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介護現場のスピーチロックとは?介護職が注意すべきポイントや言い換え表現を紹介!

ささえるラボ

介護現場のスピーチロックとは?介護職が注意すべきポイントや言い換え表現を紹介!

介護現場におけるスピーチロックとは?

執筆者/専門家

伊藤 浩一

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14

「スピーチロック」
私が24年前、介護福祉士として仕事に就いたころには、スピーチロックという言葉はありませんでした。いつ生まれたか?正確な文献はないので明確には言えませんが、ここ15年くらいの中で生まれた言葉かと推測します。

スピーチロックとは、日本語に訳すと「スピーチ=言葉」、「ロック=固定する」ということなので、「言葉で固定する=言葉の拘束」という意味になります。

例えば、立ち上がるとすぐ転倒する危険性のあるご利用者さん(仮名:Aさん)が、テーブルの前に座っているとします。Aさんに対して職員(仮名:職員Bさん)が「Aさん、立たないで!」と声をかけた場合、言葉でAさんの立とうとする行動をロック=固定してしまっていますよね。
このようなシーン(スピーチロック)を見たことはありませんか?私はあります…。

介護現場における3つのロック

また、介護現場においては3つのロックがあると言われています。
この記事では、スピーチロック(言葉の拘束)について解説しますが、念のため他のロックについても確認しておきましょう。

1.フィジカルロック(身体拘束)
→物理的に利用者さんの身体を固定し、動きを制限すること

2.ドラッグロック(薬物拘束)
→薬物の不適切な投与で、利用者さんの動きを制限すること

3.スピーチロック(言葉の拘束)
→言葉によって利用者さんの行動を制限すること

介護現場でスピーチロックが起きてしまう原因とは?

スピーチロックが起きてしまうまでの思考のプロセスを考えてみましょう!

では、どうして先述した介護職員Bさんは、このようなスピーチロックを現場で行ってしまうのでしょうか。

職員Bさんは決してご利用者の自由を奪うことを目的として「立たないで」と声をかけているわけではありません。職員Bさんの脳裏には、「リスク管理」があります。
では、職員Bさんが、Aさんに「立たないで!」という言葉を発するまでの思考プロセスを分解してみましょう。

【職員Bさんが利用者Aさんに「立たないで!」というまでの思考プロセス】

1:利用者Aさんが立つ
2:利用者Aさんがふらつく
3:利用者Aさんが転倒する
4:利用者Aさんが転倒により大腿部頸部骨折等の骨折又は頭部打撲による硬膜下血腫のリスクがある
5:利用者Aさん自身に大変な痛い想いをさせてしまう
6:ご家族や上司から責任について問われる+指導を受ける
7:事故報告書を作成しなければならない=業務量の増加

上記のように職員Bさんは、「立たないで!」という発言の前に、利用者さんが1人で立った場合のリスクなどを含めてこのような思考のプロセスを踏んでいるのです。

この思考のプロセスを見るだけでは、職員Bさんの判断も正しいのでは?と思われる方もいらっしゃいますよね。しかし、「立たないでください!」という発言はスピーチロック=言葉の拘束となってしまうのです。なぜでしょうか?

「立たないでください!」はなぜスピーチロックになってしまうのか?

ここからそもそも論のお話になります。
みなさん、日本国憲法を思い出してください。憲法第13条に「基本的人権の尊重」があります。

基本的人権の尊重すべて国民は、個人として尊重される。 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。

先ほどは職員Bさんの思考のプロセスを考えましたが、上記「基本的人権の尊重」を踏まえたうえで、利用者Aさんが立ちたいと思うまでの背景を考えてみましょう。

【利用者Aさんが立ちたいと思った背景】

「トイレに行きたい」または、「家に帰りたい」、「少し席を立ちたい」など何か立たなければできない行動があり、立とうとしていることが想定できます。

つまり、「立たないで!」は、Aさんの意思および行動の自由を奪ってしまう行為となり、日本国憲法の基本的人権の尊重にそぐわない発言となってしまうわけです。

スピーチロックの判断基準は「本人の行動の自由を制限しているかどうか」

また、厚生労働省は「介護施設・事業所等で働く方々への 身体拘束廃止・防止の手引き」内で身体拘束の具体的な行為を掲げています。具体例の一部は以下の通りです。

・転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
・点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手装等をつける。
・車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
・脱衣やオムツはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
・自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。

上記のような内容が明記されていますが、最後に、身体拘束に該当する行為か判断する上でのポイントは、「本人の行動の自由を制限しているかどうか」です。と明記されています。※

つまり身体拘束と言うのは、ご本人の自由を奪うかどうかがポイントとなっています。
まさに日本国憲法第13条の通りです。このことも含めて、やはり「立たないで!」という言葉は利用者さんの行動の自由を制限しているため、スピーチロックであると言えるでしょう。
出典:厚生労働省介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き

スピーチロックを避けるための言い換え表現とは?

とはいえ、どうすればAさんが立とうとしている場面で「立たないで!」という言葉を使わずに対応することができるのでしょうか。ここからは、スピーチロックにならないための言い換え表現を紹介していきます。

言い換え表現は、疑問形で状況を確認する対応方法がおすすめです。

【具体例あり】スピーチロックの言い換え表現

では、ここから疑問形で状況を確認する対応方法の具体例を紹介します。

出典:https://mynavi-kaigo.jp/media

これらのように、「今何をしたいのか」「どういう意図でその行動をとったのか」を5W1Hを用いて質問することで、利用者さんの行動を職員さんの言葉で制限することなく、安全も担保できるようになるでしょう。

スピーチロックを起こさないために介護職ができること

執筆者

ささえるラボ編集部

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/3

ここまでスピーチロックについて伊藤先生に解説をしていただきました。
「自由を制限してしまうかどうか」がスピーチロックになるかどうかのポイントでした。しかし、忙しい介護現場において、スピーチロックは介護職の無意識で生じてしまうことがあります。

最後に、スピーチロックを起こさないために介護職ができることを紹介します。

1.研修や勉強会をおこなう

身体拘束や薬物拘束と異なり、明確な判断基準が難しいのがスピーチロック(言葉の拘束)です。そのため、介護職それぞれがスピーチロックとは何かであったり、具体的な例を理解し、意識を高めていくことが大切です。

研修や勉強会では、座学のほか、実際にスピーチロックの言い換え表現をもちいたロールプレイングなどを行うと、より理解が深まるでしょう。

2.利用者さんの立場に立って考えてみる

この発言を受けたら「利用者さんがどのように感じるか」、「行動は制限されるか」などを考える意識を持ちましょう。

とはいえ、忙しい中ですべて考えてから発言をするのは難しいことです。そのため、日頃さまざまな状況をイメージして、「こういうときはこんな風に伝えよう!」という自分なりのトークスクリプトがあると安心でしょう。

3.言い換え表現を活用する

そして、最後は伊藤先生の解説内で登場した言い換え表現です。
研修や勉強会を行ったうえで、日頃意識をしていると、さまざまな言い換え表現が思いつくでしょう。

それらを自分の介護のスキルとして蓄えるのはもちろん大切ですが、施設内で共有ができると、利用者さんは誰から介護を受けても安心できる状態となります。互いに共有し続けることで、施設全体としてスピーチロックへの意識が高まるでしょう。

最後に:利用者さんの気持ちを考えた介護を提供しましょう!

私たち介護職は、利用者さんファーストであり、利用者さんの命・健康・生活を支えています。そのため、これらを脅かす介護事故は絶対に避けなくてはなりません。

しかし、リスク管理に目がいきすぎてしまうと、いつの間にかそもそもの「利用者さんファースト=ご本人の思い」が抜け落ち、行動制限に偏っていってしまいます。これがスピーチロックが発生するカラクリです。

無意識にスピーチロックの状態へと陥らないよう、以下の3点を問いかけながら日々の介護に取り組んでみてください。

・自分の発言は日本国憲法第13条に照らし合わせてセーフと言えますか?
・リスク管理に偏りすぎず、利用者さんの意思を尊重していますか?
・もし自分が立たないでと言われたら(スピーチロックをされたら)どう感じますか?

冒頭に戻りますが、なぜ24年前なかったスピーチロックという言葉が注目されるようになったのでしょうか。それは社会の人権に対する認識が厳しくなったからです。

スピーチロックは介護職一人ひとりの意識でなくすことができます。スピーチロックをなくしていきましょう。

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