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「だぼだぼ」「づかづか」…D音のオノマトペのイメージとは? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】

NHK出版デジタルマガジン

「だぼだぼ」「づかづか」…D音のオノマトペのイメージとは? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】

「D音」で始まるオノマトペのイメージとは?


秋田喜美さんの解説を紹介!

これまでP(ぱらぱら)、T(たらたら)、K(からから)、S(さらさら)、H(ひらひら)、B(びりびり)音を扱ってきた当連載。今回は濁音(B、D、G、Z音)の2回目、D音について考えていきます。

2024年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。

オノマトペは「ふんわり」「ひらひら」など擬態語や擬音語の総称です。

様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。

今回は『NHK俳句』テキスト2024年11月号から、「D音」のオノマトペに宿るイメージについての解説をお届けします。

阻害音 D音で始まるオノマトペ

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ダ行にはいくつの音があるでしょう?
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 ダ行で始まる言葉を挙げてみると、「黙る」「ダーツ」「出る」「電気」「どうも」「ドイツ」。タ行と違って、現代日本語のダ行には「だ、で、ど」の三音しかありません。「ぢ」は「じ」に、「づ」は「ず」に統合されているためです。「散り散りになる」の二つ目の「散」は「ぢ」ですが、発音は「じ」と同じです。一方、オノマトペのダ行には、統合前の名残(なごり)が感じられます。

「だ、で、ど」の話から始めましょう。6月号でT音が「緩み」を表すことを見ました。この基本イメージはD音にも受け継がれます。先月のB音で見たように、一般に濁音は対応する清音のイメージを強めた意味を持つためです。「たたんたたん」と「だだんだだん」は、いずれも貨車の音を写せますが、「だだんだだん」のほうが重くて荒い音です。蟇(ひきがえる)の皮も、「たぷたぷ」より「だぶだぶ」のほうが緩みが大きい。「でれでれ」と「どやどや」については、「てれてれ」と「とやとや」という清音の対応形が見当たりません。それでも、「でれでれ」はだらしなく過ごす様を、「どやどや」は鮪(まぐろ)船に乗り込む大勢の船乗りの騒がしさを表しており、D音が持つ緩みと程度の大きさが生きています。

『NHK俳句』テキストでは、日本語が使い分けていた「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」のイメージが今も息づいていることについての解説などを掲載しています。

講師

秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ進化したか』、Ideophones, Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です

◆『NHK俳句』2024年11月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:『日本語のオノマトペ──音象徴と構造』(浜野祥子著・くろしお出版)/『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/『擬音語・擬態語辞典』(山口仲美編・講談社学術文庫)

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