できたことの意味は大きい。
取材・文=石角友香 撮影=フジ・ヘンドリックス
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