【福山市】弓削商船の練習船「弓削丸」乗船体験会 ~ ふくやま港まつり(2024年11月9日・10日開催)で船員の卵たちに会う
「将来の夢は、世界一大きな船の船長になることです」
「外国に荷物を運ぶ船の船長になって、みんなの生活を支えていきたいと思います」
国立弓削商船高等専門学校の学生たちは、目を輝かせて夢を語りました。
周りを海に囲まれた日本では、海外から輸入される食品や資源、日本から輸出する工業製品などを運ぶための船が欠かせません。その船を動かす船員や技術者を目指す学生たちのための練習船が「弓削丸(ゆげまる)」です。
2024年11月9日と10日の2日間開催された「ふくやま港まつり2024」の目玉イベントのひとつである、弓削丸乗船体験会のようすを紹介します。
弓削丸乗船体験会
福山港旧フェリー乗り場から約1時間のクルーズをする今回の体験乗船会。参加できるのは事前に応募した人のみでした。2日間で計5回、各回とも定員は70名。
応募者多数の場合は抽選とのことでしたので、筆者もドキドキしながら往復はがきを送り、無事当選のはがきを受け取って万歳を叫びました。
弓削丸とは?
「弓削丸」は国立弓削商船高等専門学校の練習船です。29年間活躍した弓削丸3世の後を継いだ弓削丸4世は2024年3月12日に竣工したばかりの新造船で、最新鋭の設備を備えています。
国立弓削商船高等専門学校があるのは、愛媛県越智郡上島町の弓削島です。船員を育成する商船学科のほか、ものづくりの技術者を育成する電子機械工学科、情報システムの技術者を育成する情報工学科の3学科があります。
そのうち商船学科では、船の構造や安全などはもちろん、天文学や電気工学、経済学なども学びます。カリキュラムには半年間の航海実習が2回組み込まれていて、即戦力のある船員となって巣立っていくのです。
高等専門学校(高専)は、5年一貫教育によって実践的・創造的技術者を養成する学校で、中学卒業後に入学できます。
乗船前、参加者にはライフジャケットが渡されます。万が一の際、ライフジャケットが脱げてしまわないようにと装着を手伝う学生さんのキビキビした動作に、目が釘付けになりました。
いよいよ乗船です。
案内に従って、真新しく美しい船内を進みます。
船内にはモニターを備えた教室が。
商船学科教授の湯田紀男(ゆだ のりお)さんから、次のような説明を聞きました。
・福山にもっとも近い国立高専である弓削商船には、福山や尾道出身の学生が多い
・教員も福山周辺から通う人が多い
・海運国家である日本を、船や港湾が支えている
・20年以上使っていくため、弓削丸は最新鋭の設備を備えている
・ 航海中に海水中のマイクロプラスチックを回収
・ 航海中のデータはすべて学校から閲覧可能
・ 遠隔操作も可能 など
・弓削丸は災害時に活躍する防災機能を備えている
・ 災害時の携帯基地局になる
・ 折りたたみ式の水タンク・汚水ろ過装置などを搭載
・ 発電機や医薬品の充実した医務室があり、病院として機能する など
また、気になる卒業生の進路についてもお話がありました。
・卒業生の就職率は100%
・外航船の船員は、1年の3分の2は船で勤務、残りは陸上で休暇の生活スタイル
・船員の給料はかなり高い 休暇中も勤務中の3分の1~半分程度の給料が支払われる
・ベテラン船長の平均年収は1,700万円ほど など
船内を見学
福山港をクルーズしながら船内を自由に見学する前に、参加者にはスタンプラリーの紙が配られます。スタンプを集めると船内を一巡できるようになっていました。
通路に沿っていくつか設けられていたのは、航海中に学生が生活する部屋です。
コンパクトながら気持ちの良い室内ですね。
普段は陸から見ている景色を海から見られるのは、新鮮な感動でした。
このままずっと海を眺めていたい気持ちもありましたが、船内探検に戻ります。
船を運転する船橋(せんきょう)は、多くの見学者で賑わっていました。
子どもたちが列を作って、操船の順番を待っています。
ていねいに教えてもらいながら船を動かした思い出は、きっと子どもたちの心に強く残ることでしょう。
画像を確認しながら、船は進みます。
こちらは機関制御室です。
室内から船の周囲のようすを観察できます。この画像は学校からもリアルタイムで見られるそう。もちろん録画して、実習の振り返りにも利用します。
この大きなモニターには、船内のどこがどのように動いているかが表示されています。
弓削丸の人たちにインタビュー
弓削丸を案内してくれる人たちにお話を聞いてみましょう。
吉原梨晏(よしはら りあん)さんは尾道市出身の商船学科2年生です。
「オープンキャンパスで弓削丸を見て、商船学科を選びました。気になるなら飛び込んでみなさいと、背中を押してくれた母に感謝しています。
商船学科の魅力は、普通の高校生が経験できないことをたくさん経験できることですね。今日のようなイベントに参加させてもらうのも2回目ですが、とても楽しいです。コミュニケーション能力も身につきますよ!」
同じく商船学科の3人です。制服が違うのはリニューアルのためで、赤いネクタイが3年生、ストライプのネクタイが1・2年生だと教えてもらいました。
3年生の水野さくら(みずの さくら)さんは神奈川県横浜市出身。現在、学生会長も務める「学校のリーダー」です。
「船では英語を使うので、英語の勉強に力を入れています。
低学年では日帰り、3年生では2泊3日の航海実習があります。はじめはうまくできなかった操船も、3年生になってだいぶできるようになりました。4年生から始まる長期の実習が、とても楽しみです」
2年生の山本イサベラ(やまもと いさべら)さんは愛媛県新居浜市出身。機関士を目指しています。
「はじめはわからないことだらけですが、勉強すると知っていることがどんどん増えるんです。それがおもしろいですね」
3年生の田代愛理(たしろ あいり)さんは愛媛県松山市出身で、将来の夢は船長です。
「船乗りは海で仕事をして、外の世界を見られるのが魅力ですが、陸上でも活躍できることがたくさんあります。自分の手で未来を切り開ける仕事だと思います」
弓削丸機関士の中田禅(なかた ぜん)さんは、弓削商船の卒業生でもあります。
「高専の魅力は、高校大学の計7年間よりも短い5年間で資格が取れて20歳で社会に出られるので、トータルで学費が安くなること、そしてしっかりした知識が身につくことです。
在学中に国家資格を取れば、大手企業にも就職しやすくなります。
企業からは、弓削商船の卒業生は即戦力になると非常に高い評価をいただいています。
日本人の食生活や産業などを支えている船は、今後も決してなくなることがないので、将来性のある仕事ですね。
弓削商船の学生は、9割が寮生活をしています。全国から学生が集まってきているので、いろいろな県に友達ができますよ」
乗船体験を終え、印象に残ったのは弓削丸の設備の充実度はもちろん、学生さんや船員さんたちの優しさや格好良さでした。
この日、乗船体験に参加した子どもたちのなかから、未来の船乗りが生まれるかもしれません。
2日間の仕事を終えて学校へと帰っていく弓削丸の人たちは最後まで手を振って、港で見送る人たちとの別れを惜しんでくれました。
その他、ふくやま港まつり2024の見どころ
ふくやま港まつりの見どころは、他にもいろいろありました。
会場に集合していたのは、海上保安庁の巡視船「いよ」や、消防艇、タグボートなど、一般市民にとってあまり見る機会のない船の数々です。
残念ながら少し出遅れた筆者は、「いよ」やタグボートの船内見学には間に合いませんでしたが、多くの人が熱心に見学をしているようすが見られました。
特殊警備にあたる「いよ」は、愛媛県松山市を拠点としています。瀬戸内海を月に2〜3回巡回し、テロや犯罪を抑止する役割を担っているそうです。
タグボートは、フェリーやタンカーなどの大きな船の接岸や離岸をサポートしています。
今回展示されていたのはJFE福山ポートサービス(株)の「ふくやま」です。
300m級の大きな船を動かすには、タグボート5台が協力します。タイヤがついた鼻先で押したり、船につないだロープを引っ張ったりして、船の角度を変えるのです。
陸上のエリアには福山税関や潜水協会など13のブースが立ち並び、海と港と船に関わる仕事の内容を伝えていました。
子どもたちの歓声が上がっていたのは、災害や事故現場、建設現場で働く乗り物の展示です。
制服やヘルメットを身につけて、大好きな消防車や道路パトロールカーなどと写真を撮るのは、いい思い出になりますね。
その他、海上保安庁のヘリコプターの展示飛行や、消防艇の放水デモンストレーションなど、迫力のあるアトラクションもありました。
グルメゾーンにはキッチンカーが並びます。家族で一日、たっぷり楽しめるイベントです。
まつりを主催する福山市みなと事業推進委員会の山名道雄(やまな みちお)さんにお話を聞きました。
「ふくやま港まつりは、2013年から年1回開催しています。2023年までは箕沖コンテナターミナルを会場としていましたが、今回初めて福山港旧フェリーターミナルでの開催となりました。
福山の物流に欠かせない場所である港を知っていただくため、さまざまなブースで港や海に関わる仕事のPRをしています。展示を見た子どもたちが将来、船員や建設などの港に関わる仕事に就いてくれたらうれしいですね」
子どもたちのキラキラとした目には、港の仕事の魅力がはっきり映っていたと思います。
ふくやま港まつりは今後も毎年、10月~11月に開催予定とのこと。来年以降も注目したいイベントです。